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第173話 回廊の戦い(4)隅の国の危機

 ク=マ回廊西側にタヴェルト侯が到達、両軍共に布陣してにらみ合う状態となって何日かが経過していた。

 どちらの軍勢からも仕掛ける事無く、本格的な戦闘は発生せずににらみ合っている状況。

 動きのない膠着状態、といったところではあるが……

 日が経過する毎に、わたしたち、リリ・ハン国の陣営には深刻な状況が発生していた。


 ……………


「報告です。シブシ国司ソダック様、および宰相ケン・ラン卿等、国司ご一行は反乱軍が迫るシブシより脱出、北方のカラベに撤退したとの事です」

「反乱軍はシブシの街に入城。シブシの街は反乱軍の手に落ちました!」

「反乱軍の首魁、ショウウンは擁立するカ・キーム王子を即位させ、『シブシ王』と称しております!」

「反乱軍に呼応して、『隅の国』ではシブシ族住民による反乱が多発しております!」

「反乱軍は更に北方に軍を進める構えです!」


 回廊に設置された大本営に、後背地である「隅の国」から次々と情報がもたらされる。

 それはいずれも、危機的な現地の状況、そしてシブシ族の反乱軍が圧倒的な勢いで進撃を続ける情報であった。

 首都であるシブシの街は既に陥落、「隅の国」の南半分は反乱軍の手に落ちた。

 そして更に、反乱軍は「隅の国」の北側へと進軍しようとしている。

 北端のカラベの街を国司軍が辛うじて守っているのみで、それ以外に我が国の軍勢は「隅の国」には不在である。つまり、反乱軍の進撃を阻止できる戦力は無い。

 先年の戦役の結果、「隅の国」北半分の領土は各部族に「投下領」として与えられており、各部族の者たちが入植していた。各部族の住民たちが取り残されている、そうした地に反乱軍が押し寄せようとしているのだ。

 そのため、反乱軍進撃の情報を受けて、各部族の者たちは大きな動揺を見せた。



 ……………



 「隅の国」における反乱軍勢力拡大の報を受け、わたしは詔を出し、反乱の名称を「ショウウンの乱」と命名、そして反乱軍を逆賊認定し「賊軍」と呼称する事を決定した。

 更には神祇官のパスパに命じて、本営前の広場に護摩壇を築かせ、賊軍撃滅を願う祈祷を行わせた。

 護摩壇については、既にタヴェルト侯撃滅を願うものが設置されている。二つの護摩壇から炎が高く舞い上がり、パスパはそれぞれの火中に護摩木や供物を投じながら祈祷を捧げ、敵軍撃滅を祈り続けた。

 その後方で各部族の者たちも祈りを捧げ、護摩壇の炎は周囲を煌煌と照らし、舞い上がる煙は空高く上っていく、立ち上る炎と煙は、おそらくはタヴェルト軍からも見て取れただろう。


 しかし、どれだけ祈ったところでタヴェルト軍は撤退などしてくれない。


 そして勿論、「隅の国」の反乱軍が祈祷や神の力でいきなり消滅するわけでもない。

 また、反乱軍を賊軍認定したところで、彼らが士気を無くして解散するわけでもないし、「隅の国」に彼らを討伐できるだけの軍勢が存在するわけでもない。

 反乱軍は遮る者が何者もいない状態で更に活動を続け、その動向は諸部族たちに大きな動揺を与える事となったのだった。



 ……………



 幕舎では対策会議も開催されたが、差し向けられる兵力が無い以上、具体的な対策は難しい。

 議論が堂々巡りした結果、とりあえず「隅の国」の北側に隣接する領土を持つオシマ族の守備兵を抽出して移動させ、カラベの街の守備兵を増強させる事とした。

 しかし、オシマ族も主力部隊はこの回廊まで遠征しており、現地に残る守備兵は少ない。抽出できる兵力は僅かである。

 あくまでも「隅の国」の出口となるカラベの街の兵力を補強し、反乱軍が更に北上して本国に進出する事を防ぐ事を目的とした消極的な対応に過ぎない。反乱軍の鎮圧には程遠い状況であり、カラベ以南の「隅の国」各地が反乱軍の脅威に晒されている事には変わりなかった。


「……………」

 わたしは眼前に布陣する各部族の兵士たちを見回した。


 この回廊に集結した各部族の主力軍を差し向ければ、「隅の国」の反乱は鎮圧できるだろう。しかし、タヴェルト軍と対峙し、いつ攻撃が行われるかわからない現在、もちろんこの兵力は動かせない。

