第81話 新たなる力
夢の中。
微睡みの中。少し眠りが浅くなって来たのだろうか……わたしは不思議な感覚を感じていた。
《……よ。聞こえますか……》
遠くから声が聞こえる。
そして、ゆっくりと、光り輝く何かが近づいてくる。
《トゥリ・ハイラ・ハーンよ……目を開けなさい……》
その言葉に、わたしはゆっくりと目を開いた。
目に映る景色。そこはわたしが就寝している、「玉座の間」奥の寝室スペースだ。
だが、わたしには感覚で判った。ここは現実の「玉座の間」ではない。わたしも、眠りから目覚めたわけではない。
ここは……夢の中にある「玉座の間」なのだ。
この夢を見たのは。そして、夢の中にある「玉座の間」に来たのは、初めてではない。
わたしが「スキル」に目覚めた、「採掘」の能力を授けられた「あの時」以来だ。
ということは、この夢は……。
そう思ってベッドに座って目を上げると……白いゆったりとしたドレスを身に纏った、一人の女性が立っていた。
……………
《トゥリ・ハイラ・ハーンよ。久しぶりですね》
身体全体がぼんやりと輝いている、その女性が言った。
「お久しぶりです。神様……でいいのでしょうか」
わたしの言葉に、彼女は落ち着いた笑みを浮かべた。
かつてわたしに『採掘』の能力を授けてくれた、「ゴブリンの神様」。あの時は遅刻してきた?からか、慌てた様な軽い言動が多かったけれど、今日は落ち着いた雰囲気を感じさせるし、前回よりも厳かで声の響き方も違う気がする。
彼女が二回目で慣れて来たからだろうか。それとも、わたし自身もあれから様々な経験を重ねた事で、感じ方が変わったためだろうか。
思えばあの日、あの時からこれまで、様々な出来事があって、あの頃とは状況はすっかり違っている。感じる感覚が変わっていてもおかしくはなかった。
《トゥリ・ハイラ・ハーンよ。あなたの活躍をずっと見ていましたよ》
「ゴブリンの神様」が言った。
《ヘルシラント族の掌握。他部族との合戦。そして七英雄との戦い。こうしてこの地方を統一して、ハーンに即位したこと、見事です》
「あ、ありがとうございます……」
《そして、現在はハーンとして、隣接する地方にも勢力を伸ばしつつある……見事な活躍です。これからもその名の通り「叙事詩を紡ぐ者」として、この大陸での更なる活躍に期待します》
「ありがとうございます。領土全てのゴブリンたちを繁栄させ、皆が仲良く幸せに暮らせるように、これからも頑張ります」
《……………》
わたしの言葉に何も答えずに、静かな笑みを浮かべて、じっとわたしを見ている「ゴブリンの神様」。
少し沈黙が続いた後、わたしは女神に尋ねた。
「そ、それで……今回来られたのは、どの様なご用なのでしょうか……」
わたしもいろいろ文献を読んで来たが、これまでの「ゴブリリ」の歴史で、「スキル」を授与する神様が二度も現れた……などという事は、聞いた事がない。
普通は「スキル」を覚醒する時に降臨する、一度きりの筈だ。その後に姿を現したなど、聞いた事もなかった。
実は、人生の最後に……亡くなる直前に、もう一度やって来たりする!? しかし、今回女神が現れたのは、そうした「お迎え」というわけでもなさそうだった。
《トゥリ・ハイラ・ハーンよ……》
わたしの問いに、しばらくして「ゴブリンの神様」が口を開いた。
《今日はあなたに……新たなる力を授けに来たのです》
「えっ!?」
思わぬ言葉に、驚きの声が出てしまう。
《ハーンとなったあなたが、大陸を舞台に様々な物語を紡いで、更に活躍する様に……あなたに新たな力を授けます》
女神……「ゴブリンの神様」の言葉に、わたしは驚いて尋ねた。
「その……新たな能力をいただけるのは、有難いのですが……どうしてなのですか?」
《どうして……とは?》
「あの、これまでの歴史上の『ゴブリリ』にも、ハーンとなった者はいましたが、二つ目の『スキル』を与えられた話は聞いたことが無かったので……」
《ふふっ、そうですね……》
わたしの質問に、「ゴブリンの神様」は、小さな笑みを浮かべて言った。
《それは……この時代が、大変な時代だからです。今、この時代には、過去に前例の無い事が起きているからです》
女神の言葉を、わたしは頭の中で反芻していた。
(今は、過去に前例の無い事が起きている、大変な時代……)
《あなたがこれからの出来事に相対して、大陸を舞台に「叙事詩を紡ぐ者」として生き延び、活躍するために……新たな力を授ける事にしたのです》
女神の言葉が、頭の中に響いてくる。
「火の国」を統一して、隣接する「日登りの国」に進出をはじめた、我が「リリ・ハン国」。
勿論、国内統治や、周辺のゴブリン部族との関係など、解決すべき課題は多い。だが……例えば外敵から攻められていたり、内乱が起きたりといった、存亡の危機に立っているわけではない。
今のところは比較的順調だし、女神が言うような「過去に前例の無い事が起きている、大変な時代」だという様な実感は無い。
でも実は、大陸全体では女神が言うような出来事が。過去には無かった何か大変な出来事が起きていて、この先「リリ・ハン国」も困難に直面する事になるのだろうか。
《トゥリ・ハイラ・ハーンよ》
「ゴブリンの神様」が言った。
《今回与える新たな『スキル』で、この大陸を生き延び、活躍して、澱んだ世界を変動させ……大陸にすばらしい叙事詩を紡いでくれる事に期待しますよ》
わたしは女神……「ゴブリンの神様」を見た。
相変わらず静かな笑みを浮かべており、彼女の言葉の……そして行動の真意を読み取る事はできない。
だが、この神様が新たな「スキル」を与えてくれること。そして、今後直面するかもしれない困難に相対するためには、おそらく、その新たなる力を活かす必要があるだろうことは、間違い無さそうだった。
「そ、それで、どの様な力、『スキル』を授けていただけるのでしょうか……?」
わたしの言葉に、女神は暫く沈黙した後で、答えた。
《トゥリ・ハイラ・ハーンよ。あなたに授ける新たなる力は……》
《「刻印」です》
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