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第14話 鍔迫る魂

 

 金属と金属のぶつかり合う音に、飾音は顔を上げ、そして驚愕する。


「な…!何が起こってる…!」


 男の巨斧による一撃が、三上の目の前で受け止められている。男と全く同じ巨斧によって。それも、三上の手で。


「何をした?小僧」


 男も同じように目を見開いて、三上を見ている。

 対する三上は、苦悶の表情で巨斧から押しかかる重圧に耐えていた。


「くっ……あああぁぁぁ!!」


 叫びと共に力の緩んだ男を斧ごと押し返した。

 突然すぎる出来事に男は数歩、後ろに後ずさった。


 今もなお、飾音には目の前の光景が信じられなかった。

 先程まで象物との契約すらしていなかった三上が。

 1度も象物の力を使ったことの無い三上が、このレベルの現象を起こしていることに。


()()()してんのか…?」


 三上自身でさえ理解していない力の源泉。

 だが、今ある活路はこの力を使うこと。

 アレコレ考える余裕など、三上にはなかった。

 慣れない巨斧を握り、目の前の驚異へと立ち向かう。


「頼むシロ…オレに力を貸してくれ!!」

「ちぃっ!得体の知れないヤツが!!」


 互いに振り合った斧が、激しくぶつかり合う。


 ガギン!ガギン!ガガキン!


 連続する斧撃の嵐。

 ぶつかる度に巻き起こる風圧に目を細めながら、一心不乱に斧を振るった。

 必死の三上と獲物を見極めるように睨む男。

 戦いは一見互角に見えながらも、緩やかに、2人の間で、確かに進行していた。


「なるほど、私の“肉体強化”も真似ているのか。だが、それだけでは…」


 斧の強度も、それを振るう肉体も互角。

 だが、斧を扱う技術では男が勝っていた。

 斧がぶつかり合った後の切り返しの動きがその明確な違い。

 三上が次撃へと体を構えるよりも早く。


「足りんな」


 ガ ギ ン ッ!!


「く、っ…!」


 男は次の攻撃へと転じている。

 小さかったその差は、すぐに大きく開き始め…。

 それを表すかのように三上の足は一歩ずつ、後ろに後退していった。


「追いつくんだ…!もっと、もっと早く!」


 死の1歩手前、火花と風の戦場の中、頭を過ぎったのは見知った人の、見知った力。

 あの空を駆けた時の、あの一時。


「解釈、拡大…!」


 イメージするのは文字通り、風を纏うこと。

 カマイタチの風を身に受け、自身が台風の目となること。

 風向きが自分に向いていくのを感じる。

 風の音が聞こえるようになる頃には、斧は空を浮く羽根のように軽く。


「また変わるか…!小僧、お前は…!」


 一撃は風切る翼のように鋭く。


「凄い、凄いよシロ!君がいるなら、オレは誰にだってなれる!!」


 狂気を含んだ笑顔で、三上は斧を振り続ける。

 自分には得られない強さ。

 自分には与えられない才能。

 見てきた全てを持って、目の前の脅威を打倒せん──────!


「あは、はははははは!!」

「っ、この、小僧…!」


 三上は笑う。

 それは己への鼓舞か、それとも相手への威嚇か。

 両者の生死を賭けた攻防の末。その果てにある結末は。


 パ キ ィ ン !!


 両者の斧の刃は砕け散った。

 同じ強度の物を同じ肉体で振るった。それは予想できた結果である。

 だが、その結果に三上は汗をにじませ、男は動じなかった。


「解釈拡大」


 そう呟いたのは男の方だった。


「“ミノタウロスの斧”」


 男の手元に現れるもう一振りの巨斧。

 それは(いとま)をおくことなく振り上げられた。

 迫りくる鋭刃に、三上の力は間に合わない。

 イメージ、形成、そして防御。この手順では、到底間に合わないほどのテンポで、(つい)の撃は繰り出されている。


 走馬灯のように流れいく記憶の中、三上がたどり着いたのは、この戦いの最初であった。


「斧なんだ、()()だよな…!」

「…!やめろバカ!それをするんじゃねぇ!」

「解釈拡大、共振爆(レゾナンス)!!」


 待機していたコウモリ達が降りてくると、一斉に斧に向かって鳴き声を上げた。

 男の斧は目に見えないほどの振動を始め、そして──────


 〜〜〜〜〜〜


「その後のことですか?飾音から聞いた話では、敵は逃げ帰ったみたいっスよ」


 薄暗い部屋で石川綾児はあっけらかんと話す。

 今の彼に生徒を心配するという考えはない。

 今やっているのは上司に対するただの事後報告だからだ。


「三上四季の容態は」

「弾け飛んだ金属の破片を喰らいまくってボロボロ。けど当たりどころが良かったんスかね。命に別状は無いみたいです」

「もう少し慎重にやりなさい。アレは空木の人間にも気にかけられているのでしょう?」

「死んでいないんスから、その辺は大丈夫でしょう」


 死んでいないから。

 綾児は何の反省もしない。

 教え子が死にかけようと、生徒がどんな死地をくぐり抜けようと。

 ()()()()()()()()()


「その時の相手、“四足獣”の誰だったのかしら」

「今の頭領っていうと、薄川(うすかわ)帝誠(ていせい)ですね。ミノタウロスの。建物の構造が変化したことや斧の話からするに、間違いないです」

「あの…!三上四季はそれを撃退したということですか」

「どう考えます?」

「異常ね。白尾の力を借りるにしても、つい最近まで一般人だった男が適う相手では…」

「くふっ!くっくっくっくっ…」


 綾児は零れるような含み笑いをした。

 その様子を上司は困惑した顔で見つめた。

 笑い声が落ち着いたと思うと、綾児はニヤついた表情で話し始める。


「いーっスねアイツ。くっくっくっ…翔真の時と同じッスよ。退屈しない」

「なんですか気持ち悪い…いいですか。私が頼んでいるのは監視です」

「知ってますよ。怪しさ満載っスけど、やっぱ白尾がなんかしてる感じは拭えませんね。契約せずとも代力の譲渡が出来るとか…?」

「いいですか。怪しいところがあれば殺すのもやむを得ないとはいいましたが、死ぬような無茶をさせろとは…」

「りょーかいですって、くっくっくっ…それじゃ、お見舞いもあるんで僕はこれで」


 綾児は表情を変えないまま、席を立ち、部屋の出口へと向かった。


「…いいもん見せてくれそうだわ、アイツ」


 不穏な言葉を残し、部屋を後にした。

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