第18話 ピンク烏は恥を知る
三上は試験の第一戦目を終えた。
目の前には先程決着がついた相手が力なく倒れている。
無事なようには見えるが…。
「この人、大丈夫かな」
「死んでないよ。ほら、ほら動いてる」
「これは痙攣してるんだと思うけど…」
「私たちの勝ちってことだしいいんじゃない?他の人が何とかするわ。行きましょ」
そうだね、と半ば心配しながらも先を急いだ。
試験内容は参加者同士の実戦のみ。時間制限はないが、何回戦うか等は全く説明されていない。
情報が少ないのも含めての試験なのかもしれないが。
次の試験へと進むべくドアを開けると、すぐに現れたのはジャングルのような、大量の木々が乱立した地帯。
室内からのこれということは、いつもの謎空間技術を利用した転送だ。
こうして参加者同士が同じ場所に転送され、遭遇するようになっているのだろう。
「こういう不思議パワーも慣れてきたよなぁ…」
「ねぇシキ、お腹空いたー」
「今?何も持って無いよ」
「シキさっき武器出してたよね。アレで食べ物とか出せないのー?」
「なるほど、それは試したことないや。やってみようか…解釈拡大、解釈拡大…」
「かいしゃくかくだいー」
三上はむむむ、と念じながら食べ物を想像する。
今朝食べたパンぐらいが記憶的にも新しく手頃だ…。
代力があればなんでもできると先生は言うが、“なんでも”というのはどこまで可能なのだろうか。
こうして想像できればなんでも作れるのか。
はるか遠くにいる人の死を想像したとして、その人は死ぬのか?仮にオレが死んだ人を生き返らせようと想像したとして…。
「…やっぱりできないな。オレは見てるものをそのまんま手元に出したことしかないから…ん?でも斧は見なくても出せてたな」
「お腹空いたーお腹空いたよー」
「帰ったらなんか買っていこっか──────ん?」
葉の擦れる音が遠くから聞こえる。
何かが木々の間をすごいスピードで動いている。
そして、音から察するに、その“何か”はこちら目掛けて移動しているらしく──────!!
「わああああぁぁぁ!!落ちる落ちる落ちる!!」
顔を上げた瞬間“何か”は三上の顔面目掛けて落下した。
支え切ることができず、そのまま三上は“何か”と一緒に崩れ、倒れ込んでしまった。
「シっ、シキ!大丈夫?!」
立とうとするが、力が思うように入らない。
頭を強く打ち付けたのか、視界が揺れているみたいだ。
見えているのは、何か、白と水色の縞模様…?
柔らかくて湿っぽい、石鹸とアンモニアの臭いがする。
「──────!きゃああぁ!!」
短い悲鳴が上がったと思ったら、景色は森に戻った。
上に乗っていた“何か”が飛び退いたのか…?
まだ、意識がはっきりしない三上は、シロによって抱き起こされる。
「あ、あた、あたぁ!あたた、あた!!」
何やら目の前の人影がカンフーな奇声を発している。
とりあえず三上は人語によって意思疎通を試みる。
「う……どうしました?」
「あ、たまが、わ、わたたしの、お、おま、おま、おまたに、またに!!」
「またに…?マタニティ?妊婦さんの話してます?」
「ひっ──────変態だぁぁ!!」
「えぇ?!いきなり?!」
「食べ物出そうとしたのに、女の子降ってきたね」
人語を解する生き物かと思いきや、第一声は罵倒であった。
何故に変態呼ばわりされているのか。
だが、まだ“罵倒を挨拶と思っている異国の人”という可能性を捨てきれない。
三上は果敢にコミュニケーションを取る。
「落ち着いてください。変態ってオレのことですか?だとしたら勘違いです。落ち着いてください」
「しらばっくれるなぁ!見たんでしょ?触ったんだろ?!」
「見たって…な、何を?」
「うるさい!乙女の口からそんなこと言わせるなぁ!誰にも、私こんなのされたことないんだからぁ!」
やっと視界のピントが目の前の存在に合った。
ピンク髪のショートボブ、白いシャツの上からブレザー、そしてプリーツスカート。
顔つきや体型から、三上と同い歳くらいの女性らしい。
要するに制服姿の女子である。
「乙女の口から?シロ、オレは何を言わせようとしてたんだと思う?」
「んーとね、私は持ってきてないけどあの子は持ってる物」
「何故、今なぞなぞを…?」
「…って、履かせてないのかよ!!そんなちっちゃな女の子に!マジの変態じゃん!」
「シキ、ホントに何も見えてない?」
「見えてたのは……水色と白のしましまくらいかな」
「やっぱそうじゃん!嘘つき!変態!変態確定!」
なぞなぞの答えがわかる前に、目の前の女子は三上を変態だと確信したようだ。
さらに戸惑いながらも、三上は“変態”という言葉について深く考え始める。何故にオレの変態性がシロと関わっているのか。そういえば、翔真はある日言っていた──────
『人ってのは皆何かの変態なんだぜ』
頭で納得させ、口を開く。
「貴女も自分がスペシャリストではないと言い切れますか?」
「えっ?な、何言ってんのお前」
「正直に答えてください」
「そ、そりゃ、私も?えっちなことの一つや二つ考えたこと、ありますけど?と、年頃なんだし、そのくらい…」
「は?えっちな…?何の話してるんですか?」
女子の顔が一瞬で真っ赤に染まっていく。
怒り?否、もっと別の感情があの中で渦巻いているようだ。
あ、今、怒りも入った。
グルグルと回っていた女子の目はキッ、と三上を捉えると、顔を耳先まで朱に染めたまま、吐き捨てるように言い放つ。
「ぶっ殺す──────!!」
突如女子は着ていた上衣を脱ぎ、キャミソール姿に。
「あ…変態ってのはそういう」
「うっさい!!これは服が破れるのが嫌だから脱いでんの!露出狂、扱い、すん、なっ!!」
バサッ、と背中から真っ黒な翼が伸びた。
飾音のコウモリの翼とは違う、それは見たまんま烏の翼だった。
翼を上下させながら、彼女は三上に宣戦布告する。
「茶誉様の為にも、お前みたいな変態には負けてらんないの!!動けなくなるまでボコボコにするから、覚悟しなさい!」
「消えた!──────いや、飛んだんだ…!」
翼をはためかせ、地から空へ、空から森へと消えていく。
それが開戦の合図。
姿は見えないが、三上はどこかしらから見られている視線を感じ取っていた。




