表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/238

第29話 戦場での下準備

「溝は、わたしの『スキル』で掘ります」

 わたしは、みんなを前にして「採掘(マイニング)」で穴を掘りながら言った。


 ……そう。普通に今から手で地面を掘り返していたら、間に合わないけれど。しかし、わたしの「採掘(マイニング)」であれば、十分に必要なだけの溝を掘る事ができる。



「確かに、りり様のお力なら、何とかなりそうですな」

 次々と溝が掘られていく様子を見て、周りで見ていたゴブリンたちが、安堵の声を上げた。


「溝を掘るのは、わたしが担当します。わたしの『スキル』なら十分間に合います。

 ……みんなは、他の事をお願い。

 爺たちは、『川』の仕込みを。

 そして、リーナとみんなは、少しでも多く弓兵を編成して、弓矢を用意して頂戴」

 一通り指示を出してから、わたしはあらためて周りを見回した。そして、呼びかける。

「みんなの力で、この戦い、勝ちましょう!」

 周囲から一斉に「おーっ!」と声が上がった。



「わかりました!」「お任せ下さい!」

「さすがはりり様です!」

「これなら勝てますよ! イプ=スキの連中……見てろよ!」

 返事をして、皆がそれぞれの持ち場に散っていく。


 ヘルシラントの山に戻り、弓矢の準備と弓兵の編成を行う者たち。

 そして、ナウギ川の「仕掛け」の作業を行う者たち。

 勝機が見えてきた事もあって、彼らの雰囲気は、少し明るくなっていた。



 わたしは、護衛のゴブリン兵数名とその場に残る。

 そして、「採掘(マイニング)」を連続で発動させて、溝を掘り始めた。

 このイプ=スキ族との戦いに向けた対策。どの要素も大切だけれども、わたしが掘る「溝」が最重要項目だ。

 それだけに、しっかりした物を掘らねばならない。



 わたしの「スキル」が役立って、ヘルシラント族のみんなを守れるのか。

 そして、わたしが「ゴブリリ」女王として、あるべき姿を示せるのか。

 ここが正念場だ。


「さあ、がんばりましょうか」

 わたしは自分に言い聞かせる様につぶやいて、「採掘(マイニング)」の能力で、少しずつ溝を掘り進めていった。




 ……………




 念のためにヘルシラント側の作戦も確認しておこうと、湖畔まで来てみれば……。アクダムが目にしたのは、不思議な風景だった。

 リリが消滅の「スキル」を使って、草原の途中に溝を「堀り」始めている。


 他の連中の動きを見ると、どうやら弓兵の確保に動き出しているらしい。

 それにしても、川の手前に溝。いったい何なのだろうか。

(……何を考えているのだ?)

 アクダムは考えこんだ。



 弓兵中心に兵を用意するのは、イプ=スキ族の弓騎兵に備える事を考えれば、(到底足りないにしても)妥当な判断だろう。

 だが、この溝は一体何に使うのだろうか。


(これは……塹壕、というやつか?)

 少し先には、ナウギ湖に流れ込んでいる、ナウギ川が横断している。

 もし当日に水かさがあれば、川を渡るときに、イプ=スキ族の騎兵の動きも鈍るだろう。

 溝の中に兵を伏せ、イプ=スキ騎兵が渡河する隙に矢を放てば、ある程度の打撃を与えられるかも知れない。


 ……だが。

(これだけでは無理だ)

 アクダムはそう結論を出した。

 渡河の際に不意打ちでダメージを与えたとしても、限定的だ。ほとんどのイプ=スキ騎兵は河を渡りきって、すぐに駆け寄ってきて塹壕の中に弓矢を打ち込むだろう。溝の中からは逃げられないだろうし、おそらくは全滅してしまう筈だ。

 あと、そもそも最近の天候を考えると、当日のナウギ川が、足止めに役立つほど水かさがあるとは思えない。


 普通に陣を敷いて、一方的に射られるよりは、渡河時にダメージを与えられるだけマシかもしれない。しかし、勝てない事にはかわらないし、塹壕に配置した兵が全滅する分、こちらの方が悲惨な結果になるとも言える。

 塹壕の前に全体的に柵を作れば、足止め効果は増すかもしれないが、残された時間や地面の固さを考えれば、そこまでの余裕は無いだろう。


(……そんな事もわからないのか、こいつは)

 アクダムは密かに嘲笑った。

 まあ、「ゴブリリ」だというだけで、そして「スキル」の力で、族長になっただけの小娘だ。頭が回らないのも仕方がない。


 「文烏(ふみがらす)」で、この動きを知らせておくべきか? ……いや、この程度の事であれば必要あるまい。わざわざ知らさなくとも、予め示し合わせておいた手筈通りで問題無いだろう。


 もはや、この戦の結果は見えた。この程度の浅知恵では、イプ=スキ軍には勝てないだろう。

 ここから必要なのは、自分たちアクダム派がこの戦いで、如何にダメージを受けないように温存するか。とりあえず、自分の手勢が塹壕に配置されない様には、根回ししないといけないだろう。


 そして大切なのは、戦いの後、敗戦して求心力が失われたリリに対して、どの様に立ち回るかだ。

 それに、展開次第では……戦いの途中で、もっと劇的な場面で、出番があるかもしれない。こちらの展開になる公算の方が高いだろう。


 いずれにしても……もう打つ手は決まっている。


 戦場で、リリの絶望顔が見られるのが、今から楽しみだ。

 「スキル」で溝を堀り続けるリリを眺めながら、アクダムはほくそ笑んだ。

 読んでいただいて、ありがとうございました!

・面白そう!

・次回も楽しみ!

・更新、頑張れ!

 と思ってくださった方は、どうか画面下の『☆☆☆☆☆』からポイントを入れていただけると嬉しいです!(ブックマークも大歓迎です!)


 今後も、作品を書き続ける強力な燃料となります!

 なにとぞ、ご協力のほど、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