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外伝1 コアクトとの交流(前編)

 この日、わたしの住むヘルシラントの族長部屋には、人間の商人と手伝いのゴブリンたちが、次々と荷物を運び込んでいた。

 「魔光石」との交換で行っている交易で手に入れた、商品の数々。この日は「カイモンの街」の商人との交易で手に入れた品物を、搬入して貰っていた。


 族長部屋に次々と運び込まれる荷物を、わたしはわくわくしながら眺める。

 今回の交易の品物は、わたし自身がリクエストした品物が多いので、とても楽しみにしていた。

 品物の一部は調度品だ。これでこの部屋も、より便利になるだろう。



 てきぱきと荷物の梱包を解いていく商人を見ながら、わたしは話しかけた。

「そう言えば、先日、山登り?で迷い込んできた人間が、『映石』というアイテムを持っていたのですが、あなたの所で取り扱っていますか?」

「『映石』、ですか……? 聞かない名前ですね。それはどの様な品物ですか?」

「ええと、四角くて、てのひら程の大きさで、書物の内容や景色を写しとって、表面に映す事ができる、薄い石の様な品物でした」

「うーん、やはり聞いた事もないですな。何かのマジックアイテムですかね」

 わたしの説明に、カイモンの街の商人は首を傾げた。

「多分古王朝時代のアイテムだと思われるので、貴族の家に伝わっていたり、古代遺跡に残されていたり……。なかなか、普通では手に入らないのではないかと」

「そうですか……」

 あのアイテムがあれば、本棚の本を写しとって、どこでも好きなところで本が読めると思ったのだけど、入手は難しそうだ。

「もしそうしたアイテムがうちの商店に流れて来たら、真っ先にリリ様にお知らせする様に致します」

「よろしくお願いしますね」



 そんな事を話している間にも、次々と荷物が運び込まれてくる。

 人間の商人たちが、そして手伝いのゴブリンたちが抱えながら運んでくるのは、沢山の書物たち。

 調度品もあるけれど、今回注文した荷物は、書物が中心なのだ。

 新しい本が読みたいと思って、今回「カイモンの街」の商人に注文していたのだ。


 今回の取引で、人間の街で読まれている様々な書物を手に入れる事ができた。これだけの本をこれから読むことができる。本当に楽しみだ。

 今回の「カイモンの街」に加えて、別途「灰の街」にも書物の注文を行っている。こちらも近日中に届く予定だ。「灰の街」はこの「火の国」地方で最大の街なので、どれだけ充実した品揃えの本が届くのか、今から楽しみだ。


 そして、今回「カイモンの街」から届いた本達も負けてはいない。これだけ大量の、そして様々な種類の書物が、新たにわたしの本棚に加わるのだ。

 「灰の街」から追加の本が来るまで、読む本には困らない……というより、今後も末永く、わたしの読書コレクションとして楽しませてくれるだろう。これらの本と共にある生活が、本当に楽しみだ。

 ゴブリン文字だけでなく、人間たちの鶻文字(「火の国」地方の文字)や都文字を習得しておいて、本当に良かった。


 書物を運び込んでいるゴブリンたちを見ると、興味なさげというか、何か良く判らないものを見るような目をしている。

 ゴブリンたちの多くは、簡単なゴブリン文字しか読めない者がほとんどなので、無理も無かった。人間の文字が読めるのは、爺やリーナ。部族全体でも一部の有力者くらいだろうか。

 その意味で、わたし自身で書物から学んだ知識を部族の皆のために生かすこと。そしてそのためにも多くの書物を読む事は、わたしの使命だとも言えるのだった。

 まあ、結局のところ、好きだから読んでいるのだけれど……。



 そんな事を考えながら、わたしは族長部屋のベールを開けて、奥にある書斎スペースへと入っていった。

 幽閉時代からわたしと共にあった、歴史書や小説などの大切な本達が、所狭しと本棚に入っている。ここに新たなコレクションが加わるわけだ。

 新しい本達はどのあたりに入れようか。新しい本棚を置くべきか、それとも「採掘(マイニング)」の力で壁を掘るべきだろうか……?

 そんな事を考えながら部屋を見回すと……


「!?」

 誰かが本棚の前にうずくまっていた。


 よく見ると、ゴブリンの少女がひとり、本棚から何冊か本を取り出して、そのうちの一冊を一心不乱に読んでいるのだった。

 わたしより年齢は一回りくらい上だろうか。フードを被って、眼鏡を掛けた少女ゴブリンが、本を読んでいる。

 その表情は何だか興奮気味で、頬が紅潮している様だった。

 多分自分と同じだから……わたしにはわかる。これは、楽しい本を夢中で読んでいる顔だ。


 少しの間、わたしはその少女を眺めていたが、やがて声を掛けた。

「あ、あの……」

「きゃっ」

 その少女は、急に声を掛けられた事に驚いたのか、小さく悲鳴を上げた。

 そして、わたしを見て、もう一度驚きの声を上げる。

「あっ! りっりりりりりり様! す、すすすいません」

 慌てたのか、読んでいた本がぱたりと倒れる。それは「初秋時代の王朝年代記」だった。


「ああ、その本、面白いですよね」

 わたしが本の内容を思い出しながら呟くと、少女はものすごい勢いで食いついてきた。

「そうなんですよりり様! ファレス王朝の『晩夏の変』以降、現代にも繋がってくる、社会情勢の変化が生じた面白い時代! いろんな重要な出来事、面白い事件が起きて面白いんですよね! 現代の人間たちの諸侯の祖先が登場したり、この時代に成立した諸侯が出来たりするのも面白いですよね! 回り回って、現代の様々な氏族や勢力圏にも繋がってくるので、とても面白いです! それにこの時代の『ゴブリリ』である『森のハーン』も勢力争いに絡んでくるのが面白いです! 歴史って、いろんな物語があっていいですよね! それからそれから……」

「そ、そうですね、面白いですよね」

 勢いに押されて、思わずたじろいでしまったが、この時代について面白いと思っている気持ちは、わたしも同じなのだった。


「あ、すいません、私だけ勝手にしゃべってしまって……」

 わたしの視線に気がついたのか、彼女が赤面して俯いた。コロコロと表情が変わって、面白い子だ。

 しかし、うちの部族にもこんな本好きの子がいたなんて知らなかった。


「それで、あなたは……?」

 わたしがそう言うと、少女は慌てた様に身を正して、言った。


「あ、申し遅れました、りり様。私、コアクトと言います」

 読んでいただいて、ありがとうございました!

・面白そう!

・次回も楽しみ!

・更新、頑張れ!

 と思ってくださった方は、どうか画面下の『☆☆☆☆☆』からポイントを入れていただけると嬉しいです!(ブックマークも大歓迎です!)


 今後も、作品を書き続ける強力な燃料となります!

 なにとぞ、ご協力のほど、よろしくお願いします!

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