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第38話 暇な時間

 

 ピピピピピ…

 慣れない電子音に、イラつきながらも手を伸ばす。が、ベッドに入ったままでは届かない。


「むっ……ぎぎぎ、ぎ……!」


 ベッドから出ようと試みるも、無理。

 白い尾と小さな2本の腕が完全にオレを捕まえている。


「ん……シキィ…好きぃ……」

「ちょ、シロ!離して!起きれないから!!」


 ピピピピ…

 想像以上の音量で電子音はなり続けていた…。


 〜〜〜〜〜〜


 電子音が鳴り止んだ室内。

 窓を開けると、無風の空気がヌルりと流れ込んでくる。

 まだ少し涼しいくらい。

 蝉の音まで、まだ遠い。


「いや…蝉は“箱庭”にはいないのかな」


 朝焼けに目を細めながら、体を伸ばした。

 三上四季、“箱庭”に住み始めてもう二ヶ月が経とうとしていた。見覚えのない山とビルが見れるこの奇妙な街並みにも、もう慣れてきていた。


「シキー、パン焼けたよー。何塗るー?」

「え……ウチ何があったっけ」

「この前カザネンが買ってきたお茶ジャムがあるよ」

「お茶ジャム…?じゃあ、それにしよっか」


 机に並べられた朝食は、いつもより品数が少ない。それもそのはず、今日は恋花が家にいないから。


「「いただきます」」


 2人揃って手を合わせて告げた。


 一昨日のこと、“憑景の衆”を支える三柱と呼ばれる3つの家系である飛鳥、空木、星衛。その当主である人間が殺害された。飛鳥と星衛の死体には、喉元に鋭利な刃物で切り裂いたような跡が残っていた。空木の当主の死体は……行方不明のまま。

 今日はその御三家当主の葬儀の日であり、恋花がいないのはそれが理由であった。


「飾音もいないしなぁ……暇。てか、大学はもう授業始まってるよな……どうなってんだろ、オレの扱い」

「ねふぇ、きょうふぁなにふるの」

「食べながら喋らないよ……うーん。とりあえず外、出てみよっか」


 なんか、何もかもどうでもいい気分だった。

 退屈しのぎに外へと出てみよう。


 〜〜〜〜〜〜


 街には人っ子1人いなかった。アスファルトの道路にも、タイルが敷かれた歩道にも、歩く人は一人もいない。あと、並んでるお店には全てシャッターが下りていた。

 不自然な光景。まるで、この世界でオレとシロだけ生き残ったように思えるほど。


「凄いね。皆お葬式に行ったのかな」

「それくらい凄い人達だったんだよ」

「お葬式したって生き返るわけじゃないのに…」

「そーいうこと言わないよ。翔真のお葬式があったら、シロだって行くでしょ?」

「そんなの、行っても悲しくなるだけ。私は、行かないよ」


 シロは不機嫌な顔で小石を蹴り飛ばす。

 その一挙一動が、何故だか鮮明に感じ取れた。

 これは、オレがシロと“契約”したからだと、恋花は言う。同じように、シロもオレのことが分かるらしいが…。


「ねぇ、シロ。オレ達いつ契約したんだっけ」

「覚えないの?つい一昨日よ」

「一昨日って……オレ何してたっけ」

「いつも通り悪い人と戦った時」

「…?そうだっけ」

「そうよ。でも、そんなに気にしなくてもいいと思う」


 白い尾が三上を包み込む。

 三上は突然伸びてくる尾に驚き、抵抗したが、すぐに受け入れる。やがて身動ぎひとつせずに、身を尾に任せた。


「私のことだけを考えて。私のことだけを」

「オレは──────」

「へーい。なにやってんのぉ」


 遠くから聞こえるザワザワとした音に振り向くと、ガラの悪い群衆が歩いてきているのが見えた。ガラの悪い、というのは金属バットやらを持ち歩いているところを見て思った。純朴な野球少年のこの可能性も捨てれない。


「ど、どうも……」

「なに、君らもなんか盗りにきた?」


 彼らはやたらフレンドリーに肩を組んでくる。

 もぬけの殻となった“箱庭”で悪さを働こうという輩だろうが、どうやら三上とシロのことを仲間だと思っているらしい。


「こんな小さな子供に苦労させるなんてよ、つくづく“憑景の衆”ってのはクソだよなぁ」

「は、はぁ……」

「おっ、嬢ちゃん可愛い服着てんじゃねぇか。兄ちゃんに選んでもらったのか?いいセンスしてるじゃねぇか」

「ほんと?そうなの……そうなのよ!!」


 ワイワイガヤガヤと連中は三上とシロを中心に集まってくる。何やらシロも楽しそうだ。

 ひとしきり盛り上がった後、おもむろに鉄パイプだの鈍器を渡してきた。


「おっしゃあ!!じゃあ可愛いマスコット達も仲間になったってことでぇ!!テメェら元気に行くぞオラァ!!」

「「おおッ!!」」


「おー♪」

「ええっと、シロ?なんで乗り気なの」

「だってこの人達いい人よ?暇なんだし、着いて行きましょうよ」

「いや、いやいやいや。絶対この人達、この状況に紛れて色んなもの盗んでいく人達だよ」


 三上はついて行こうとするシロを制止する。

 群衆の列は蛇のように動き、あちこちの店のシャッターを壊しては、中をめちゃくちゃにして行く。店から店へ、店から店へと……。

 三上とシロはその光景を離れたところで見ていた。


「お祭りみたいね」


 しかし、続いていたガラスの破裂音は突如止まった。それと同時に男達の雄叫びが聞こえ始める……そして、数分後。


「はぁーあ!!ビックリした!!」


 倒れた群衆の山の上から、血まみれの星衛桐緒が歩いて出てきた。

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