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第169話 十四代の乱(3)シブシ王再誕

 王国歴596年(トゥリ・ハイラ・ハーンの4年)5月25日。

 シブシ族のカ・キーム王子を盟主とする反乱軍は、シブシの街に入城した。


 同地を支配していた「シブシ国司」が逃亡し、あちこちから暴動や放火による煙がくすぶる中……反乱軍の一行はシブシ族の住民たちが万歳を合唱する中を入城した。

「王子様ばんざい!」

「よくぞ、憎き国司の連中を叩きだして下さりました!!」

「ハーンの支配から解放されたぞ! ばんざい!」

 歓呼の声に包まれながら、カ・キーム王子は、彼を擁立したショウウンと轡を並べてシブシの大通りへと歩を進めていた。


「懐かしきシブシの街に、再び戻る事ができました。お礼申し上げます、ショウウン殿」

「礼には及びませぬ、若君。ハーンを追い出して部族の独立を回復することは、我らシブシ族の者全ての悲願でござります」

 感無量の様子の若き王子ににこやかに応えつつ、初老の領主は続けた。

「この先、『隅の国』全土を奪還するためにも、逃亡した国司軍を追撃して更に打撃を与えておくのが望ましいです。追撃軍を出す事をお許しいただきたく存じます」

「それは勿論構いませんが……国司軍はどちらに逃げたのでしょうか」

 王子の言葉に、ショウウンは少し考えてから応えた。

「国司ソダックはマイクチェク族の出身です。後ろ盾となるマイクチェク族が拠点としております、クシマの街に撤退する可能性が高いと考えます。いずれにしても奪回する必要がある街ですし、国司を捕縛できる可能性もあります。クシマに追撃軍を派遣する事といたしましょう」

「わかりました。お任せします」

 こうして、反乱軍の追撃軍がシブシの街を出撃し、東北方面に進軍。マイクチェク族の拠点で、多くの者たちが疎開していたクシマの街に軍勢を進めたのであった。



 ……………



 カ・キーム王子の一行は、続いてシブシの王宮へと足を進めた。

 放火により半ば灰燼と化した宮殿の有様に呆然とする一行。

 更に彼らの耳にもたらされた情報は……父王イル・キームが死亡したとの報告であった。

「その……餅を喉に詰まらせたとの事で……」

 部下達の報告に、カ・キーム王子とショウウンはため息をついた。

「この状況で、連中が生かしておく筈がないとは思っていましたか……何とも情けない最期ですね」

「せめて暗殺者に抵抗するくらいの気概は見せていただきたかったですが……。傀儡としての境遇に慣れてしまわれていたのでしょうか」

 シブシ戦役での醜態から既にイル・キーム王を見限っていた二人の反応は冷たく、この状況下で彼が謀殺された事も折り込み済みであり、これから彼らが行おうとしている大事を前に、些事として取り扱われた。


「……ともあれ、『非道なるハーンがシブシ王を殺害した』と、対外的には宣伝材料として利用させて貰う事としましょう。

 そしてこの事は、王子がご即位され、シブシ族復興を宣言するための障害が無くなった事も意味します」

「……そうですね。それでは準備をよろしくお願いします」

「お任せください、王子」

 ショウウンは力強く頷いた。



 ……………



 王国歴596年(トゥリ・ハイラ・ハーンの4年)鳥の月(5月)26日。

 シブシ族王子カ・キームは、シブシ族の住民達が集まる中、王宮においてショウウンに捧げられた王冠を受け取り、自らの頭に乗せた。

 そして、第十四代シブシ王への即位を。ハーンの支配からの解放を。そして「隅の国」の統治者としてのシブシ族の復活を宣言した。

 焼失した王宮。玉座の間とはいえ、今や青空の下に石床だけがある様な状態である。しかし、多くのシブシ族の住民たちに囲まれ、歓声の中推戴されて王冠を被った少年は……間違い無く新たなシブシ族の王なのであった。


