表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫耳少女はなぜ呪われたのか  作者: 鈴女亜生


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/27

呪いと呪い

「流石に不可抗力だと思うんですけど」


 殴られた顔を労りながら、俺が一応の抗議をしてみると、鴉羽さんが笑顔で言ってきた。


「それなら、殴られる前に目を逸らすべきだったわね」


 それはぐうの音も出ない正論で、俺はそれ以上に何も言えなかった。


 テーブルの上で寝ていた犬山さんは服を羽織らされた上で、ソファーに居場所を移したらしく、それを終えた姫渕さんが衝立の向こう側からこちら側にやってくる。


「海原さんが確実に悪いとはいえ、急に殴ることはありませんでした。せめて、平手にするべきでした。すみません」

「いや、謝られることじゃないから、俺が悪いし。そもそも、謝られているのか良く分からない謝罪だったけど」


 犬山さんだったら、確実に意識を刈り取る一撃を放っていたところだから、一発の拳で済んだと思えば軽いものだ。

 実際、その意識を刈り取る一撃で、面倒に巻き込まれた身としては、それを感じずにいられない。


「だけど、意外と簡単に呪いが解けたね」

「確かにそうですね。どうして、こんなに簡単な呪いが解けなかったんですかね?」


 そう呟きながら姫渕さんが鴉羽さんに目を向けていて、俺は咄嗟にその視線を遮るように身体を割り込ませる。

 このまま険悪な雰囲気になるくらいなら、ここで一発殴られた方がマシだ。そう思うほどにあの雰囲気は味わいたくないものだ。


「あれは呪いを解いたというよりも、呪いがかかる前に戻した魔術でしょう?そういうことはあまり生物に使わないの」

「魔術ではなく、魔法です。それに私の家では代々傷の治癒などに使われてきました。そういう出し惜しみがいけないのでは?」

「そうやって簡単に使う方が信用できないわ。流石は詐欺集団かしら」


 二人の雰囲気が険悪に交わり始めて、俺は回避したはずの状況に何とも言えない表情をすることしかできなかった。

 こちらは息ができずに困っているというのに、この二人は息をするように険悪になっている。

 その対照的とも言える変化が羨ましく、妬ましい。何より、やめて欲しい。


 そう思いながら、二人の話を聞いていたのだが、俺はその中でふと疑問に思った。


「というか、時間を戻して呪いが解けるなら、それで犬山さんの猫耳と尻尾は消えるんじゃないですか?」


 犬山さんの悩みの根源は呪いの存在だ。それがかかる前に戻しただけで消えるのなら、最初からそうしたらいい。


 そう思ったのだが、それをしないことにはちゃんとした理由があったらしい。


「ちゃんと呪いがかかっていたら、時間を戻しただけでは消えないの。あれはちゃんとかかっていなかったから、こうなっただけ」

「ちゃんとかかってないって、どうして?」

「恐らく、()()()()()()()()()()()()()()、それが邪魔をしたのでしょうね」


 既に呪いを受けた身体で、もう一つの呪いを受けることは難しい。

 それはかける側の話ではなく、受ける側の話で、そういうことがあるらしい。

 一つ分の陽だまりに二つはちょっと入れない、ということだそうだ。


「ただ猫という現象の共通点から、この呪いをかけた人物は()()()()じゃないかしら。ただ先に呪いをかけていたら、次の呪いはかかりづらいということを知らないのなら、かけた人物は素人か、魔術師として未熟な者ね」

