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第74話 リリ・ハーン誕生

 しん、と静まりかえった幕舎の中。

 戴冠を終えたわたしは、一同に向けて、即位にあたっての言葉……ハーンとして最初の勅語を語り始めた。


「朕、火国三族及び火国の民の推戴により、全ゴブリンの守護者たるハーンに即位す。ここに即位の(れい)を行い、普く(あまねく)(なんじ)臣民に()ぐ」


 そこで言葉を切り、息を吸って……これまでの事を思い出しながら、言葉を続ける。

(おも)うに、火国に降り十余年、神意により天命を識る。

 神威に覚醒し、爾来(じらい)臣および民の扶援により火国三族を束ね、遂に三族並びに火国全民により、ハーン位に推戴されたり。

 是、朕が天命なり」


 青く透き通った空を見ながら、更に言葉を続ける。

「ゴブリンの祖宗の威霊に頼り、(つつし)みて大統を受く。

 国を以て家と為し、民を見る事、子の如し。思いを民に(あまね)く施し、兆民相率いて敬忠を捧げ、上下感孚(かんぷ)し、君民体を一にする。これこそが朕が国体の精華にして、存すべき所以なり」


 目の前に並ぶ、若いわたしを推戴し、支えてくれる皆を見つめながら、言葉を続ける。

「朕、寡薄(かはく)なれど、謹みて億兆の翼戴(よくたい)と祖宗の擁護とに頼り、以て天職を収め堕すこと無く(あやま)つ事なからむ事を願う」


 もう一度息を吸って……「即位の勅語」の結びとなる言葉を続ける。

「朕、内は則ち教化を醇厚(じゅんこう)にし、(いよいよ)民心の和会を致し、益々国運の隆昌を進める事を念じ、外は則ち国交を親善にし、以て全ゴブリン並びに領民を益さむ事を願う。

 有衆其れ心を(かな)え、力を合わせ、公に奉して、以て朕が志を弼成(ひつせい)し、朕をして祖宗の遺烈を揚げ、神霊の降鑒(こうかん)に応うることを得しめよ」


 このヘルシラント山の周囲に集まり、わたしを支持し、ハーン即位を祝ってくれる民たちを思いながら、言葉を結んだ。


 言葉の結びと共に、玉座の前に並ぶ一同が、一斉に一礼する。


 そして、一同を代表して、コアクトが進み出てきた。

 わたしの前に立ち、一礼すると、寿詞(よごと)を語り始めた。


「臣コアクト、謹んで申し上げます。

 畏れ多くもハーンにおかれましては、本日ここにめでたく即位の儀を挙行され、ご即位を内外に宣明されました。

 我ら百臣、一同こぞって心からお慶び申し上げます」

 その言葉とともに、コアクトと一同がわたしに深々と一礼する。


 コアクトは続けた。

「ただいま、神聖なるハーンから、ご即位に伴い、我ら臣民にお考えが示されました。

 我ら臣民が進むべき道を示されると共に、我らを導かれるハーンとしての深甚なるお考えと、国家と全てのゴブリン、そしてこの国に生きる全ての臣民の繁栄を願われるお気持ちを伺い、深く感銘を受けるとともに、敬愛そして尊崇の念を今一度新たにいたしました」

 言葉を紡ぐ、コアクトと目が合った。

 わたしの即位を心から祝い、喜んでくれている気持ちが伝わってきて、わたしの心も嬉しさに踊るのを感じる。


 わたしを見つめながら、コアクトが続けた。

「我ら臣民一同は、神聖なるハーンを我が国及び臣民の中心として仰ぎ、心を新たに、誇りある我が国の輝かしい未来、臣民相和して繁栄する時代を創り上げていくため、ハーンに忠誠を捧げ、最善の努力を尽くして参ります」


