第21話 変身
コウモリの群れを切り裂き、飾音はその姿を現す。
真っ黒な作務衣に真っ黒な短パン、そして風にたなびく真っ赤なスカーフ。その姿はまるで忍者…否、その姿は。
「魔法くノ一カザネン!ただいま見参☆」
右手の人差し指と中指だけ立て、ウィンクしながらに決めポーズを見せた。
突然の豹変に貫田は面食らってしまう。
「…わ、分からない。何故今、それを」
「あなたネ!悪さする妖怪は!一念通天、マジカルクナイを喰らいなさい!!」
飾音はいつの間にか持っていたクナイを、慣れた手つきで貫田に向けて投げてみせた。
だが狙いは定まっておらず、クナイは貫田の横を抜け、後ろのコンテナに突き刺さる。
「“共振爆”!!」
刺さったクナイは爆発し、コンテナには拳大の穴が空いた。
「…わ、分かりませんね。クナイを隠し持っていたのなら、なぜこのタイミングなのか」
「そんなッ!攻撃が当たらないなんてッ!こうなったラ!」
「…!」
飾音はおなじみの忍者ポーズで印を結ぶ。
すると、先程までコウモリの姿をしていた象物が次々に飾音と同じ姿へと白煙と共に変わっていった。
「相手も分身の使い手ヨ!これで互角なんだかラ!」
「な…!じ、冗談じゃない!互角なんて話じゃないですよ!!」
その数、30強。
全ての分身がそれぞれ数本のクナイを握っている。
そいつらがどのような行動に出るかなど、想像に難くない。
全員が全員、正常な平衡感覚を持ってないにしろ、危険であることには違いなかった。
「ひっ……!まずい、まずい!一旦この空間から出なければ!」
貫田(仮)は今度こそ本気で焦っていた。
飾音が感知したという6体の分身、これらの中に本体は含まれていない。本体はその場にあったコンテナ内で息を潜め、その中で分身を操っている。
今まで小出しにしてきた情報の全てが嘘。
それがバレるまでは負けることは無いと思っていた。
「一念通天!」
「いちねーんつうてーん!」
「喰らいなさい!」
「マジカルクナイッ!!」
今ではバレようがバレなかろうが関係ない。
この30強の集団が暴れ回れば、コンテナ内の本体なんぞすぐに見つかっておしまいだ。
コンテナ内にいた貫田はすぐにこの空間からの脱出を試みたが──────
「お、見っけ」
既に、魔法くノ一は目の前に立っていた。
「なっ、はっ…!」
「あー、まだフラフラするわ…残念だけど、他の囮共は全員私の分身が捕捉済みだ。分身との入れ替わりとかはもう手遅れだゼ」
「ふ、ふざけるな!そんな格好で、こんな…!」
「マジカルカザネンの設定資料集買ったか?カザネンはコウモリの使い魔と一体化して変身すんだゼ」
「そんでテレビで演じてるのは私、明光院飾音。解釈としては、これ以上の一致はないだろ」
一本しかないように見えたマジカルなクナイは、飾音の手元で二本、三本と徐々に増えていく。
「この姿なら弾が無限なんだよ。チートだろ?」
「…!そんな、ふざけた解釈…!」
「ま、カザネンの演技してないと、ちょっとずつ変身解けていく条件付きだがナ。でも、お前仕留めるにゃ、もうクナイ一本でも十分かもナ」
「何故だ!何故私を、貫田を信じてついて来ない!貴女をここまで育てたのは私だ!」
「私をここまで育てたのはマネージャーの貫田な」
「それも私だと言っている!!」
「いいや、違うねぇ…!!」
飾音は朧気ながら、怒りの瞳で貫田を睨みつける。
カザネンの演技からの落差もあってか、貫田はその見た目以上の迫力を感じていた。
「この姿、カザネンの撮影の時よぉ、衣装破れたり、忘れたりした時にこっそり使ってたんだよ。他のスタッフには内緒でな」
「契約者の存在は公に出来ねぇからな。私と、貫田だけだ!この解釈が出来るってのは2人だけの秘密だったんだよ」
「…!」
「で?お前はどうだ?知ってたか?知ってたら予想出来るよなぁ?そんな驚かねぇよなぁ?!」
「い、いや誰だって、そんな格好でいきなり現れたら…」
「嘘つけ。過去の経験からな、人の感情の機微には鋭いんだヨ。このグルングルンの視界でも、よおく分かるくらいにナ」
「なっ…にィ…?!」
「てか本物の貫田ならこの姿が懐かしくて泣いちまうゼ。きっとよ」
なんの躊躇いもなく、たった一投目でクナイを相手の身に突き刺した。
「大嘘つきな狸野郎。二度と私の前に現れんなヨ」
「ま、待て──────!!」
冷たく言い放つ。蛆虫を見るような目で。
「“共振爆”」
告げたと同時、砕けた金属片が貫田を貫いた。
血が出るなどはない、突然の煙と共に貫田は消え、そこに残っていたのは小さなタヌキのみだった。
「マジで、象物の方だけなのな…あの貫田じゃなく…」
物憂げな表情で、無垢な瞳のタヌキを眺める。
頭に過ぎるのはいつかの貫田。
優しく私を支えてくれた、心優しいあの人。
いつか会えることを夢見て、偽りの月夜を見上げた。
〜〜〜〜〜〜
「なんじゃなんじゃあ!こんだけか!」
「ちゃほ先輩。もういいですよ!」
観覧室にて、恋花と茶誉は大量に倒れている黒服の集団で山を築いていた。
異変に気づき、観覧室から出ようとした矢先に現れた怪しい集団。
この事態に恋花は気が気ではない。
「わしを倒したければこの10倍は連れてくることじゃ!」
「何人いても変わりませんよ。それより、早く試験官達の方へ行きましょう。恐らく参加者の中に侵入者が…」
「いやーこれは参加者だけじゃなく、試験官の方にもおるぞ」
試験官として侵入し、今の今まで気づかれない。
そんなことを、そんな手口をする連中に恋花は心当たりがあった。
「そんな……まさか“猩々”ですか?!」
「多分な。ここにいるのは“四足獣”のメンバーじゃ。わし見覚えあるし」
「“猩々”が、一体何が目的で…」
「参加者の中にいる誰かが目的じゃろうな。こやつらはわしらの足止め係じゃろ」
「参加者の誰か……!!!」
突然、恋花は走り出す。
犯罪組織が狙う者など、1人しかいない。
このタイミングで現れるなど、もう一つの目的としか、恋花には考えられなかった。
「お、おおい!待て!早計かもしれんぞ!」
「無事でいて、四季、シロ…!」
心から想う彼らを胸に、恋花は駆けた。




