第28話 作戦を決めた!
しばらくの移動時間を経て、わたしたちは、ナウギ湖の湖畔までやって来ていた。
このナウギ湖畔の東岸地帯が……おそらくは、わたしたちヘルシラント族とイプ=スキ族の決戦の場となる。
ヘルシラントの首脳陣たちで、馬に乗って湖畔まで駆けてきた。ヘルシラント周辺には馬の生息地が無いので、ここにいる乗馬用の数頭がヘルシラント族が持っている馬の全てだ。
わたしたちの馬は、あくまでも一部の者たちが移動用で使える程度。戦闘で組織的に使えるだけの頭数はいない。多くの馬を持ち、騎馬隊が編制できるイプ=スキ族が羨ましくなる。
わたしは乗馬ができないので、リーナが乗る馬に、一緒に乗せて貰っている。
ナウギ湖畔沿いに入ったあたり、東岸沿いに、しばらくは平地が広がっている。
草原が広がる平地。草原という事で草に覆われているが、それほど背が高いわけではない。草の丈は地面は見えないものの、腰の高さまでといった感じで、姿を隠せる程ではない。馬の上からでも、一面を見渡すことができる。
このあたり……ナウギ湖畔東側の平地が、わたしたちヘルシラントとイプ=スキ族の戦場になるものと思われた。
前方から弓騎兵で攻めてくるイプ=スキ族の兵を、どこで、そしてどうやって迎え撃つのかが問題だ。
そして、ある程度先に、川が横断しているのが見えた。これがナウギ川だろう。
更にその先、少し進むとそこはもう森だ。この更に北から、森を抜けてイプ=スキ族は攻めてくるのだ。
先行した偵察の兵が、イプ=スキ族の伏兵がいない事を確認して、わたしたちを呼んでくれた。
「……こちらが、ナウギ川です」
馬を駆るリーナの後ろに掴まって、ナウギ川を渡る。
左手にナウギ湖が広がっているのを横目に、河原に入っていく。事前の話通り、水かさはかなり浅く、馬も脚を取られることなく、普通に歩いて渡っている。
河底も、それほど岩でゴツゴツしているわけでもない。この程度だと、駈足でも問題無く渡れるだろう。
……つまり、現在の状況では、この川は移動の、そして進軍の障害には全くならないという事だ。
……だけど。
「……………」
わたしは改めてナウギ川を見た。
湖の東岸を、横断する様に流れているナウギ川。更に上流は山沿いで南側に曲がっている。わたしたち、ヘルシラント領の方が上流になっており、そこから流れてきている。
こうした状況を少しずつ整理していって……わたしの頭の中で、考えが纏まって来た。
(……これは、上手くいけば使えるかもしれない)
わたしの頭の中に、この戦場と自分の「採掘」を使った戦い方が、ようやく固まって、一つの形になって来たのだった。
……………
わたしは改めて、戦場となるナウギ湖畔東岸の状況を見回した。
手元の地図や現地の状況を見渡して、ナウギ湖、そしてナウギ川の位置関係を確認する。
そして改めて、考えた作戦を頭の中で整理してみる。
「……………」
うん、この考え方で。この作戦でいい筈だ。
「みんな! 聞いて下さい!」
わたしは、ヘルシラント族の代表を集めて、自分の考えを伝えてみた。
……………
しばらくわたしの話を聞いていた、ヘルシラント族の代表者たち。
リーナや爺も含めて、わたしの提案に聞き入っていた一同は……やがて、一斉に頷いてくれた。
「……なるほど、その作戦、かなり良いのでは?」
「これなら勝てるかもしれませんな」
「さすがはりり様! 軍略もおありとは」
話を聞いた、みんなが賛成してくれる。
主に本や物語を読んだ経験から浮かんで来た、紙の上で……頭の中で考えた様な作戦だけれども。どうやら大丈夫そうだ。
しかし……ふと、爺が心配げな表情を浮かべる。
「しかしりり様。その作戦には、溝を掘る必要がありますが……この短時間で、それだけの規模のものを、我々の人手で掘れるのでしょうか?」
わたしは足元を見つめた。草原という事もあって、地面には草の根が張っている。普通に作業すれば、掘り返すのは大変そうだ。
「イプ=スキ族の連中が攻めてくるまで、もう期間がありません」
リーナも心配そうに発言する。
しかし、その言葉に、わたしは、ぽん、と胸を叩いた。
「任せて! そのためのわたしの『スキル』なのだから」
そう言って、てのひらを地面に向けて「採掘」を発動させる。
ボシュッ、と音がして、地面の一部が「掘られて」消滅する。続けて「採掘」を発動すると、音とともに地面が次々と凹んでいった。
おおっ、と周囲から歓声が上がった。
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