 息を継いで、コアクトは寿詞の結びの言葉を告げた。

「ここに、ハーンの御代の繁栄と、神聖なるハーンの弥栄(いやさか)をお祈り申し上げ、お祝いの言葉をお捧げ申し上げます。


 トゥリ・ハイラ・ハーンの元年、寝覚めの月、11日

 大尚書、コアクト・コエン」


 言葉を結んだコアクトが、一礼する。

 わたしは、小さく頷いた。



 少しの静寂の後。

 コアクトが数歩後ろに下がり、立ち並ぶ一同の前に立った。

 そして、背筋を伸ばし、両手を差し上げて、叫んだ。


「ご即位を祝し」

「りり・ハーン、万歳!」


「「万歳!!」」

 一同が一斉に両手を上げて、万歳の言葉を叫ぶ。


「「万歳!!」」「「万歳!!」」

 延べ、三度、一同は万歳を唱和した。



 三度目の「万歳」の声と共に、幕舎のすぐ外で、どん、と大きな音を立てて太鼓が鳴らされた。


 太鼓の音は、ヘルシラント山の周辺に。静まりかえってこの時を待っていた、集結した人々の間に響き渡る。

 太鼓の音と共に、人々は一斉に「万歳!」と叫んだ。


 山の周辺で一斉に上げられた、民衆たちの「万歳」の声が、山頂の幕舎へと響いてくる。


 太鼓は、何度も、何度も叩かれる。

 その度に、民衆たちの上げる「万歳」の声が、山全体を震われる様に響くのだった。


 ハーンの誕生を祝い、太鼓は延べ21回叩かれ、同じ数だけ、「万歳」の声もヘルシラントの山に響き渡ったのだった。



……………




 我が本拠、ヘルシラント山の頂上。幕舎の中。わたしは玉座の前に立って周りを見回した。

 わたしが玉座の前には、各部族の長たちが跪いている。


「さあ、ハーン……民衆たちに、お姿をお見せ下さい」

 コアクトの言葉に、わたしは頷いた。


 幕舎の外……ヘルシラント山の周辺では、「その時」が近づいた事を察してか、空気が張り詰め、次第にざわざわとした声が大きくなってきた。

 見回すと、集まった各部族の代表たちが一斉に頷く。

 さあ、いよいよだ。


 わたしは皆の間を歩き抜け、幕舎の外に出た。

 快晴の青空の下、白い穂に覆われた草原が輝いている。


 ぴりぴりとした空気と喧噪が伝わってくる中、わたしは皆と共に、ヘルシラント頂上の草原の端まで歩き、眼下の景色を見下ろした。


 ……山の下は、どこまでも、地平線まで続くかと思われる程の人波で、埋め尽くされていた。


 様々な部族たちの、旗印が見える。

 ヘルシラント族。イプ=スキ族。マイクチェク族。

 それだけではなく周辺諸国の有力ゴブリン部族の姿も、そして「火の国」に住む人間たちの姿も見える。

 ゴブリン諸部族、そして沢山の人間たちが、この「炎の冠山」、ヘルシラント山の麓に集結していた。


 姿は小さくとも、はるか頂上に立つわたしの姿を認めたのか、麓に集結した者たちの興奮度が一気に高まる。そして、一斉に声を上げた。


「りり・ハーン、バンザイ!」

「りり様に栄光あれ!!」

「りり・ハーン、ばんざーい!!」

「りり様ばんざい!」

「ハーン様万歳!」


 一斉に上がった歓声が、大地を揺るがす。

 掛け声は様々だが、いずれも、わたしが、この「火の国」を統べる、ハーンに推戴された事を称えるものだ。

 全てが、ハーンとなったわたしに向けられた歓声なのだ。


 声に応じて、わたしが山の上から手を上げると、歓声がひときわ高まった。


 これまで、「火の国」で部族毎に分かれ、身勝手な略奪や不毛な氏族間争い、内紛で、互いに消耗していただけのゴブリンたち。

 しかし、これからは違う。「火の国」全体が纏まった、一つの大きな力となった。一つの群れに組織され、統制された群れとなったわたしたちの力は、大陸全土を舞台として、更なる繁栄、発展のために使われるのだ。


 このヘルシラント山の麓に集結した、「火の国」のゴブリンたち。

 彼らがどこに向かうのか。それは……ハーンであるわたしの意思で決まるのだ。


 わたしは、もう一度手を上げて、民衆達に応えた。


 それを見て、興奮、そして歓声が、最高潮に高まる。

 「万歳」を叫ぶ声は一段と高くなり、いつまでも収まりそうに無い。



 ……………



 わたしは、リリ・ハーン。

 「火の国」を統べる、トゥリ・ハイラ・ハーン。


 この国に、そしてこの大陸に住む、全てのゴブリンたちの繁栄のために。

 わたしを信じ、ついてきてくれる全ての者達に、安定と繁栄を。そして、これから数百年の安寧をもたらすために。


 さあ……新たなる物語を、紡ぎ始めよう。


 読んでいただいて、ありがとうございました!

・面白そう!

・次回も楽しみ!

・更新、頑張れ!

 と思ってくださった方は、どうか画面下の『☆☆☆☆☆』からポイントを入れていただけると嬉しいです!(ブックマークも大歓迎です!)


 今後も、作品を書き続ける強力な燃料となります!

 なにとぞ、ご協力のほど、よろしくお願いします!

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[一言] 面白いです。 良い物語をありがとうございます。
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