第67話 「灰の街」との交渉
「この度は……聖騎士サイモンを討伐したとの事、おめでとうございます」
「灰の街」のレバナスは、目の前の椅子に座る、コアクトに語りかけた。
ここは、ヘルシラントの洞窟内の、とある部屋。
洞窟の入口に入ってからここまで目隠しされていたので、どこにあるのかは判らない。
玉座の間や、宝物庫では無い。そして倉庫でも無い。だが、広い空間が確保された部屋だ。
レバナスが目隠しを取られて見渡すと、広い空間にあるのは自分とコアクトが向かい合って座っている椅子と長机。
そして、コアクトの後方に沢山置かれている、様々な物品だった。
うず高く積まれている物品の中には、見覚えのある銀色の……ミスリル鎧も見える。その他様々な品物を、数名のゴブリンたちが整理していた。
「レバナス殿」
目の前に座っているコアクトは、聖騎士サイモンとの戦いで消耗した結果、髪の毛が白く変わっていたが……しっかりとした口調で、改めてレバナスに告げた。
「……貴方もご存じの通り、聖騎士サイモンは、りり様によって倒されました」
「……私も報告は受けております」
レバナスは頷いた。
「派遣部隊」から、死体を確認したとの報告を受けている。
全身の各所に多数の損傷。そして、胸板に穿たれた様な大きな傷。
何らかの攻撃……おそらくは「リリ」の消滅能力によって胸を穿かれて致命傷を受け、更に山頂から叩き落とされたと考えるのが自然だった。
(しかし、何という力だ。ミスリル鎧を着ていたのに、それすら貫通して致命傷を与えるとは……)
レバナスはちらりと後方に置かれているミスリル鎧を見た。
見た目では綺麗な状態で、損傷は見られない。
しかし、サイモンの鎧には魔法の自己修復能力があるので、ミスリル鎧に傷や穴が無い事は判断材料にはならなかった。
「……あの鎧には自己修復能力があるみたいですね。胸に開いていた大穴が修復するのを見た時は、私も驚きました」
レバナスの考えを読んだのか、それとも視線から判断したのか。コアクトが言った。
「……話を戻しますが、あの鎧を始めとする、聖騎士サイモンの持ち物は、全て、我々ヘルシラントの者たちが回収しました」
そう、コアクトが、レバナスに告げた。
「……その様ですな」
ため息をつきながら、レバナスも頷く。
「貴方たちが部隊を派遣していたのは……聖騎士サイモンが死んだ場合、装備を自分たちの物にする予定だったからだと思いますが……残念でしたね」
「……いえいえ、決してその様な事は」
顔色を変えない様に気を付けながら、レバナスが答える。
「……あと、もしサイモンが私たちゴブリンに勝っていた場合は……この洞窟に突入させて、略奪するつもりだったのかしら」
「……いえいえ、決してその様な事はありませんよ」
より注意深く、顔色を変えない様に気を付けながら、レバナスは改めて答えた。
このコアクトという女は……本当に厄介だ。
レバナスは心の中で舌打ちした。
元々の予定では、「弔うために遺体を引き取る」と称して、ゴブリンたちからサイモンの死体を引き取り、腰に付けている(小型の鞄にしか見えない)「収納の魔法鞄」に入っている、数々の魔道具、マジックアイテムを回収するつもりだったのだ。
その後は、高価で貴重なアイテムの数々を、遺族に買い取って貰うも良し、売り飛ばすも良し、と考えていたのに……。
落下の衝撃で「収納の魔法鞄」が壊れた結果、中に入っていたアイテムが外部に散乱する事となり、存在が暴露されてしまった。その結果、全てゴブリン達に奪われてしまったのだ。
そして今、聖騎士サイモンが所持していたアイテムや所持品の数々が、コアクトの後方に積まれており……自分に見せつけられているというわけだった。
……………
「今回、貴方をこの場に呼んだのは……このアイテム類を、貴方たち『灰の街』に差し上げようと考えたからです」
「……えっ? ……よ、よろしいのですか?」
思わぬ言葉に、レバナスが顔を見上げると、コアクトは笑顔で言った。
「貴方たち『灰の街』には、聖騎士サイモン来襲の情報もいただきましたし、足取りも教えていただきました。それに、これからも、長く親密なお付き合いをお願いしたいと思っているのですよ」
「なるほど……持ちつ持たれつ、というわけですな」
「はい。持ちつ持たれつ、です」
レバナスの言葉に、コアクトは笑顔で頷いた。
「ただ、ミスリル装備を始め、私たちにとって有用なアイテムについては、我らヘルシラントの方で回収します。『灰の街』に差し上げるのは、私たちが取った後の、残り、となりますが、それはご了承下さい」
「皆様が聖騎士サイモンを倒したのですから、それはごもっともですな」
レバナスが頷く。
サイモンの装備を全てゴブリンたちに取られても仕方の無いところを、自分たち「灰の街」に譲って貰えるのだ。その位は仕方ないだろう。
コアクトは笑顔で続けた。
「では、この後ろに積まれているアイテムの効果について、一つ一つ教えて貰えますか?」
「えっ?」
「とりあえず、『毒を無効にする装備』『弓矢などの攻撃を逸らす装備』『罠を感知する装備』は確実にありますよね? ここにある内のどれなのかを教えて下さい」
「え……えっと……」
「その他、様々なマジックアイテムがある筈です。それぞれの品物について、知っている限りを説明して貰いますよ」
「わ、わかりました……」
レバナスは気圧された様に頷いた。
聖騎士サイモンの遺品を厚意から譲って貰える、と思いきや、この取引の本当の理由は、ゴブリンたちが有用なアイテムを回収するための鑑定・識別要員としてだった。
(してやられたなぁ……)
コアクトに苦手意識を感じつつ、レバナスはため息をついたのだった。
……………
「これで一通り終わりですかね。ありがとうございました」
「はい……」
結構な時間を掛けてアイテムの鑑別と説明が一通り終わり、レバナスはぐったりとしながら頷いた。
結局、マジックアイテム系のうち、半分くらいはゴブリンたちに回収されてしまった。
彼女たちが重要視していた『毒消しの杯』『弾除けの護符』『罠視の石』などは全てゴブリン側に取られてしまった。その他何点か、効能が役に立つと判断された魔道具、マジックアイテムもゴブリンたちに回収された。
ただ、それ以外のアイテム類は『灰の街』側に譲ってくれたし、魔道具では無い物……高価な宝石類等は、惜しげも無く『灰の街』に譲ってくれた。こうした品物は『灰の街』にとって利益になるだろう。
アイテムに関する情報を提供する事にはなったが、元々取り分がゼロだと思っていた事を考えると、それなりの収穫ではある感じだ。
結果的には、まさに「持ちつ持たれつ」といった結果になったのだった。
「お疲れ様でした。『灰の街』側の取り分については、この後、入口まで運んで引き渡します」
コアクトが言った。
「ありがとうございます。『灰の街』としても、一定の面目は立ちます」
頷くレバナスの後ろで、扉が開いて、ゴブリンたちが何かを持ってきた。
「あと、実は、『灰の街』にもう一つお願いしたい事があります」
コアクトの言葉と共に、ゴブリンたちが運んで来た物が、机の上にごとりと置かれた。
「これは……?」
レバナスが訝しげに、机に置かれたものを見た。
それは……以前に彼らが「リリ」に献上した、ミスリル鉱石だった。
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