 同日にシブシ族の反乱軍たちは、城内に残っていたハーンの旗を踏みつけながらシブシの街を出発。「隅の国」北部の各所へと軍を進め、「隅の国」全土をハーンの手から解放する事を目指して進軍を開始したのである。



 ……………



 シブシの街撤退。イル・キーム王の死。

 そして「賊軍」のシブシ入城と、追撃軍のクシマに向けた出陣。

 更には首謀者であるカ・キーム王子が新たな「シブシ王」を自称し、更に軍勢を北上させようとしているとの情報。

 これらの情報は、カラベに撤退していたケン・ランたちシブシ国司陣営から、ク=マ回廊に布陣しているハーンの大本営へと相次いでもたらされた。



 ク=マ回廊の前面に、西方からタヴェルト侯の大軍勢が到達し、次々と布陣していく緊迫した状況。

 タヴェルト侯の軍勢への対応が喫緊の課題であり、「隅の国」の反乱に対応する余裕などないハーンと大本営の者たちは、次々と飛び込んでくる反乱軍進撃の情報に、何も手を打つことができず、苦々しい表情で報告を聞いていたのであった。


 リリ・ハン国の大本営では、ハーンの意向の元に、この反乱はサタ領主ショウウンが主導している(傀儡としてカ・キーム王子を担いでいる)と見なした。

 そして反乱の名称を「ショウウンの乱」と命名し、反乱軍を「賊軍」と呼称する事が詔により決定された。

 歴史の書物を数多く読んでいるハーンであるリリの性格が出た、後世の……歴史からの評価を意識するとともに、国内向けにも、敵対勢力のあり方を定める事が重要であると判断した名称策定であった。



 ……しかし。

 この反乱に関して後世の歴史から下された審判は、リリの希望とは異なるものであった。

 この乱の主人公はカ・キーム王子自身であり、彼は担がれた傀儡では無く自身の意思でハーンに反乱を起こし、部族の復興を掛けて十四代シブシ王に即位した存在であると判断されたのである。

 それ故、リリ・ハン国が定めた反乱の呼称は「ショウウンの乱」であったが……後世でこの名称は定着せず、歴史の教科書において「十四代の乱」と呼ばれる事になるのである。



 ……………



 シブシにおける反乱軍の呼称を定めるとともに、ハーンは神祇官であるパスパ・ティエングリを幕舎に召し出し、反乱軍撃滅、賊軍調伏を祈る祈祷を行う様に命じた。

 ハーンの命令を受け、パスパは巫女装束で大本営の中央広場に護摩壇を設け、護摩木を積み上げて火を付け、供物を火中に投じながら、反乱軍撃滅を願う祈祷を行った。


 その隣では、同様にタヴェルト軍撃滅を祈る護摩壇が設置され、こちらも勢いよく燃えさかっていた。

 ハーンの本営に設けられた二つの護摩壇から高く巻き上がる炎、そして煙は、リリ・ハン国のゴブリン軍全ての者から、そして西方に対峙するタヴェルト侯の軍勢全ての者たちから見る事ができた。


 敵軍調伏を願う祈祷は何日も続けて盛んに行われ、この地で情勢の変化が起きるまでの間、間断なく立ち上り続けるのであった。



 ……………



 ……しかし、どれだけ祈祷を行ったところで、シブシ族の反乱軍が祈祷の力で消滅するわけではない。そして、軍事的に空白地帯になっている「隅の国」に、反乱軍に対抗できる軍勢が突然沸いてきてくれるわけでもない。


 こうしている間にも「隅の国」の反乱軍は更に進撃を続け……その進軍先では深刻で過酷な状況が生じる事となるのであった。

 読んでいただいて、ありがとうございました!

・面白そう!

・次回も楽しみ!

・更新、頑張れ!

 と思ってくださった方は、どうか画面下の『☆☆☆☆☆』からポイントを入れていただけると嬉しいです!(ブックマークも大歓迎です!)


 今後も、作品を書き続ける強力な燃料となります!

 なにとぞ、ご協力のほど、よろしくお願いします!

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