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第36話 戦いの終わり

 喜びに沸くヘルシラント軍。

 その反対側で、イプ=スキ族の陣営では対照的な状況が続いていた。


 堀の向かい側では、ようやく炎も、そして増水していたナウギ川の流れも、収まろうととしていた。

 堰を切って流された奔流も落ち着き、イプ=スキ族に対する、逃げられない殺し間と化していた、ナウギ川と堀に挟まれた地域も、ようやく封鎖が解除された様な状態になっていた。


 ……しかしもはや、そこに五体満足なイプ=スキ族は誰もいない。

 夥しいゴブリンと馬の死体、そして負傷兵が地面に転がっており、うめき声が周囲を覆っていた。

 主を失った馬たちが、まばらに草原を駆け回り、水位の下がったナウギ川を渡って対岸に走り去っていく。



 そうした状況の中。

 ……やがて、川の流れが落ち着いた対岸から、イプ=スキ族の騎兵たちが渡ってきた。

 最初に分断された、約2割のイプ=スキの軍勢。そして、スナの最後の指示でかろうじて戦場を離脱した、サラク率いる一部のゴブリン勢だった。


 彼らは川を渡り、負傷兵と一部の死者を馬に乗せて、または担いで回収していく。


 その様子を、堀の向こう側からヘルシラント軍が黙って見つめている。

 リリの指示で、彼らはイプ=スキ族への追い打ちもせず、進軍もせず、その場で待ち続けていた。


 しん、と静まり帰った、不思議な静寂の中、黙々とイプ=スキ軍が負傷兵たちの回収を進めていく。


 やがて、彼らに運べるだけの負傷兵と死者の回収を終えると、イプ=スキ族たちは静かに南の森の方へと去って行くのだった。


 最後まで残っていた、イプ=スキ族のサラクが、堀の手前に馬を進める。

 名残を惜しむように、スナが斃れたヘルシラント軍の方を一瞥する。

 そして……スナへの別れを惜しむ様に、戦死者への鎮魂の様に、そして、負傷兵たちの回収を許したヘルシラント軍への返礼の様に……弓を引き絞って、真上に鏑矢を放った。

 鏑矢についた笛の音が、戦場であった場所に甲高く、悲しげな響きで鳴り響く。

 戦場に響いた鏑矢の音は……やがて、青空に溶け込む様に、消えていった。



 ……サラクを乗せた馬が、戦場を去って行く。


 そして、今度こそ戦場は、静寂に包まれたのだった。




 ……………




 イプ=スキ族が去った後、わたしはヘルシラント軍を前進させた。

 堀に板を掛け、その上を通って向かい側に渡っていく。


 そこには……夥しい数の、イプ=スキ族の兵と、馬たちの遺体があった。

 負傷兵の回収とともに、一部の戦死者はイプ=スキ族が回収していたが、あれだけ数を減らしては、全員までは回収できなかったのだ。


 戦場に転がる……初めて見る、ゴブリンと馬の遺体。

 矢に討たれ、暴れ馬に踏まれ、あるいは炎に焼かれていった、ゴブリンたち。

 わたしが指示した作戦によって、生命を落とす事になった者たち。


 それを見て、わたしは……いたたまれない気持ちになった。


 戦った事自体に、この結果になった事自体には、悔いは無い。

 こうしていなければ、傷ついていたのは、命を落としていたのは、わたしたちヘルシラント族のゴブリンたちだった。わたしの大切な者たちがこうなっていたのだ。

 だから、この結果になった事に、後悔はしない。


 でも、それでも。

 この結果は。こうしたゴブリンたちを見なければならないのは。本当に悲しい。

 彼らと戦わなければならなかったこと。そしてこうした結果しか無かったことは、本当に残念だ。



「……………」


 わたしは、地面に手を向けて、「採掘(マイニング)」を発動させた。

 音と共に、亡くなった一人のゴブリンの横に……穴が掘られる。


「りり様……?」

 横に立つリーナが、わたしに疑問の表情を向けた。


「この場で、イプ=スキ族の者たちを埋葬します」

 わたしは、リーナたちに言った。

「わたしが、ゴブリンたちのために穴を掘ります。みんなは、彼らを埋めてあげて」



「しかし、それではりり様のご負担が……」

「……………。わたしが、やりたいのです」

 わたしがそう言って周りを見渡すと……やがて、まわりのゴブリンたちが頷いてくれた。

「……わかりました、りり様」



 ……………



 そして、夕日が落ちるまで、ずっと。

 わたしたちは、イプ=スキ族のゴブリンたちの埋葬を続けていた。


 わたしが「採掘(マイニング)」で穴を掘り、ヘルシラントのゴブリンたちが、その中にイプ=スキ族兵士の遺体を納めて、土を被せて埋めていく。

 その作業が、ひたすら繰り返された。



 長く続いた作業の後。

 最後に、ヘルシラントの陣の手前で倒れた、イプ=スキ族の族長、スナの遺体を埋葬する。

 わたしが「採掘(マイニング)」で掘った穴に、丁重にスナの身体を納める。そして、その上に土を被せていく。

 最後にできた、小高い土の塚の上に、彼が被っていた兜を置いて……その前で、わたしたちは、静かに一礼した。


 こうして、最後まで戦い、文字通り燃え尽きたスナは、ナウギ湖畔の街道沿いに眠る事になった。



 ……………



 こうして、後の世に「ナウギ湖畔の戦い」として伝えられる戦いは、終わった。


 この時のわたしは、ただ勝つことに、ヘルシラント族を守ることに夢中で。

 そして、何とか勝利できて、ヘルシラント族のみんなを守れた事だけで胸が一杯だったけれど。


 やがて、この戦いの顛末とその結果は……「火の国」全体に、そして次第にファレス大陸全体に知れ渡っていき、様々な影響を及ぼす事になるのだった。

 読んでいただいて、ありがとうございました!

・面白そう!

・次回も楽しみ!

・更新、頑張れ!

 と思ってくださった方は、どうか画面下の『☆☆☆☆☆』からポイントを入れていただけると嬉しいです!(ブックマークも大歓迎です!)


 今後も、作品を書き続ける強力な燃料となります!

 なにとぞ、ご協力のほど、よろしくお願いします!

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