第41話 白い恋人
偽りの青空の下、ロープで拘束された男達。
三上達は襲い来る“くるみ割り人形”を全て対処し終え、広い車道にて、立っていた。
「……もう、いないな」
「やるじゃん!なっちゃん、って言ったっけ?君」
「馴れ馴れしく肩を組むな」
「……で、どうするんだ四季」
「穴を空けよう。シロの力で」
三上がシロを見ると、他の面々もシロの方も向く。桐緒が向いた瞬間だけ、シロはビクリと身を揺らした。
「桐緒くんが言うには、今オレ達はおもちゃ箱かプレゼントボックスだかに入れられてるんだよね」
「予想だけどね」
「じゃあ穴を空けちゃえば出られるでしょ」
「そんな感じでいいのか…?」
「箱に穴が空けば中身は出ていく。何も無茶な解釈ではない。シロがやるとなれば成功率も高いだろう。とりあえずやってみろ」
シロは、三上の背後からおずおずと出てくると、その身から白の尾っぽを顕現させる。尾は次第にサイズを大きくしていき、やがて人間大くらいになった。
「……シキ、どこにすればいい?」
「ここ」
三上が示した位置に向けて、尻尾は振り下ろされる。尻尾が触れ、ドリルのように回転し始めると、コンクリートで出来ているように見えた車道は破れた紙のように歪んでいく。
「「おお〜」」
気の抜けた歓声。
尻尾が進行を止めた頃には、そこには真っ黒な底の見えない虚が出来ていた。三上が予想していた通り、それは外に繋がっているように見えた。
「お疲れ様、シロ」
「……うん」
尻尾をしまうと、シロは即座に三上の元へと駆け寄っていく。
「ここからどうするんだ」
「出るんだろ?ちゃっちゃと行こうぜ」
「いやいやいや、ここがどこに繋がってんのか分かんないよ?空間系の能力って結構繊細なのよ。出た先がワケの分からない次元の狭間ってこともあるからね」
「お詳しい、名家様が先に行けばいい」
「いんや。こういう時は、何があっても不思議パワーで何とか出来るヤツに先陣切ってもらうべきだ」
桐緒の目が、少女の方へと向く。
気づいたシロは咄嗟に三上を盾にした。
「桐緒くん、シロに行けって…?」
「この鬼畜!鬼ロン毛!お前には血も涙もないのか!!」
「最低だな」
「いや、マジで合理的な判断なんだって、君らも知ってるかもしんないけど、“白尾”ってマジでなんでも出来るのよ」
「……分かった。やるよ」
緊張した面持ちでシロは前に出る。
「シキ、カザネン、なっちゃんの為になるなら、やる。オマエはどうでもいいけど」
シロも、自分自身が1番強い力を秘めていることを知っている。ここで初めてシロは、三上だけでなく、他の周りの人間のためにその力が使おうと思った。
この間、飾音と茶知菜は無言で桐緒を睨みつけていた。
「ま、まあ本人がやるってんだからいいじゃない。多少は危険だろうけど、誰が行ってもそれは同じだし」
「うん……オレも一緒に行くよ。シロとオレは、契約してるんだし」
無言で頷くシロの手を握る。
先の見えない黒い穴は、蠢きながら、上に向かって風を吐き続けている。3人からの目線を感じながらも意を決して…。
「シロ、行こうっ!」
「うん!」
穴へと飛び込んだ。
落下感。
見えていた仮初の“箱庭”は急速に小さくなっていき、足元の浮遊感と共に三上の不安を煽る。頼りなのは横にいる小さな少女……否、少女の頼りが自分なのだ、と三上は思い直す。
先の見えない暗黒にて数秒、経過したかと思うと……。
ピ チ ョ ン
いつの間にか2人は地面に着地していた。
なんの衝撃もない。なんなら着地した感覚もなかった。元からその地面に足を着けていたかのような、そんな感覚。
ジャッ ジャッ ジャッ
砂利の転がった道をすり足で走る音に、三上は顔を上げる。
「…!!」
薄暗い洞窟の中、前方におもちゃ箱を持った金髪の少女が先を走っていた。三上はその箱が、さっきまで自分のいた場所なのだと気づく。
「っ、待って!!」
三上の咄嗟の声に、走っていた少女は目を見開きながら振り向いた。
「え…だれぇ?!って、あら!箱に穴空いてる!」
童話から飛び出してきたかのような容貌の少女は、ファンシーなマスキングテープを取り出すと、箱の底に空いていた穴をあっという間に塞いでしまった。
「これでよし。さて……」
「塞がれた…!みんな!」
「シキ──────」
少女と目が合い、戦闘の気配を感じた三上は闘いへと向かおうとする。が、その1歩目で三上はシロの手に制された。
代わりに前へと出たのは、シロだった。
「シキはもう戦わないで」
「え…?なんで」
「もう何も考えないで、何もしないで。シキのことは、私に守らせて欲しい」
白尾が揺らめく。
標的を射抜かんと、その矛先を少女へと向けた。
「“ネズミの王様”!!」
告げると同時、少女の背後から大量のネズミが群れなし、一つの姿を形作る。そこに現れたのは、巨大な7つ首のネズミ。ネズミは首を揺らしながら、三上達へと襲い来る。
「なんで急に、そんなこと」
「契約したでしょ。シキは私のもの──────」
飛び上がるネズミの王。
その巨体は、2本の白によっていとも容易く穿たれ、消える。散っていくネズミの軍勢をバックに、シロは三上を見据えた。
「私のものは私が守る。もう誰にも触れさせない」
白尾は暗がりを走り、標的であった少女を捕らえた。苦しそうに呻く少女には見向きすらせず、シロは三上に向かって笑顔を作った。
「だからね。もうシキは何もしなくていいんだよ」
三上は静かに息を呑む。
シロのその瞳には、病的なまでの狂愛が宿っていた。




