表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/109

第22話 鬼の首

 

 三上四季、三戦目。

 そろそろ終わってもいいんじゃないかと思う頃。

 シロと共に森林を抜け、ドアから出ていくと、次はほとんど何も無い場所だった。

 ベージュ色の土砂利と白いフェンス。少し遠くには“売 地”と書いてある赤と白の看板。

 どうやら次のステージは空き地のようだ。

 障害物も何も無い、環境としては一戦目の空間の大した差は無いように見える。


「ねーこれいつ終わるのかな」

「さあ…もうすぐ終わってもおかしくないと思うんだけど」


 ゴールなんてあるのだろうか。

 そう言葉を交わしていると、目の前に人影が現れる。

 1人だ。今回の相手だろうか、それとも試験官が──────。


「よう!久しぶり!」


 気さくに声をかけてきた。

 その姿と声は、ひどく懐かしくて、三上は一瞬だけ言葉を失ってしまう。普通なら疑うはずの光景を、そのままに受け入れてしまっていた。


「翔、真」「ショーマ…?」


 2人揃って、その名を口にしていた。

 どこからどう見ても彼だった。

 少し距離が遠いから気のせいかもしれない。

 それでも、彼だった。

 シロは堪らず翔真のもとへと走っていく。


「ショーマ…?本当に、ショーマなの!?」

「あっ、ちょっとシロ!」


 そんなわけない、そんなわけないと思いながら

 三上は心のどこかで期待していた。


『翔真くんの死体は見つからなかった。』


 いつだったか、和氣龍馬が言った言葉を思い出す。

 死体を見ていないのなら、本当はどこかで生きている。犯罪組織に捕まった後でも、どこかで息を潜めて、生きているのでは。

 そんな淡い希望を毎日、心の中で浮かべては沈めていた。

 それが今、こうして…。


「ショーマ!ショーマぁ!!」

「本物、なのか…?」


 夢なら、覚めるな。そう思いながら歩みを始める。



「なーんてなぁ!!」


 突然、シロの足元に地割れが起きたかと思うと、シロを囲むように植物が伸び出した。


「…!シロッ!」


 すぐに駆け出すが間に合わず、伸びた植物は絡み合い、緑の籠となってシロを閉じ込めた。

 そして、不自然にも地から現れた植物の檻は宙へと浮かび上がる。


「感動の再会、終わり」


 翔真の姿などどこかへ消え失せ、別に位置にまた別の人影が立っていた。

 真っ黒なパーカー。フードを深くかぶっていてその顔は見えない。体のラインからは女であることだけが分かった。


「シロを…!いや、戦いが終わったら返してもらいますからね」


 三上はシロが捕まったことに不安を覚えたが、これは試験だ。こういう作戦で戦いに来ている人なのだ、と思い直した。

 勝っても負けても、これは試験なのだと。

 しかし、そんな甘い考えはあっさり打ち砕かれる。


「終わったら?ダメだな。ウチが勝ったら、ウチにこいつを返してもらう」

「シロはオレと契約してる象物(ヴィジョン)です」

「あん?なんだそりゃ…ああ、言うの忘れてたわ」


 面倒くさそうに頭を掻き、懐から取り出したものを三上に投げ渡した。

 三上が手に取ると、それは小さな缶バッジだった。

 タヌキをモチーフとしたアニメ風のイラストが描かれている。


「ウチら“猩々”。お前殺して“白尾”を奪いに来た」

「…!“猩々”って、あの」

「分かるか?ウチはお行儀よく試験受けに来た人じゃない。今お前に戦いを挑んで、()()()()()()()()()()()()。ドゥーユーアンダスタン?」


 三上は静かに戦慄した。

 当たり前みたいに、敵と言える存在が、こんなに平然と目の前に現れるとは思ってなかった。

 試験は、あっという間に試練へと姿を変える。

 状況を冷静に判断した上で、三上は口を開いた。


「シロ!もう“尻尾”いいよ!」

「…!うん!分かった!」


 緑に囲まれた空間の中で、シロの白尾は躍動を始める。

 試験の参加者じゃないのなら、遠慮はいらないだろう、と。


「あ、それも忘れてたわ。解釈拡大──────」


 瞬間、それは静かに起きる。

 シロの背から揺らめいていた尻尾は、女の言葉を合図に、力を失ったように動かなくなってしまう。

 次第に小さくなっていき、遂には尻尾はシロの中へと消えていってしまった。


「え?あ、あれ…なんで…」

「“鬼の尖角(ジャミングホーン)”鬼は、常に相手を蹂躙する存在である」


 その現象にシロは戸惑い、困ったように何度も自分の後ろを見た。

 得意げな女の頭の上には、2本の角が天使の輪っかのように浮いていた。


「この解釈は、周囲の象物(ヴィジョン)の、解釈の拡大を抑制する」

「…わざわざ説明してくれるんですね」

「アホは人の言ったことをそのまま信じるからな。これを聞いたアホは勝手に想像して、勝手に手前(てめぇ)の想像を鈍らせる」

「…“ミノタウロスの斧”」


 静かに告げると、三上の手元に巨斧が現れた。

 その様子に女は驚くでもなく、興味深そうに眺める。


「お、帝誠さんの斧か?!やるなお前。芯の強いやつには角の効きが悪いんだよ。お前の場合はちょっと違うかもしれねぇが──────」

「なんでこんなことするんですか」

「は?…白尾を手に入れるため」

「違う。何のためにここまでして…そんなにシロが欲しいんですか、あなた達は」

「あったりまえだろうが。神みたいな象物(ヴィジョン)をゴミみたいな契約者が持ってんだ。奪わない手はないだろ」

「人を殺して、シロを奪って!そこまでして、一体、何がしたいんだ?あんた達は!」

「それって、そんなに難しい話かよ」

「っ…!」


 目を丸くして答える。

 三上は女に、我を失うほどに怒っていた。

 人を殺し、物を奪う、その理不尽な行為にワケが分からないほどイラついていた。その理屈を理解していながら、自分でも驚くほどに怒っていた。


「生きるために生きているモノを殺す。こんなのお前ら“憑景(つきかげ)”の専売特許だろ?ウチらはそれと同じことやってるだけだ」

「お前らは生きるためじゃない。私利私欲で人を殺してるんだ」

「私利私欲って言葉選びで誤魔化してんなよ。意味は同じことだろ…そっか。じゃあ、今からお前に理解させてやるよ」


 女はフードを取り、その姿を現した。

 長く伸びた前髪、目立って伸びた犬歯と三白眼が三上を鋭く睨む。


「解釈拡大“鬼の拳(オーガフィスト)”」


 彼女の両腕に青い結晶のような物がまとわりついた。

 肘まで結晶で覆われると、両の拳骨を打ち合わせ、彼女は不敵に笑ってみせる。


「“猩々”頭領であるカミナリ様は、今からお前を殺す。殺して、“白尾”を我がモノとする」

「オ、オレは…」

「さあどうする!ウチに大人しく殴り殺されっかぁ?!私利私欲で人を殺すウチに!」


 三上は一瞬の躊躇いを見せながらも、斧を握り、決意の瞳を見せる。


「オレは三上四季…今から、あんたからシロを奪い返す!」

「はっ!殺すって言ったらどうだ?!このフニャチン野郎!!」


 対するカミナリは嬉々として笑顔を浮かべた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