第54話 迎撃策の検討
「聖騎士サイモンはタヴェルト侯への報告を終え、現在、我が『灰の街』に滞在していますが、いずれは出発して、ここヘルシラントにやってくると思われます」
レバナスが言った。
「我々『灰の街』として、彼の行動を止める事はできません。しかし今回、逐一彼の行動を報告する形で、皆さんに協力させていただきます」
思わぬ情報提供の申し出に、わたしは尋ねた。
「なぜ、わたしたちに教えてくれるのですか?」
「私たち、『灰の街』は、りり様の、そしてゴブリンの味方だからです」
レバナスは、表情を変えずに言った。
「味方?」
「……大切な、お得意様ですからね。
なので、皆様が無防備な状態で、聖騎士サイモンに『討伐される』事は望んでいません」
レバナスはわたしたちを見て、言った。
「ですから、今回、お得意様である、ヘルシラントの皆様のために、情報提供に参ったのです」
「私どもは、聖騎士サイモンの足取りを掴んでおります。現在どこにいるのか、いつ、このヘルシラントに到達するのか、皆様に情報提供いたします」
「立場上、明確に聖騎士サイモンに敵対する事はできませんが、情報提供は可能です。どうか、万全の体勢を整えて、聖騎士サイモンを迎え撃っていただきたいです」
レバナスがにこやかな……そして怪しげな笑みを浮かべて言った。
明らかに怪しげな、腹に一物ありそうなレバナスの態度。
彼の……そして、「灰の街」の真意はどこにあるのか、わからない。
だが、聖騎士サイモンの動向について情報提供してくれる、という事自体は間違いなさそうだ。
「……わかりました。『灰の街』の助力に感謝します」
わたしはレバナスに言った。
そして、考えを巡らせる。
……………
一人で軍一つに相当する強さを持つと言われる、「七英雄」のサイモン。
そんな彼にいきなり奇襲されれば、わたしたちヘルシラントは、マイクチェク族の様に大きな被害を出す事になるだろう。
だが、彼の動きが事前に分かるのであれば、話は変わってくる。
「予告なしに襲われる」ことが無いだけでも、大きい。
勿論、彼の動向が分かっていても、考えなしに、普通に待ち構えて戦うだけなら、「七英雄」である彼の前に、多大な被害を出すだろう。
わたしたち全員の総掛かりでも、彼の強さを考えれば、返り討ちに遭うことさえありえる。
(でも……)
わたしは考え込んだ。
しかし、聖騎士サイモンは、あくまでも聖騎士……つまり、戦士だ。
魔法などは使わず、普通に剣で、近接戦闘で戦うスタイルの筈だ。言わば、「一般の戦士のものすごく強い」版とも言える。
それならば、わたしたちであれば、対応できるのではないだろうか。
ふと横を見ると、コアクトも同じ事を考えていた様で、わたしを見て、こくりと頷いた。
「これなら、りり様であれば、何とかできそうですね」
その言葉に、わたしも頷く。
「七英雄」の聖騎士サイモンが、どれだけ強いとは言っても、あくまでも剣で戦い、鎧などの装備で身を包んで身を守っている。それは変わらない。
こうした点は普通の人間と同じ。そして、その強さは、身につけている装備があってこその筈だ。
それならば、わたしが持つ「スキル」……「採掘」が有効な筈だ。
先ほど、門外で暴れるウス=コタに対して「スキル」を使った様に……わたしの「採掘」で、聖騎士サイモンの剣を、そして装備を、「採掘」して消してしまえばいいのだ。
そうすれば、サイモンは武器も装備も無い、丸腰の状態になってしまう。
どれだけ強いとは言っても、装備なしの丸腰であれば知れている。
その後は、部族のゴブリン全員で襲い掛かるも良し、周囲から矢の雨を射かけるも良し。いずれにせよ、丸腰のサイモンには……なすすべも無いだろう。
もしくは、ウス=コタの望み通り、彼に戦わせてやるのも良いかもしれない。
もしかすれば、装備を「消された」時点で、逃げに回る……撤退するかもしれないけれど、いずれにしても、我々ヘルシラント側には被害なし。勝利は確実だ。
(後日に復讐に来る可能性を考えると、できれば逃がさずに倒しておきたいところだけど)
わたしたちが警戒して、避けるべきなのは、聖騎士サイモンに奇襲されること。そして、ここに来るまでの道中で、ヘルシラント族やイプ=スキ族が住む、ゴブリンの洞窟や集落が襲われて、被害を出す事だ。
しかし、これはいずれも、彼の足取りが事前に掴めるのであれば、回避できる。
彼……聖騎士サイモンが、ここヘルシラントに来る日時が特定できるのであれば。
現れるのを見計らって、わたしが「採掘」の「スキル」で、彼の装備を消す。
それで……勝てる筈だ。
大きな危機だと思われていた、聖騎士サイモン対策。
だが、これなら、何とかなりそうだ。
そう思いながら考えを巡らせていると……レバナスが続けて発言した。
「そして今回は、情報提供のお約束に加えまして、友好の印として、『灰の街』代表である、ルインバース議長からの贈り物も持って参りました」
「贈り物ですか」
聖騎士サイモンに何とか対応できそう、と安堵の表情を浮かべながら返事をするわたしに、レバナスは頷いた。
「はい。こちらを献上させていただきます」
レバナスが差し出した「贈り物」。
それは……少しは安堵していたわたしたちの空気を、一変させる事になるのだった。
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