第47話 青い鳥
“白尾”と“白雪姫”
陽の光も刺さない薄暗い洞窟にて、2人の色白の少女が対峙している。そこに、三上四季はいた。
「シロ…」
シロの後ろから立ち上っている尻尾には、いつもの力強さを感じない。思うように動かせていないのか…だが、それでも。
「シキには、近づかせない…!!」
尾が軽く触れるだけで岩は豆腐のように砕け、豆腐のように穿たれる。その様子に“白雪姫”の顔にも緊張が見えていた。それが触れれば人体など容易に、それは恐らく、並の象物による強化していたとしても…。
「“鏡よ鏡”」
告げると同時、“白雪姫”のすぐそばに巨大な鏡が現れる。鏡の向こうは不気味に歪むだけで、そこには何も映っていない。
「この場で1番強い子はだあれ?」
鏡は白く歪み、やがて、そこに現れたのは真顔で立つシロ。鏡の中のシロは、シロを見つめ不気味に笑んだ。
「っ!!死ね!!」
シロは全身の毛を逆立て、鏡に向かって尻尾を放つ。白き龍にも似た尾は超速度で走り、鏡を砕き貫くかと思えたが──────
「そんな怖い顔しないで」
白龍は、鏡から同じように伸びた白龍とかち合い、止まってしまった。
「狐さん。もう少しリラックスリラックス」
「そうだよシロ。1回、深呼吸して」
「深呼吸…深呼、きゅー……」
シロの身体が揺らぎ、斜めに倒れかかるのを、三上は受け止めた。見ると、シロの眼は今にも閉じかけようとしている。
「シロ!ごめんやっぱ深呼吸なし!起きて!」
「ん…私…」
「ふふふ…いいのよそのまま寝ても。きっと、すぐに王子様がすぐ助けてくれるから」
「…!そうだ、オレが戦って…」
「それは、ダメって言ってるでしょ」
前へと出ようとする三上を、やはりシロは制止する。眠気を帯びた眼でも、その意思だけはいつまでも揺るがなかった。シロは2本の尾を振るい、立たせ、鏡の自分と真正面から向き合う。
「シキは王子様じゃない。私の、契約者で、親友なのっ!!」
「あら残念。王子様のいない物語なんて、悲しいだけだわ」
迫る尾に対して“白雪姫”はもうひとつ鏡を出現させる。シロの尾2本に対して、迎え撃つのは計4本の尾。
「っ、きゃあぁ!!」
「…!シロっ!!」
悲鳴とともに、衝撃で飛んでいく小さな身体。
三上は咄嗟に飛び込み、シロをどうにか受け止めた。
「シロ、もういいよ!1回逃げよう!これじゃあシロが…」
「う……ダメ、皆、が…」
「うふふ。そう、貴方、その子の王子様じゃなかったのね」
“白雪姫”は口に手を当て薄く微笑むと、バスケットから再びリンゴを取り出した。
「2人とも、一度眠ってしまいましょうか」
「…!」
「“一口、齧って”」
放られた毒リンゴは宙を舞い、三上とシロに向けて自由落下を始める。シロは虚ろな瞳でその様子を見つめ、三上はそんなシロを庇う。
毒リンゴが迫り、爆発しようとしたその時──────
「──────“白鵠”、風」
どこからともなく吹き荒れた一陣の風が、毒リンゴを吹き飛ばした。風が吹きすさぶ中、三上はその風と共に現れる小さな青い影を見た。
「おーおー、四季!律儀にわしの言うこと守っとるのー」
「ちゃ、ちゃほ先輩!」
「だ、だれ…」
喪服の上から青いスカジャンを羽織った、飛鳥茶誉がそこには立っていた。ポッケから数珠がはみ出している。
「お前は…!」
「今日から飛鳥家当主(仮)、飛鳥茶誉ここに推参っ!!よくもまあ忙しいタイミングでやってくれおったの三下契約者が」
強い物言いの割には、気の抜けた声で茶誉は言う。適当な調子の彼女を前にしながら、“白雪姫”はシロと対峙した時よりも切迫した表情となっていた。
