第34話 黒と白
宴会会場から出てきたのはカミナリ。
彼はシロ抱えて出てきた。
そして、三上と恋花のすぐ横にいるのも、シロで間違いなかった。
「なに油売ってんだ。早くこっちこい」
要するにシロが2人いる状況。
三上と恋花がそんな混乱を整理する間もなく、カミナリは誰かに言葉を投げかけた。
すると、言葉に反応して、三上達の隣にいたシロが悠々と前に歩き出した。
「相変わらず空気が読めない。いいところだったのに」
「うるさい。こっちの段取りがあるんだよ」
「…!シロ、そっちに行ったらダメだ!」
「シキ。私はね、違うよ」
シロ(?)は振り向き、目を細めながら三上を見つめる。
「薄々分かってるでしょ?私はシキが知ってるシロじゃない。牛の怖い人も言ってた通り。あっちにいる方が、シキの知っているシロ」
カミナリが抱えているシロを指して言った。
そんなシロを、恋花は警戒する険しい瞳で見つめ返した。
「恋花。アナタも、もう分かってるんでしょ?私が何者なのか」
「何のこと」
「私とアナタは1年前に会ってる。気づいてるはず」
「…!恋花、何か知ってるの?」
「…私は確信を持ててない。けど、見当はついてる。あの子は──────」
それはシロと出会ったその瞬間から、恋花が抱いていた疑念。
薄く笑んだ少女の顔を見据えて、恋花は複雑な気持ちで告げる。
「シロだけど、シロじゃない。翔真と一緒にいたシロと、四季が一緒にいたシロは、全く別の象物」
「…!」
「“白尾”は2人いる…!その両方が今、私たちの目の前にいるってこと、だと思う」
「ご名答!こんな状況で、言われるまで気づかないって方がおかしいけどな。ってことで、もう面倒だから、色変えてくんね?ややこしい」
「…そうね」
一瞬、悲しそうな顔をすると、シロだった少女は踊るように階段を上がった。
一段、一段、のぼる毎に少女の髪色と服の色が白から黒へと姿を変えていく。
階段を上りきった頃には、耳の先から尻尾の先まで、その姿は漆黒に染まりきっていた。
「クロ、とでも名乗っていこうかしら。カミナリの言う通り、見分けはついた方がいいものね」
「よし。じゃあ手筈通り──────」
「ク、クロ!……クロが、翔真といた象物っていうならなんで、なんでソイツと一緒にいるんだ!」
宴会会場の中へと入るとするクロに向かって、三上は叫ぶ。
カミナリは翔真を殺した張本人。だとしたら何故その女とクロは共に行動しているのか。
三上はその疑問を口に出さずにはいられなかった。
「カミナリは、コイツは許しちゃいけないヤツだ!」
「私にも事情があるの。シキには分からないだろうけど、私にもやるべき事がある。誰と行動しようと、やらなくちゃいけない事が」
「その、やらなくちゃいけないことって──────」
「もういいわ。四季」
食い下がれない三上を片腕で制し、恋花が一歩前へと出る。
拳を固く握り込み、目の前の敵を打ち倒すためのファイティングポーズを取った。
「わかったのは、そこのクロとカミナリとかちうのが敵で、今はシロを取り返さなくちゃいけないってこと…!それだけよ!!」
「恋花、アナタに私が殺せるの?」
「殺さないわ…!捕まえて、何もかも聞く!クロ、アナタをどうするかはそれから考えることにした!」
「なるほど。なるほどなるほどなるほど」
カミナリは抱えていたシロをクロに渡し、階段を降りた。
「三上四季。宴会場に入れ。シロを返して欲しかったらな」
「どういうことだ」
「こっちも色々と上からのご命令があってな。しょうがなく、だ。いいから行けよ。このままじゃ、クロがシロを連れ帰っちまうぞ」
「…!」
「はっ!クロだのシロだの、笑っちまうな」
カミナリが後ろの扉を指すと、シロを抱えて宴会場の中へと入っていくクロの後ろ姿が見える。
“上から”
カミナリが“猩々”のボスだとするなら、“猩々”に命令を与えている者がもっと上、別にいるということ。まだ見えていない敵がどこかにいるということになる?
だが、三上にそうこう考えている暇はない。
シロが連れていかれてしまう。
「おら、早く行けよ…っと、お前はダメだぞ」
「……」
「いいから、早く行けって!」
カミナリに止められる恋花を尻目に。
三上は急かされながらも、クロの入っていった会場へと足を踏み入れていった。
〜〜〜〜〜〜
バタン
三上が通った宴会場への扉が閉められる音。
それを合図に、恋花のハイキックがカミナリの首元へと走る。
精密なコンパスを思わせる扇形の軌跡は、首元に到達する前に停止した。
カミナリの手の甲が、阻まんと置かれていた。
「今かよ。仕掛けるならもっと早く仕掛けてこい」
「四季がいたから。貴方が血まみれになるショッキングなとこは、あの子に見せられない」
「憑景に身を置く人間が、血を見せられないだと?過保護すぎんだろ、ママさんよぉ?!」
牽制と銘打つには速すぎるジャブが瞬く。
人中、顎、喉、急所のみを的確に射抜かんと伸びる拳も、標的たる恋花の目の前で届かずに落ちた。
同様に手により防がれたからだ。
「「……」」
両者は睨み合い、互いに距離を取り合った。
強者故の、何も交わされない中での読み合い。
数秒の永い、静寂の冷戦は、カミナリの声によって破られる。
「裏方のクセになかなかやるねぇ。流石の憑景、ウチ好みの肉弾戦重視の契約者だ」
「どうも」
「それだけかよ!ほら、もっと聞きたいことあるだろ?ウチらが何者だとか、どこから湧いて出てきたのとかさぁ!」
「貴方のデタラメに付き合ってる暇はない」
「……あ、そう。言葉じゃダメなら、これでどうよ」
そう言い、カミナリは懐から1枚の札を取り出す。
たった1枚の文字が綴られている紙。
たったそれだけの物に、恋花は目を見開き、心を揺さぶられた。
「“境跳の符”…!」
「いい顔だ。しかも?それなりにストックもあるんだよこれが。だからここに来れたって話だ。そら驚け、もっと勘ぐれ」
それは“箱庭”と、元の世界である“現世”を繋ぐための札。消耗品ではあるが、一瞬で、境界点を介さずに、箱庭と現世を行き来する唯一の方法。
それ故に持ち出される人間は限られている。
持ち出せるとしても名家の人間、その中でも権利を持った者。
知った上で、心の底から驚いた上で、恋花は口をつぐみ平静を保つ。
「おろ…聞かないの?気にならない?」
「貴方を動かなくしてから聞く方が手っ取り早い」
両雄、己の拳を視界内の敵へと合わせる。
「名家同士、仲良く殴り合おうぜ」
返事は無い。
そこにいたのは誇りと友への信頼をかけて戦う者のみ。




