第102話 三人三脚
いつも通りの街並みにいつも通りの人混み。
だが、飾音、恋花、シロの3人は焦りを感じながら街の中を走っていた。
「今日の“門”は、どこ?」
「“り煙”から事前に情報は聞いてある。ええとだな…」
“門”
箱庭と外の世界を繋ぐ“境界点”へ行くために通るべき場所。“憑景”では秘匿性とセキュリティを考慮しており、“門”が生成される場所を毎日変えている。
「…ダメだ。向かおうとすると、ほとんどが来た道を戻ることになっちまう」
「街の中にも一か所くらいはない?人混みに紛れていけば、見つかりにくいとは思うんだけど」
「あった。都合のいい位置だ。確かここは──────」
“り煙”から貰ったメモ書きに記された座標から場所を求める。端末によって弾き出された場所は、その場にいた3人にとって馴染み深い場所であった。
「──────“数珠流 A地区道場”」
「…行きましょう」
方向転換し、目的地である道場の方向へと3人は足を早めた。
そうして、追っ手に誰1人会うことも無いまま道場へとたどり着く。一度半壊してから、完全に立て直された建物は傷一つない。
恋花は道場を見て、目を細める。
「…随分と、あの頃とは状況が変わってしまったわね」
「レンカ、ぼーっとしてる暇ないよ」
「あっ……うん。ごめんね」
「んぁ?おい人っ子1人いねぇぞ?」
建物内はしんと静まり返っていた。
人の気配は全くなく、ただ3人の声だけが響いていた。道場が休みだったとしても、その場には職員の一人くらいはいるはずであった。
「流石に“門”は全部おさえられてるのかしら」
「だろうな。まあ追っ手のほとんどは“り煙”がやってるだろうから、残りの雑魚くらいこのメンツならどうにかなるだろ」
「──────それは、どうだろうね」
ゾッと、3人を凍りつくような感覚が襲った。
見ると、声とともに遠くから歩み寄ろうとする人影が一つ。その男、追っ手ではない。
だがしかし、味方でもないことは確かであった。
「やぁ。やっぱりここに来たね」
「長…」
“憑景”全体のまとめ役。
その存在の登場に、恋花の顔が硬くこわばる。
目の前にいる男が敵の大元だとは知っていた。だが、こうして敵として現れることに恋花はやはり困惑していた。
「…あなたも“九尾”と契約しているというのは、本当ですか」
「ああ本当さ。そこの巫女様なら知っているだろう?僕が何者なのか」
「私が知ってんのは“霊樹”の中の情報だけだ」
余裕そうに笑う男を飾音は睨む。
「和氣龍馬。本名は風間和葉。“対妖”が無くなるその直前まで風間家の当主だった男。“風間式”の父親なんだろ?」
「そんなことまでしか分からないのか。僕はどうやら、霊樹にそこまで興味を持たれてなかったみたいだね」
「尻尾集めて“九尾”を復活させて、今更何がしてぇんだ?」
「“九尾”は元々風間家の象物だよ。僕はただ、元あったものを元に戻したいだけさ」
「あっそ!でもオッサン一人いたところで、シロの相手にはなんねぇよ!」
「…貴方は初めて会った時から嫌いよ」
シロの背後から真っ白な尾が伸び出る。
「はは、流石。君は“こいろ”そっくりだね。君が元の“こいろ”なのかな?」
「は…?」
「悪いけど、君とまともに戦う気はない」
そうつぶやきながら、懐から妖しく光る小さな石を取り出した。そして、その瞬間石はキラリと光を放った。
「──────っ!?」
それと同時にシロがその場で跪いた。
「…!どうしたシロ!」
「わかん、ない…なんか、力が」
「これは九尾の依代だった物さ。“九尾”という象物はもう存在しないわけだから、無用の長物だと思ったが…そうでもないらしい」
シロから伸びていた尾はいつの間にか消え失せ、シロ自身は石を前に苦しそうに呻くだけとなった。
優勢だったはずの状況の雲行きが怪しくなり始める。
「キイロを連れてこなくて正解だったね。さて、“巫女様”。守り人はどうしたのかな?」
「…!うるせぇ」
「その様子じゃ、今は向こうにいる煙いのが一匹だけみたいだね。安心したよ」
にこやかな表情は崩さず、手の上で“依代”を転がしている。
「──────!!2人とも伏せて!!」
パ リ ン !!
恋花が察知したコンマ数秒後、廊下のガラスが勢いよく砕ける。また、人影が一つその場に現れた瞬間であった。
「Foo!!俺様が一番乗りィ!!」
砕けるガラスと共に転がり現れたのは、ドレッドヘアーの長身男。立ち上がり、派手な柄物のシャツがぬうっ、と伸びる様相はさながら掛け軸が壁に広げられるかのようだった。
その姿に、恋花は顔をしかめる。
「佳主兄…!」
「オーライオーライ!恋花がいるってことはここが当たりって事だな」
「空木家の長男…君が当主の子か」
「イェア!長、この小娘共でいいんですかい?」
「あぁそうだ。君なら出来るだろう?」
「もっちろーん!まかせてくだせぇ」
拳を手のひらに何度も打ち付け、現れた男は白い歯を見せて笑う。
空木佳主真
現空木家の当主であり、恋花の兄。
契約している象物は“八犬”
見上げるほどの長身は恋花の前へと立ち塞がる。
その場いる全員が、この戦いにおける力の差を理解していた。
「よぉ恋花。最近調子がいいと思ったら、“時枝”と繋がってたとはなぁ」
「…佳主兄こそ、目上の人間にヘコヘコするような人間だったかしら」
「当主だからよ。色々あんのよ」
「「──────“八犬”」」
互いの足元に契約した象物を呼び出す。
恋花が一匹の“八犬”なのに対し、佳主真の足元には三匹。
宿る代力の大きさは、三倍であった。