「茶誉、“飛鳥家の青い鳥”…!」
「うわ、小っ恥ずかしいのーその呼び名。結構浸透しとるようじゃ」
「っ、“鏡よ鏡”!この場で1番有名なのはだあれ!!」
現れた4つもの鏡に、茶誉が映し出された。
「あれ、また…!」
「楽勝じゃ」
「ちゃほ先輩!気をつけてください!あの鏡は!」
「分かっとる。白雪姫で鏡、シロがやられとんじゃから、ある程度どういうことしてくるか予想はつく」
茶誉は落ちていた小石を数個拾うと、得意げに笑って見せた。
「その上で、楽勝じゃ。わしは負けん」
小石片手に、茶誉は“白雪姫”へと近づいていく。
「お前、わしのこと知っとるんじゃろ?」
「聞いたことがあるわ…“白鵠”の幸運で、名家三柱の中でも最強と名高い契約者…!」
「知っとるんなら話は早いの」
「…!どんな強力な攻撃だろうと私の鏡で──────」
身構える“白雪姫”に対して、茶誉は振りかぶって、小さな小石を投げる
「ほいっ」
鏡からも、同じように小さな小石が茶誉に向かって投げられた。
コツン コツン コツン
予想していた通り、鏡から投げられた小石は茶誉に弱々しくぶつかるのみ。その光景に“白雪姫”は怪訝な顔をした。
「な、なに、それ。そんなので私が、倒せるとでも?!」
「まぁの」
「ふざけるないで!来ないならこっちから──────」
コツン コツン コツン
“白雪姫”がバスケットに手を入れたその時である。
もう小石は投げ終わったはずなのに、まだ、なにかがぶつかる音がしていた。
そこで“白雪姫”の頭には、茶誉の放った小石の行方について、が過ぎっていた──────あの小石は、どこへ?
コツン コン コン ゴン ゴロン ゴゴゴゴゴゴ
音は次第にスケールアップしていく。
地響きにも似た音になった頃、“白雪姫”はその異変に気づいた。
「頭上注意じゃ、お姫様」
「なっ──────!!」
瞬間、“白雪姫”の頭上から、崩れた岩天井が降り注いでいた。咄嗟に彼女はその場から離れようとするが。
「ぅっ、がはああぁぁぁぁ!!」
あっという間に岩の下敷きとなってしまった。
上半身だけ外に出す形で“白雪姫”の体は岩の山からはみ出していた。
「動けんようにしただけじゃ。死なんから安心せぇ」
「な、一体、なにが…!」
「“運がいい”だけじゃ。わしの投げた小石がドミノ倒しみたいにあちこちを跳ね回って、こうなった」
「そんな、たかが幸運でそんなことが…!」
「それがわしの“白鵠”じゃからの。大体のことは幸運で片付く」
「…!!そんな、こと!あっていいわけないでしょ!!」
“白雪姫”はバスケットからめいっぱい毒リンゴを取り出し、上半身だけでそれを宙へと放り投げてみせる。
「全員!ここでおねんねよ!!皆で王子様を待つの!!」
「はぁ……なーにが王子様じゃ」
降り注ぐ毒リンゴの中、茶誉は焦るまでもなくポケットに手を突っ込んで、面倒くさそうに呟いた。
「“わしの幸運で、全部不発に終わる”」
「っ!“一口、齧って”!!」
“白雪姫”が叫ぶと同時、膨大な代力を含んだ毒リンゴ達は光り始め──────何も起こることなく、地面に落ちた。
「…!」
「今、わしの一言で少しでも“そうなるかも”と思ったじゃろ」
「なっ、な……!!」
「そうなったら終わりじゃ。わしのことを下手に知っとるとそうなる。解釈とはそういうものじゃから、のっ!」
茶誉が“白雪姫”の顎を小突くと、岩の下敷きになりながらも、彼女はぐったりと気を失った。




