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第43話 心傷

 暗闇を落下していていくおもちゃ箱。それは崖に何度もぶつかり続け、ボコボコになりながら、暗闇の底を目指す。だがやがて、箱に穴が空き、ビリビリに破れ始めると、箱は眩く光り始めた。


「……?!おいおいおいおい!!」

「うわあああ!!なんじゃこりゃあ!!」


 光が止むと、中から何人もの人が弾け出た。

 ほとんどが気を失っている中、明光院飾音と星衛桐緒だけが目を覚ましていた。落下の中、意識があるのはたったの2人。


「っ、解釈拡大!!みんな、頼むぞ!!」


 飾音は叫び、大量のコウモリを出現させた。

 コウモリ達は落下していくゴロツキ達の方へと向かい、その身を掴み、必死に翼をバタつかせる。主である飾音も、背から翼を生やし、出来る限り落ちゆく人々を助けようとした。


「おい!ロン毛!お前も掴まれ!」

「俺はいい。他の奴を助けてやれ」

「何言ってんだ!死ぬぞ!お前、星衛の人間なんだろうが!」

「そうだ。俺は、この程度じゃ死なねぇ!」


 桐緒は近づく飾音を振り払うと、ナイフを腕に押し当て、引き切った。鮮血が龍のように上へと登っていくと、桐緒の周りに青白く光る“霊芥(オーブ)”が漂い始める。


「契約──────“身体強化”、“身体強化”、“身体強化”…!!」


 暗闇の向こうに、ようやく地面が見える。しかし、その暗闇を照らす地も、今の状況では、迫る死へのカウントダウンと同じ。反射する岩肌を睨みつけ、桐緒は覚悟を決める。


「よっしゃ、来──────ぅぼぁ、!!」


 ──────思ったより早く来た。とか、考えていた。着地と同時に体勢を崩し、桐緒の体全身に衝撃は走った。


「…ロン毛!!」


 聞こえた鈍い音に、思わず叫ぶ。

 飾音は救出した一般人と共に、ゆっくりと落下した。桐緒の救出が間に合わなかった罪悪感を胸に、着地と同時に倒れた桐緒の方へと駆け寄って行く。


「おい!ロン毛!死んだか!?最後なんて言ったんだ?!“よっしゃ”みたいな。あれが遺言でいいか?!」

「…か…いりょく……か」

「……あ、生きてるわこれ」

「“再生力強化”……再生、力……」


 桐緒は血まみれの顔でブツブツと呟いている。

 その様子に飾音はホッ、と肩を撫で下ろした。何となく死んでいない気はしていたが、思った以上に元気なようだ。


「おーらいおーらい!よし!みんな、ありがとー!」


 コウモリ達に、慎重に一般人を下ろさせ、ようやく安全を確保。落下していた20人余りのゴロツキ達は無事である。無傷のまま、着地できたのだった。


「さて、どこだここ」

「あー……?三途の川のせせらぎが聞こえる…」

「渡るなよ?絶対に渡るなよ?フリじゃねぇぞ!?……てか、ロン毛お前、結構余裕あるのな」

「体の丈夫さには、自信アリ…」


 実際、川のせせらぎは聞こえていた。すぐ近くに川が流れており、周辺は高くそびえる岩肌に挟まれていた。

 飾音の予想では、やはりここは“童の足跡”の本拠地。連れ去った目的は“白尾”で、私たちは必要ないから、こうして投棄されていたのだろう。


「…あ?なっちゃんいなくね?」


 見逃したのかと、ゾッと一瞬悪寒が走ったが、見てみると茶知菜の姿形はどこにもない。おもちゃ箱が崩壊し始めるその瞬間までは一緒にいた気がしたが……。


「四季とシロも気になるけど、ロン毛をここに置いていくのもなぁ……」

「おほっ?なんでありましょう」


 男どもの呻きしか聞こえないはずのその空間に、テンション高めな声が聞こえた。遠くから、誰かが歩いてくる。


「いやはや、人の気配が沢山しますねぇ。何も聞いていないのですが」

「あぁ?誰だ!!」


 それは、川の上流の方から歩いてくる。

 横長なシルエットから、かなり太っている人間であると分かる。その気配に、飾音は何故か無意識に身震いをしていた。


「おほっ!おにゃの子の声!語気強めな喋り方に、小生興奮するしかないwww」

「…!!」


 特徴的な喋り方に、チェックのネルシャツ、黒縁メガネと頭に巻いた赤いバンダナ。その出で立ち、その顔に、飾音は見覚えがあった。


「おま、お前、なんで、お前…!」


 飾音の呼吸が荒くなる。

 恐怖が、トラウマが、飾音の精神を蝕んでいく。


「マジで女の子いるし、しかもJCとかwww草生えるwww草に草生やすなwww……ん?んん?」

「はぁ……はぁ……」

「……!!おほっ!おほっ!おほっ!」


 現れた男の方の鼻息も荒くなった。

 顔色を青ざめさせていく飾音とは対照的に、男の顔は興奮気味に、薄ら赤く染まっていった。


「か、かかか、カザネン?!な、夢?!夢かよ?!はっ、キターーーー!!!」

「はぁ、はぁ、はぁ…!」


 小躍りする男の姿を前に、飾音はフラッシュバックする。思い出すのは、まだ“カザネン”だったあの頃──────


『カザネンっ!カザネンー!ずっと一緒だよーッ!!』


 なんてことの無い、握手会があった日。

 私が“カザネン”を止めたあの日。

 貫田が刺されたあの日。

 この男が、ナイフを私に振りかざしてきたのだ。


「うっ、うぼぁあ…!!」


 込み上げてくる吐き気に耐えられず、嘔吐する。

 何故こいつが?“童の足跡”の一員なのか?そんな疑問も掻き消えてしまうほどの恐怖が、飾音を掴んで離さない。


「カザネンの、ゲロ…!劇中ではまず見られない激レア映像、小生の心のフィルムにしかと焼き付けましたぞwww」

「……るせぇ。黙れよデブ!!」


 震える手で、口を拭った。

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