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第25話 緩やかな歩幅で

 

 裂いて、滑る、冷たい風。

 陽光の暖かさと相まって心地よい風。

 子供たちの堪えきれないような笑い声を聞きながら、三上は動き回る小さな影を目で追った。


 なんてことない昼下がり、彼は“箱庭”内にある公園のベンチに腰掛けていた。


「はぁ…」


 無意識にため息が漏れる。

 昨日、契約者の資格を手に入れたことで、三上は契約者として、シロを()()すること認められた。状況は手に入れる以前と大して変わっていないが、いざという時に役に立つのだと、恋花は言う。

 シロと一緒にいれるのなら、それだけでいい。

 彼のため息の原因は別にあった。


 小さな子供たちに紛れて、シロの笑顔が楽しそうに跳ねる。


「あっははは!まてまてまてー!」


 “翔真は死んだ”

 それに気づいていながら“もしかして”を考え続けていたが、その可能性すら折り砕くような事実が、三上の脳内をずっと舞っていた。二度大切な人が死んだ気分だった。


 悲しみは乗り越えたつもりだったのに、それは鈍器のように三上の感情を殴り、揺らしている。


『なにかしこまってんだよ!ほら、皆いるから遊ぼうぜ!』


 幼い翔真の姿がフラッシュバックすると同時に。


『早く!こっちよ!』


 黒い髪のシロ、そして…。


『フン……』


 幼い姿のカミナリの姿が、三上の頭の中に鮮明に映る。

 カミナリと戦って以来、覚えのない記憶が体験したもののように思い出せるようになっていた。記憶が本当に正しいものなら、カミナリは翔真と幼少の頃から知り合い、そして三上とも…ということになる。三上にとっては認めたくない記憶であった。加えて、シロのようなこの少女は誰なのかという…。


「──────シーキッ!!」

「うわっ…!」


 シロが三上に飛び込んできた。銀髪がサラサラと三上の耳を撫でる。全力で遊んできたのか、服のあちこちに汗が滲んでいた。


「疲れた!どこかで休憩しましょ?」

「…そうだね。どっか行こうか」

「私ね、アイスが食べたい!」

「はいはい」


 遊んでくれた子供たちに手を振って、公園を後にする。

 変わらず少女は、何も知らないような顔で三上の手をスキップながらに握っている。

 カミナリとの会話、聞こえていただろうか。

 今、翔真の死をどう思っているのだろうか。

 案外、シロの方が気にしてなかったりして。


「…?どうしたの、シキ」

「……アイス、どんなのが食べたいのかなって」

「イチゴ!あと、チョコ!」


 ご機嫌な彼女の顔を見ていると、そんな疑問は風に流されてしまっていた。


 〜〜〜〜〜


 ところ変わって街の中。シロのアイスを買い、どこか腰を下ろせる場所はないかと歩いていた時のこと。

 人混みの中に、見覚えのある顔を見つけた。


「見て、シキ。カザネンよ」

「むちゃくちゃニヤニヤしてる」


 小さめのビニール袋と大きめのビニール袋を持って口角を上げている飾音が、正面から歩いて来ていた。小さめのビニール袋には家電量販店のロゴが入っている。

 堪らずシロは声はかける。


「おーいカザネン!」

「ん?おお、何してんだお前ら」

「座れるところ探してブラブラしてたところだよ。ていうか飾音。それって…」

「にひっ。今日発売のゲームでな。早速帰ってオール覚悟でやるところヨ。一緒に私の部屋でやるか?ローカルで2人プレイも可能」

「今日はいい。夜中に騒いだら、また恋花に怒られるよ」

「そのためのこれよ!ジャーン、吸、音、材!時代はDIYってねー」


 飾音の住む部屋は恋花のすぐ隣にある。

 ここ数日、飾音は毎日のように夜中までゲームに熱中しており、夜になると罵詈雑言が恋花の部屋に響き渡るようになっていた。

 つい昨日、疲れて寝ていた恋花は夜中、その声によって目覚め、鬼の形相で飾音の部屋へと乗り込んで行ったという…。


「これで部屋とり囲む構えよ。私の声も流石にスポンジは貫通しまい。あの鬼の気付かぬ間に鬼神のごとく暴れるZE」

「“箱庭”にも、そのお店あったんだね」

「まぁ、店の外装とかは“霊樹”様が勝手に再現すっからな。店舗として登録されてんのかは知らんが」

「ねぇ、カザネン、これいる?」

「おっ!シロいいもん持ってんじゃねぇか。いるいる!」

「…はいっ、あーん」


 カップに入った、くすんだピンク色をすくい取り、飾音の口へと運んでいく。おいしい、と一言いうと、シロは自分のことのように喜び、笑顔を作る。

 シロは飾音にも異様に懐いている。影響されて、夜な夜なゲームに熱中しないといいが。


「──────そんでさぁ。あ」


 雑踏の騒がしい音の中、特徴的な話し声が三上のすぐ近くで止まる。妙に耳に入ってきたその声に、三上はなんとなしに振り向いてみた。


「あ……?あー、どなたでしたっけ?会ったことはある気がするんですけど」

「あっ、シキ。ヘンタイさんよ。この人ヘンタイさん」

「誰が変態だ!このっ、ノーパン幼女連れ男!!」


 出会い頭に罵倒。

 それでも三上にはこの人が誰だかピンときていなかった。ちょうどイチゴのアイスと同じ色の髪色。その少女は三上を指さし、わなわなと震えている。


「サチナ。いきなり人に向かってその口のきき方はないぞ」

「いや、だってこの、このノーパン幼女連れ男が!」

「それはこの人がノーパンなのか、幼女がノーパンなのか、どっちだ?結構大事だぞ」


 横にいたメガネをかけた男性は落ち着いた声色で少女を宥める。サチナ、そう呼ばれている彼女の名にやはり覚えはない。どこで会ったかな、と三上が記憶を探している横目で。


「…!こいつ!よくも私の前に顔出しやがったな…!」


 何故か、飾音が完全な臨戦態勢に入っていた。


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