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第40話 微妙なメンツ

 

 三上達は疾走する、誰もいない街並みを、人形みたいに走り回る男達に追い立てられながら。


「はぁ…はぁ…桐緒くん。オレもう走れないかも…」

「もうちょっと頑張れ!この辺に確か…!!」


 歩道を走っていた桐緒は突然、方向転換したと思うと、路地裏へと向かっていく。

 三上は息も絶え絶えでそれについていくと、そこには建物の裏口らしきドア。


「入れ!早く!」


 開かれたドアに向かって三上達は駆け込んでいく。三上とシロが入ったのを確認してから、桐緒は勢いよくドアを閉めた。


 ガ ン ッ !


 ドアのわずかな隙間から、木製の腕がはみ出る。


「っ、しつけぇ!」


 その伸びてきた腕を押し返すように、桐緒は蹴り、ドアの鍵を閉めた。ガンガンガン、とドアを叩く音が部屋をこだまする。

 一旦の安全に、3人はほっと息をついた。


「ひとまず、だな」

「はぁ、あ……はぁ……死ぬ……」

「シキ、大丈夫?」


 シキは小声で喋りながら、三上の身を案じる。

 三上は息を切らしながらも、首を縦に振った。


「どうすっか……これじゃ出れねぇし」

「はぁ、あの、人形……はぁ、倒しちゃダメ?」

「ありゃ一般人が操られてるだけだ。人殺したくないなら止めとこうぜ」

「そ、そっか」

「とは言っても、ここは我らが本拠地“箱庭”だ。連絡して助けさえ呼んじまえば……」

「無理だぞ」


 と、お札を取り出す桐緒を止める声が部屋に響いた。

 三上でもシロでもないその声に、桐緒は思わず身構える。だが、その声に対して最初に声をあげたのは、シロであった。


「カザネン!」

「うす。まさか逃げ込んだ先が同じとはな」

「……俺もいるぞ」

「なっちゃん」

「誰だよ」


 端っこで飾音と茶知菜が、揃って腰を下ろしていた。テンション低めだったシロは、ご機嫌な様子で飾音に抱きついて行った。

 桐緒は突然現れた2人に怪訝な顔をしている。


「飾音となっちゃん。道場の同じ教室で、同じ授業受けてる」

「要するに“憑景の衆”の契約者な。なら大丈夫か」

「それより飾音。無理ってのは…?」

「さっき私らも変な人達に追っかけられて助け呼んだんだ。でも、どこにも繋がらなかった。なぁ?なっちゃん」

「郊外に逃げようにも、透明な壁のような物があって外に出れない」

「どうも私ら以外の人も見当たらねぇ」


 飾音はそう言いながら、抱きつくシロをあやした。茶知菜は真顔でお手上げのポーズを取っている。ドアを叩く音が鳴り響く中、桐緒は何か思い当たったのか、手をポンと叩いた。


「これは、もう俺たち捕まってるな」

「捕まってる?なんで?」

「俺たちがいた“箱庭”内の空間が切り取られてんだ。今俺たちがいるのは“箱庭”じゃねぇ」

「連絡がつかないことと透明な壁はそういうワケだな」

「童話だし……おもちゃ箱だかプレゼントボックスだかで俺たちは、この空間ごと運ばれてるはずだ」

「もう手遅れってこと?」

「手遅れ、かもな。あっちから開けてくるか、誰かが助けてくれねぇ限りは無理そうだ」


 しん、と計5人が沈黙する。

 相変わらずドアを叩く音が鳴り響いている。そして、沈黙に耐え切れなくなった桐緒は口を開く。


「雑談でもするか」

「なんでそうなるの…?」

「万策尽きたからな。ここにいるのは全員、葬式出なかったんだろ?さすがは石川せんせのとこの連中だ。肝が据わってるな」

「いや、私はちゃんと出たぜ。長かったから抜けてきたけど」

「俺はそもそも行ってない。名家三柱のために出向くほど恩はない」

「その名家三柱の次期当主なんだけど」

「だったらなんだ」

「そうだぞロン毛。“次期”だろうが。調子に乗るな」

「……いいねぇお前ら」


 ぶっきらぼうに答える2人に、桐緒はくつくつと笑った。偶然にも、この場にいる誰もが地位だの立場だのを気にする人間ではなかった。


「あれ?てかなんかシロ大人しくね?」

「確かに。いつもの天真爛漫さはどうした」


 ピクリ、と飾音に顔を埋めていたシロが反応する。


「シロは桐緒くんのことが苦手なんだ」

「へぇ、珍しい。分け隔てなく接してたイメージなんだけど。おぅおぅどうしたこの兄ちゃんそんな怖いんか〜」


 飾音は冗談っぽく揺するが、シロは無言で、露骨に桐緒のいる方向を向かないようにしている。


「よっぽどだな」

「おいロン毛。シロに何かしたか」

「あー、悪いとは思ってる」

「これは何かしたっぽいな」

「おいロン毛!こんな小さな子泣かして何が楽しいんだよ!」

「でも、初対面のときから苦手なんだよね。なんか、桐緒くんのこと怖がってるというか」

「ガキに受ける顔はしてねーよなロン毛……おっ、見ろシロ!今アイツ結構可愛い顔してるぞ!」

「え……?ひっ!!」


 恐る恐る見てみるシロの目線の先には、変顔をした桐緒。驚くを通り越して恐怖を感じたシロは即座に飾音の腹に顔を埋めた。


「カザネンのバカァァァ!!」

「おーよしよし……マジで怖がってんな」

「こんな可愛い顔なのによー」

「今のは怖い部類の顔だろーが。節穴か、お前の目は」

「節穴でなくとも、自分の顔は見られないだろ……あ。おい、シロが泣いているぞ」

「くすん。くすん……」

「節穴……節穴……か」


 涙ぐむシロ。

 だが主である三上は何か思いついたのか、俯きながらブツブツ呟いていた。

 しばらくして、怪訝な目の注目が集まる中、三上は目を見開き、顔を上げた。


「穴だ!」

「お、なんだ下ネタか」

「黙れロン毛」

「切り取った空間だよね。ここに穴を開けられないかな?」


 三上は立ち上がり、涙目のシロの方を見た。

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