第19話 イプ=スキ族
ヘルシラントよりも北方、「火の国」の中部に属する、森外れの平原。
この地で、ゴブリン部族間の戦闘が行われていた。
北方の森から攻めてくる歩兵は、「火の国」北部に大きな勢力を持つ部族、マイクチェク族のゴブリン兵だった。
ゴブリンとしては比較的上質な槍と剣、そして木の盾で武装した、数百名のマイクチェク族の兵たち。森の中で鍛えられ、ゴブリン同士、一対一の殴り合いであればまず負けることは無いほどの精強なゴブリン兵である。
しかし……そのマイクチェク族のゴブリン兵は……この戦いでは文字通り「手も足も出ない」状況に置かれていた。
南方で待ち受けていたのは、イプ=スキ族のゴブリン兵たち。
全員が馬に乗り、弓で武装していた。
イプ=スキ族自慢の、弓騎兵である。
彼らは、マイクチェク族の陣に騎馬で近寄っては、逃げながら後ろ射ちで矢を放ち続ける。
弓で攻撃できる距離までしか近づかず、決して白兵戦には持ち込まない。
マイクチェク族の兵が近づいてきたら逃げて距離を取り、ひたすら、離れたところから一方的に矢を打ち込み続ける。
この繰り返しで、次々と矢を打ち込まれたマイクチェク族の兵は、戦うことすらできずに次々と倒されていった。
勿論、マイクチェク族側にも弓兵はいるが、イプ=スキ族の騎馬弓兵が駆け回る動きについて行けず、有効な打撃を与えられない。唯一、騎兵に攻撃できる彼らが、早々に狙い撃ちで「処理」された後の戦況は、一方的なものになった。
盾を構えても、隙間から弓を射られる。手も足も出せずに、ひたすら矢を打ち込まれ続ける。
こうして被害を拡大させ続けたマイクチェク族の軍勢は、大きな損害を出して、ついに森に撤退したのだった。
会戦の初期に、マイクチェク側の弓兵で若干被害を受けた以外は、ほぼノーダメージで圧倒。守備側、イプ=スキ族側の圧勝である。
……………
「者ども、我らの勝利だ! 勝ち鬨を上げよ!」
イプ=スキ族のゴブリン騎兵のひとりが、鏑矢をつがえて、天空に放つ。
ピュウウウウと甲高い音が戦場に鳴り響いた。
その音に合わせて、イプ=スキ騎兵たちが勝ち鬨を上げる。
「ヒャッハアアアアッ!!」
「ヒャッハー!!!」
甲高い声が、戦場に鳴り響く。
その様子を、矢を放った、ひときわ豪華な兜を被ったゴブリンが、満足げに眺めていた。
「スナ様、お見事でした」
逃げ去るマイクチェク兵を馬上から見ながら、側近のゴブリン、サラクが呼びかける。
「ふん……マイクチェクの連中ども、他愛も無い」
弓を下ろしながら、イプ=スキ族の族長、スナ=ムーシは嘲笑った。
「数が多いだけの連中め、何度痛めつけても学習しないと見える」
「これでは、肩慣らしにもなりませんな」
「全くだ」
サラクの言葉に、スナは馬首を南に向けながら答える。
「さて、次は……ヘルシラントか」
「はい。……何でも、最近は『魔光石』が出たそうで、交易で潤っているとか」
「ふっ、それは……そろそろ、我らの収穫時だな」
「左様ですな。所詮、我がイプ=スキ騎兵の敵ではありますまい」
サラクの言葉に、スナは笑みを浮かべながら頷いた。
「どうやら『ゴブリリ』女王とやらが覚醒したらしいが、どんな力を持っているにせよ、我らの矢で針鼠にしてやればいいだけの事だ」
「もし出て来ずに洞窟に籠城されたら……」
「その時は、周りの村を焼いてやれば良い。どちらにせよ、我がイプ=スキの軍門に降るしかないのだ」
スナとサラクは、顔を見合わせて笑った。
「それに……『あやつ』の動きもあるしな」
スナは、少し前に届いた書簡の事を思い出しながら言った。
「奴も利用して、この機会にヘルシラントを征服してやろう」
ヘルシラント族は、最近「魔光石」の鉱脈を掘り当てたらしく、積極的に交易を行うなど景気が良いようだ。これ以上力をつける前に、叩いた方が良い。
この機会だし、丸ごといただくとしよう。
ヘルシラント族を併呑して経済力を増し、更に良質な装備が手に入る様になれば、現状では侵攻を撃退するまでに留まっている、マイクチェク族の征服も視野に入ってくる。
「まずはヘルシラント。返す刀でマイクチェクも倒せば……」
「『火の国』全土のゴブリン統一。ハーンの座も目の前ですな」
「そういうことだ」
スナがにやりと笑った。
「火の国」全土のゴブリンを統べる、ハーンへの道。
そのためにも、まずは最初の一手からだ。
スナは何人かの部下を呼び寄せ、南へ……ヘルシラントに向かうように指示したのだった。
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