 この回廊での戦いが決着するまでは、「隅の国」の反乱に本格的な対策を行う事ができない。もどかしい状況なのだった。




 そして……

 更に数日後。こうした混乱と動揺を更に拡大させる情報がもたらされたのだった。



 ……………



「『隅の国』より新たな報告です!」

 幕舎に飛び込んで来た伝令官が震える声で言った。

「シブシの街から、反乱軍の北上開始を確認! 『隅の国』北部の各拠点の攻略に向けて出陣した模様です!」

「……………!」

 その報告に、「隅の国」北部に投下領(入植地)を持つ諸侯たちは動揺の声を上げる。

「ついに来たか……!」

「現地の皆は大丈夫なのか……?」

 投下領に住む各部族の住民たちの身の安全が心配される。現地の守備兵に防御態勢を命じる者、北方のカラベまで住民の避難を命じる者。各部族は対応に追われていた。



 そして、更に一部の者たちを激しく動揺させたのは、それに続く報告であった。

「また、主力と思われる反乱軍の先遣部隊は数日前に既に出発! 北東のクシマの街に向けて進軍中との事です!」

「な……何だと!? 反乱軍がクシマに向かっているだと!」

 震える声で叫んだのは、左谷蠡王(さろくりおう)ウス=コタであった。

「おいっ! 何故、クシマの街が真っ先に狙われるんだ!!」

 伝令官の胸元を掴みながら叫ぶ。伝令官は震える声で答えた。

「お、おそらく、シブシ国司様がマイクチェク族出身という事で、マイクチェク族の根拠地であるクシマに逃げ込んだと考えたのではないでしょうか……」

「そんなバカな! 息子は……ソダックは、カラベの街まで撤退しただろう! それなのに何故クシマの街を狙うんだ!」

「反乱軍も、国司軍の動向について充分な情報を把握しているわけではないのでしょう」

 コアクトが助け船を出す様に補足説明した。

「マイクチェク族である、左谷蠡王(さろくりおう)殿のご子息が国司をしている事から、マイクチェク族の根拠地であるクシマに逃げ込んだと反乱軍が考えても、不思議ではありません」

「し……しかし、しかし!」

 ウス=コタは首を振って激しい動揺を見せた。


 彼の動揺には理由がある。反乱軍が進軍しているクシマの街は……マイクチェク族が入植している街なのだ。そして、同じく投下領に入植している他の部族とは、置かれている状況が異なっていた。


 マイクチェク族は、このク=マ回廊の隣接地(出口)に領土を持っている。そのため、今回のタヴェルト侯との戦闘結果次第では、真っ先に戦場となり巻き込まれる可能性があった。

 そのためこの戦いに備えて、部族の弱い者……子供達や老人、戦えない女性達を本領から後背地である「隅の国」に……クシマの街へと疎開させていた。老幼だけではない。先日生まれたばかりの、ウス=コタの子供たちもこの地に預けられている。

 彼らの大切な家族のうち、弱い者たちばかりをクシマの街に疎開させていたのだ。


 「隅の国」は疎開先であり、現地を守る軍勢などいない。そして戦える者もほぼいない。

 その疎開先であるクシマの街に向けて、反乱軍が進軍しているというのだ。その情報に、ウス=コタは大きく動揺していた。



 更に追い打ちを掛ける様に、マイクチェク族の伝令が幕舎に飛び込んで来た。

左谷蠡王(さろくりおう)様、カラベの街からの伝令でございます!」

「何だ!」

「はっ! カラベの街に滞在されている、王妃様からのご伝言でございます!」

「トワさんから!?」

 トワ王妃は、カラベの街に先日生まれた子供達を預けた後、本国に戻る帰路にあり、カラベまで戻ったところで反乱の報に接したのであった。

 伝令兵は頷いて続けた。

「はっ、反乱軍の報に接し、王妃様はクシマの街に伝令して避難を呼びかけていますが、動けぬ老幼も多く、退避は困難との事。そのため、王妃様がカラベより手勢を引き連れて、クシマの街を救援に赴くとの事でございます」

「手勢……だと」

 ウス=コタは焦りの声を上げた。「手勢」と言っても、トワ王妃個人を護衛する僅かな兵しかいない筈だ。到底、クシマの街全体を防衛するには足りない。


「ハーン! も、申し訳ありませんが、一旦失礼いたします」

 ウス=コタはそう言ってこちらに一礼すると慌ただしく幕舎から飛び出していく。


 その様子を見て、残された各部族の諸将たちも、ざわざわと動揺した声を上げた。

 敵の主力はクシマに向かったとはいえ、反乱軍が北上してくる事に違いは無い。

 それぞれの領地に住む住民達の安全をどの様に確保すべきか。各部族の者たちが慌ただしく相談し始める。


 幕舎における混乱は収まる様子は無い。そしてそれは各部族の軍勢の動揺にも繋がっている。前線を守る兵士達の士気が揺らいでいる空気が伝わってくる。

「……………」

 わたしはどの様に対応すべきか、困惑しながら考えたが、なかなか答えは浮かばないのであった。

 読んでいただいて、ありがとうございました!

・面白そう!

・次回も楽しみ!

・更新、頑張れ!

 と思ってくださった方は、どうか画面下の『☆☆☆☆☆』からポイントを入れていただけると嬉しいです!(ブックマークも大歓迎です!)


 今後も、作品を書き続ける強力な燃料となります!

 なにとぞ、ご協力のほど、よろしくお願いします!

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