「魔術師ではなく、魔法使いです」


 頼まれてもいないのに爆弾を放り込んだ姫渕さんに苦笑しながら、俺は犬山さんが誰に呪いをかけられたのか、どうして黒猫にされたのか考えていた。

 もちろん、俺が考えたところで何も分からないことは分かっているが、それを考えたい気分だった。


 というか、この空気感の中で正気を保っていたくない。


「取り敢えず、誰が呪いをかけたのか。どうして、呪いをかけたのか。その部分を特定したいわね」


 そう言いながら、鴉羽さんが俺に笑顔を向けてきた。


 その笑顔を見て、猛烈に嫌な予感がした俺は目を逸らしてみたが、それくらいで鴉羽さんから逃れられるはずもなかった。


「お願いね」


 鴉羽さんが近くに置かれていたコーヒーカップを手に取り、俺に見せながら言ってくる。


 それは拒否権がないという一種の脅しで、俺は本当に白瑞さんに伝えるべきだったかもしれないと今更ながらに後悔していた。



   ▲▲   ▲▲   ▲▲



 翌日は幸いにも休みであり、俺は鴉羽さんから頼まれたことを調べる必要があった。


 今日は日曜日で、鴉羽さんに呪いをかけられた日が火曜日だった。

 七日間という期日がその日を含めるかどうか分からないので、俺は最低でも明日中には犯人を見つけないと、真夜中に死ぬ可能性がある。


 ここで何とか特定しないといけない。俺はそう思いながら、犯人を探すために動き出そうとした。


 しかし、問題があった。方法が全く分からない。


 あれから目を覚ました犬山さんは、その後に姫渕さんの家に宿泊することになったのだが、猫の時のことを一切覚えていないそうだった。


 もちろん、猫になった犬山さんと犯人が逢っているかどうかは分からないので、覚えていたとしても犯人が特定できるとは思っていない。


 ただ少しでも手掛かりが欲しかった身としては、少しくらい覚えておいて欲しかったと思うところだった。


 そこから何も分からないとしたら、せめて、黒猫になった犬山さんを知っている人から話を聞く必要がある。


 それに該当する人物は一人しかいないので、俺はその人に逢うしかなかったのだが、正直、乗り気ではなかった。


 ただ贅沢も言っていられないので、俺はすぐに連絡して、その人物と待ち合わせることにする。


 どのような返信が来るのか、俺は内心怯えていたのだが、その返信は意外にも明るいものだった。


 その時点で少し驚いていたのだが、いざ待ち合わせ場所に行ってみると、そこに現れた人物を見て、俺は更に目を丸くすることになった。


「お待たせしました!」


 とても明るく元気良く、それまでに逢った印象からは考えられない一声を上げて、光峰様は俺の前に現れた。


 そのテンションの高さに当てられながら、俺は早速帰りたい気分になる。

 光峰様かどうかは関係なく、これだけテンションが高い人とあまり話したくはない。


「えっと…何か良いことでもあった?」


 取り敢えず聞いてみたが、そこで光峰様のテンションが最高潮に達し、しばらく何を言っているのか分からなくなった。

 その話を何とか聞き取り、光峰様のテンションが高い理由を紐解いてみると、意外な事実が判明した。


 どうやら、昨夜、黒猫を引き取った後、光峰様は天岐に説明を求めて、その話の流れから天岐とデートの約束が取りつけられたそうだ。


 天岐も何とか生きようと必死に理由を考えたのだろう。

 光峰様の地雷を踏まないように努力した結果、デートに誘おうと思ったが、一人だと心許ないので、俺達に見守ってもらっていたと強引に説明したそうだ。


 その話を聞いた光峰様はその話の筋が通っているかどうかよりも、天岐がデートに誘ってくれたという事実を重要視したらしい。

 それは何とも光峰様らしい決断で、天岐の望み通りとも言えるだろう。


 とにかく、天岐は生き延びたらしい。


 その報告を聞いてから、俺は光峰様に黒猫の話をすることにした。


 黒猫が実は犬山さんだったと話したら、いろいろと面倒なことになるのは分かっていたので、姫渕さんの知り合いに引き取られたと説明し、その黒猫のことを聞きたいから、発見した時のことを教えて欲しいとお願いする。


 光峰様はその話を聞き、また黒猫に逢えるかと聞いてきたが、少し遠い場所の知り合いだから難しいかもしれないと、適当に誤魔化しておいた。


「それで黒猫を発見した時に、近くに誰かを見たとか、そういうことはなかった?」

「いや、誰にも見られてませんでしたよ。確認しましたから」

「何か変わったものとかなかった?」

「変わったものですか?特には」


 光峰様がかぶりを振り、結局何も分からないのか、と俺は残念に思う。


「ただ一つ。天岐会長にデートのお誘いを受けた後、いろいろと私の隠していたことをお話ししたら、その中の一つを貴方に話してあげて欲しいと言われたのです」

「俺に?何で?」

「それは会長も何となくと。ただ興味がある気がする、と仰っていました」


 俺が興味のあること?そんな物があったか?

 そう考えていたら、光峰様が思ってもみなかったことを聞いてきた。


()()というものに興味がありますか?」

「……はぁ?」


 唐突な解答編の始まりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