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第36話 契約

 三上から生えた白い尾は、急速にそのサイズを膨大させ、会場でのたうち回り始める。


「あ、ああ、ああああああああぁぁぁ!!」


 絶叫。

 三上の口から出る声は、言葉ではなかった。

 喉を引き裂くような呻き。白い尾が動きを増す度に、その声は苦しい掠れ声になっていく。


「な、なんなんですかアナタは!」


 貫田の瞳に恐怖が宿った。

 彼女の目に映る三上の姿は、象物(ヴィジョン)よりもはるかに恐ろしいバケモノに見えていた。

 白い尾と獣の耳。霧など、簡単に振り払われてしまう。

 そして、そのバケモノはフラフラとした足取りでありながら、貫田の方へと近付いて来ていた。


「ひっ…!止まれ!止まって!……なんで!アナタは!!」

「う、ぐ、ああ、あああぁ!!」


 三上の脳内には存在してないはずの記憶が、嵐のように吹き荒れていた。


『シキ!一緒に遊びましょ!』

『シキ。家に籠ってないで外で遊ぼうぜ!』

『シキ、翔真が呼んでる。お前いないとテンション低いんだよアイツ』

『シキくん。そんな怖がらんでも、皆優しいで』

『シ、シシシキ様!い、行きましょう、一緒に!』


 シキ、シキ、シキ。

 誰か知らない子供たちがオレ(ボク)の名を呼んでいる。

 中には翔真やシロに似た黒髪の少女、クロもいる。それに、カミナリらしき人物も。

 誰の記憶なんだ?ボク(オレ)の記憶ではない。

 だとしたら、オレ(ボク)はシキではない?三上四季、それはボク(オレ)の名ではないのかもしれない。


 この体は誰なのか?


「ひっ…!来るな!来るなぁ!!」


 敵が怯えている。

 可哀想に、怖いだろうに。

 でも、彼女は敵だ。殺さなくては。


「こロさ…ナいと…」


 大蛇のような白い尾はのそりと立ち上がり、

 その先端が倒れている貫田へと向く。

 三上の意思など関係ないように、尾は貫田へと飛ぶ。


「わっ、私が死んだら飾音が悲しみます!アナタは私を殺すべきじゃありません!」

「カザ、ネ…?」

「っ!──────猩々“守り”!!」


 無造作に振り下ろされた尾は、霧に溶けていた全タヌキによる防御によって防がれた。

 だが、タヌキが変化した鉄の盾はたった1本の尾を退けただけで砕け、吹き飛んだ。

 白い尾は、2本ある。


「だレ、カザネって…」

「や、やだ…!」


 もう一本も、もちろん、三上の意志とは関係なしに落とされる。


 が、その直前に。


「この、バカシキ!!」


 同じ白い尾によって、その攻撃は止められていた。

 霧のなくなった会場の中、小さな白い影が三上に走っていく。


「何やってるの!勝手に、私の尻尾で!!」


 パチン、と小さな手の平が三上の頬を叩いた。

 白い尾の主、シロは目に涙を溜めながら三上を睨みつけている。

 三上は壊れたロボットのように、首をシロへと回す。


「シ、ロ。」

「ダメでしょ!人を殺したら!」

「でモ、コイツ、敵」

「敵でもなんでも、人を殺したらダメなの!シキはいつも私に言ってくるじゃん!」

「そレは、シロに嫌な思ィさせタくないかラ」

「だったら、私もシキに嫌な思いさせたくない!!」


 ふぅ、ふぅ、と息を荒らげてシロは拳を握る。

 しかし、シロの声も、記憶の暴風雨の中では、小鳥の囀りにしか聞こえない。

 彼には届いていない。


「…?シキ、っテ誰、だ?」

「シキはシキでしょ!私に優しくしてくれる人!私のこと、大事にしてくれる人!私の大好きな人!」

「オレは、そンなノじゃ──────」


 ロボットのように喋り続ける三上の口は、シロの口によって塞がれた。

 半ば噛みつくように交わされたキスは、2人の口内に鉄の味を広げていった。

 シロは三上の口の中に流れ出る血液を全て舐め取り、ため息混じりに言う。


「契約、しよ。私と」

「あ、ウ、契、約…」

「私の全部、シキにあげるから、シキの全部、私のモノにするの」

「シ。ロ」

「ちょうだい」


 シロの尻尾は、三上の身体を尻尾ごと包み込み、抱き込んだ。

 すると、淡く三上の手の甲が光った。

 気づくと、三上から生えていた尻尾や獣耳は嘘みたいになくなっていた。


「う、ぅ……」


 最後に短く唸ると、三上は糸の切れた人形みたいに、シロの小さな身体にもたれかかった。

 シロは安心と愛情のこもった目で三上を見つめた後、貫田とクロを交互に睨んだ。


「ひっ……!」

「もう、帰ってよ!」

「……そうね。見たいものは見れたし、もう帰ろうかしら」

「アナタはシキに謝って!アナタがシキをこんなにしたんでしょ!」

「望んでしたんじゃないわよ。そこの人を殺してくれたら良かったんだけど……その状態じゃ、自分の意思で殺したとは言えないものね」

「え……?私、殺される予定でした?!」

「分かんないけど、アナタは悪いヤツなのね」

「私が悪いヤツなら、シロ、アナタも悪いヤツになってしまうわ」

「意味わかんない」


 クロは口元に手を当て、コロコロと笑う。

 シロはその様子に、ふしゃーと威嚇をしてみせた。


「それじゃあね。また会いましょ、シキ、シロ」


 クロは黒い尻尾で貫田を回収すると、入り口の引き戸から踊るように出て行った。


 会場の中央、ポツンと座るシロと項垂れる三上。

 誰かが来るまで、シロは大事そうに三上を抱きしめ続けていた。

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