第33話 二つの尾
“憑景の衆”本部屋敷。宴会会場前
横に長い扉と階段の前に、三上四季と薄川帝誠はたどり着いた。
帝誠は三上を仲間達の元へと送り届けるために同行していたが、ここに到着するまで誰とも出会うことはなく。
気がつけば、開けた場所へと出ていた。
「帝誠さん、ここどこですか?安全が確保できるとこまで連れてってくれるんじゃ?」
「むぅ……」
帝誠は顎に手を当て、唸っている。
誘導されているのでは、と三上は考えたが、この様子ではそうでもないらしい。
「宴会場か…予定通りであれば、ここで何が開かれていたんだ」
「知らないです。偉い人が来るとだけ聞きました」
「お前……何も知らないにも程があるだろう」
「今日はいきなり連れてかれたんです」
「せめて何があるのかくらいは聞いておけ」
帝誠は呆れながらも、階段上がろうとした。
その足が階段を登りきる前に、もう2つの人影が、その場所にたどり着いていた。
「四季!四季よね?!」
「……恋花!それに──────」
シロ、と三上は言いかける。
空木恋花の横に立っていた小さな姿は、確かにシロである。だがしかし、三上も恋花と同様にその姿に違和感を感じていた。
シロにしか見えない。それでもシロではない。
その正体を確かめようと近づく、その前に。
「“ミノタウロスの斧”」
帝誠は武器を手に、跳んだ。
何の宣言も、雄叫びもなく振り下ろされる一撃は、標的であるシロに向けて。
ガ ギ ィ ン !!
金属どうしがかち合う音。
人一人容易に切り裂くその攻撃は、たった1本の脚によって止められていた。
「薄川帝誠!なんでアナタが四季といるのかしら…!!」
「っ…!!どけっ!空木の小娘!私はそいつに聞かねばならんことがあるっ!!」
脚のみで斧は押し返され、帝誠はバックステップで距離をとる。
帝誠は獣のように呼気を振り撒いている。
珍しくも取り乱した様子の帝誠に、三上は驚く。堅牢な城塞のような人が、砲撃を放つが如く怒っていた。
そんな彼に、シロらしき少女は余裕の表情を見せている。
「怖いわおじさん。なんでそんなにシロを睨んでるの?」
「我らが主のこと、貴様が何か知っているのだろう!主をどこへやった!!主は今どうなっている!」
「主ぃ?それってだれのことかしらぁ?名前言ってくれないと分からないわぁ…」
「…!くっ、貴様…!」
“主”
その言葉をきっかけに帝誠は頭を押さえ始める。
何かを思い出そうとするが、思い出せない、そんな様子で、対するシロは何か知っているようだが、話す気は無い。
我に返った三上は、そこでようやく帝誠を止め始める。
「帝誠さん!シロやオレには何もしないって約束したでしょう!」
「離せ!コイツは…貴様の知る“二つ尾”ではないッ!!」
「へ…?それって、どういう…」
「四季!離れて!」
飛び上がった恋花による飛び蹴りが帝誠に放たれる。
咄嗟に避けた帝誠の足元に、足先が突き刺さると、そこは爆発したような衝突跡が生まれた。
「空木に“二つ尾”。分が悪いか…!」
「帝誠さん!待ってください!」
三上の声も虚しく響き、帝誠はすぐそばにあった扉を開け、どこかへと消えていってしまった。
帝誠の気配が完全に消えたことを確認してから、恋花は四季の傍へと駆け寄り、全身で抱き寄せた。
「四季……よかった無事で。怪我は無い?ちゃほ先輩とは、どこかではぐれたのかしら?」
「ぐぁ、恋花、ちょっと苦しい…」
「あっ!ご、ごめんなさい。本当に、その、心配で」
「──────シキ!!」
ぼふっ、と四季に向かって小さな体が飛び込んでくる。
その姿はシロ、やはり近くで見てもその少女はシロで間違いなかった。
三上が恐る恐る手を近づけると、シロは自分から頭頂部を手の平に擦り付けてくる。
「シキ、会いたかったわ」
「う、うん……オレもシロと早く合流しなきゃと思ってて」
「本当に、会いたかった…」
シロの尾てい骨辺りから白い尾が伸びる。
尾は三上の手と足に包まり、そのまま三上の身体を持ち上げて見せた。
磔のようなポーズで持ち上げられた三上は、ゆっくりとシロに抱き寄せられる。
「あ、あの、シロ?」
「シ、シロ。何してるのよ…」
シロはその手で三上のシャツをたくしあげると、腹に向かって顔を埋め始めた。
すんすん、と三上の腹を吸引する音、時折舌の這う音だけが場内に響き渡っていた。
その様子を、恋花は顔を赤らめながら眺めている。
「はぁ……私、シキの匂い好き。お日様と石鹸の匂いがする。あと、ちょっぴり汗の匂い」
「シ、シロ?私はいいけどね。その、そういうことはあんまり公共の場というか、人前でしない方が…」
「……恋花もする?」
「えへぇっ?!」
「それとも、されたい?私恋花のことも好きよ」
シロは恋花の服の裾に手をかけ、上目遣いで恋花を見つめている。恋花は真っ赤になりながら慌てふためくことしかできないでいた。
やはり違和感、というかそこにいるシロがいつものシロではないのは明白となった。
何か操られているのか、帝誠の言う通り本当に別の…。
「あの、君はもしかしてシロじゃ…」
「おいおい!何遊んでんだ!こっちは待ってんだぞ!!」
声の主は宴会場から。
横に長い扉を開け、出てきたその姿、そして声に三上は戦慄する。
「カミナリ…?!それに──────」
宿敵でもあるカミナリ。
彼女が脇に抱えていた小さな影こそ間違いなくシロであった。




