第83話 明るい未来に乾杯
わたしは、わくわくしながらウス=コタに呼びかけた。
「左谷蠡王よ。マイクチェクからの帰朝、大儀です。
……頼んでいたものは持ってきてくれましたか?」
「勿論でございます!」
わたしの言葉に、ウス=コタは笑顔で頷いた。
彼は、先日まで本国マイクチェクに帰国しており、今回が帰国後初めての出仕なのだった。
「どうかご覧下さい」
ウス=コタはそう言って、懐から小さな板状のものを取り出した。
ウス=コタが取り出したもの。
それは、彼が先日マイクチェクに帰国する際に託しておいた「映石」だった。
映像を映し撮る事ができる、古王朝時代のマジックアイテム。わたしのハーン即位祝いで「灰の街」から献上されていたものを、ウス=コタに預けていたのだった。
「どうぞ、ご覧下さい!」
ウス=コタが、「映石」に手を当てて発動させ、本のページをめくる様な動作をする。その操作に応えて「映石」が輝き、映像を映し出した。
その映像を見て……
「か……可愛い……!」
わたしは思わず高い声を上げていた。
その声につられて、コアクトや廷臣たちみんなが集まってくる。そして、わたしと同様に、「かわいい!」と歓声を上げたのだった。
「映石」が映し出した映像。
それは、一人のゴブリンの女性と、側で眠っている赤ちゃんたちだった。
今回、ウス=コタの王妃、トワが出産するという事で、ウス=コタに「映石」を預けて映像を撮って貰って来ていたのだ。
ウス=コタの妻、トワが見つめる横で、ベッドに4人のゴブリンの赤ちゃんがすやすやと眠っている。
「今回は4人生まれました。皆元気です」
「可愛い~!」
わたしは改めて歓声を上げた。
「ウス=コタ様たちのお子さんだからか、みんな大きな赤ちゃんですね」
コアクトが映像をのぞき込みながら言った。両親ともに大柄な事もあるのだろうか。確かに普通のゴブリンの赤ちゃんより一回り大きな気がする。
「かわいいですね、りり様!」
赤ちゃんを見て、サカ君が笑顔で言った。その横でサラクも優しい目で映像を見ている。
「かわいいですね!」
「可愛い赤ちゃんですね」
わたしたちは、歓声を上げながら映し出された赤ちゃんを眺めていた。
「ウス=コタ様、男の子女の子どちらですか?」
一緒に見ていたリーナが尋ねた。
「わたしも気になります! 教えて下さい」
一緒に尋ねたわたしの言葉に、ウス=コタは嬉しそうに答えた。
「はい、ハーン。一番上が女の子で、下三人は男の子です」
「おおっ、そうなのですね」
「上の男の子には、我が王家……コタ家を継いで貰う予定です。そして、次の男の子には、妻の家である副王家、シン家に入ってもらい、家を再興して貰うつもりです」
ウス=コタの言葉に、わたしは改めてマイクチェク族の状況を思い出していた。
先日の聖騎士サイモン襲撃で、マイクチェク族は、ウス=コタの父である先代族長を含め、主要メンバーの多数が討たれる大きな被害を受けている。
その際、トワ王妃の父である副王ワント=シンも討たれてしまっていた。
今回生まれた彼らの次男にシン家の名跡を継がせることで、副王家を再興させるつもりなのだ。
「そうですか。それはいいことですね」
「はい。そして畏れながら……」
わたしの言葉に、ウス=コタは頷いてから、続けた。
「ハーンにおかれましては、できますれば、もう一人……我が三男につきましても、将来身を立てられます様、先々ご考慮いただければ幸いにございます」
長男はウス=コタの後継者に。そして次男は副王の座を継ぐという事で、残された三男の今後について、既に心配している様だ。
ウス=コタの言葉に、わたしはにこにこしながら頷いた。
「そうですね。こんな可愛い子供のためですものね。この先、良い将来を考えていきましょう」
「ありがとうございます!」
ウス=コタが感謝して一礼した。
リリ・ハン国の貴族階級として、新たな家を立てるも良し。もしくはどこか適切な名家に養子に入るのも良いかもしれない。
まだ生まれたばかりだし、そうした点はゆっくりと考えていけばいいだろう。どんな選択肢にせよ、子供にとって良い行く末を用意してあげたい。わたしはそんな事を考えていた。
それにしても、生まれてきた子供を眺めるのは。そして明るい未来について考えるのは、本当に楽しく、嬉しい事だ。
……………
(……これは未来の話となるが、ウス=コタ夫妻は、この先も子供を何人も何人も作り続ける事になる。そのため、わたしは大量の子供たちの養子先などの処遇について、先々悩まされる事になるのだった)
……………
子供たちの映像を堪能して、わたしは玉座に座った。
「いやぁ、ありがとう、ウス=コタ将軍。こんな素敵なものを用意してくれて……今日の乾杯は、一段と味が良いでしょう」
侍臣が、飲み物が入ったグラスを運んで来てくれる。わたしは突起の付いたグラスを手に取って、皆に呼びかけた。
「それにしても、本当に皆可愛くて、そして凜々しい表情をしていますね。これからが楽しみです。皆さん、子供達の誕生を祝して乾杯しましょう」
わたしがそう言った時だった。
「ガハハハハハ!」
突然、「玉座の間」に下品な笑い声が響いた。
「!?」
皆が一斉に声がした方を振り向く。
笑い声を上げていたのは……爺だった。
「マ、マンティ殿!?」
廷臣たちが当惑の声を上げる中、爺は笑い続けている。
「ガハハハハハ……! いや~ 『りり』様が『りり』しいって……これは面白い!
ハーンも相当冗談がお好きで」
「マ、マンティ殿、ハーンの御前ですぞ!」
周囲の者が小声で窘めるが、爺は太った身体を揺らして笑い続けた。
「ワハハハハハ、あーっはっはっはっはっは……」
「……………」
その様子を見て、わたしは玉座に座って、すうっと指を動かした。
次の瞬間、小さく音を立てて、爺が立っている床が消滅する。
「ワハハハハハ、ワハハハハハ……ホワァ~ッ!?」
突然足元が消え、爺は悲鳴を上げながら床下に落ち、姿を消した。
皆は一斉にその様子を眺めていたが、やがて何事も無かったかの様に視線を戻した。
「……我が国に、下品な男は不要です」
わたしはぽつりと言って……気を取り直して、グラスを差し上げた。
それに応えて、皆が一斉にグラスを差し上げる。
「りり・ハーン、万歳!!」
皆の唱和と共に、わたしたちは子供達の誕生を祝い、乾杯したのだった。
……………
「……りり様~」
床に開いた穴から、爺がよじ登って来た。
よたよたと穴の縁からよじ登る爺を、周りの皆が手助けして引っ張り上げる。
「爺、大丈夫ですか?」
心配になって声を掛ける。予め穴の下にクッションを入れておいたので、どうやら無事な様だった。
「全く、死ぬかと思いましたぞ! 急に足元が無くなって落ちるのは、すごく怖いですじゃ!」
そう言って、爺が抗議する。
「……ごめんなさいね、折角新しい能力に目覚めたので、こういうの、一度やって見たかったのです」
足元を消す形でボッシュートして、部下を粛清。
新たな能力発動で一瞬で足元を消せる様になったので、一度やってみたかったのだ。
実際やってみると、光景としては少し面白い……のだけど。
目覚めた新能力って、本当にこういった使い道しかなさそうだ……と、虚しさの方が高まる結果になったのだった。
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