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第147話 使節派遣へ

 国司コランの報告によってもたらされた、衝撃の報告。


 北方の「豊かなる国」に現れた、新たなる「ゴブリリ」である「リーリエ」。

 そして、彼女がハーンとして君臨し、統一された「豊かなる国」という勢力。


 新たなる「ゴブリリ」の存在という衝撃。そしてこれまでの認識を覆す、北方に統一勢力が存在するという事実。

 突きつけられた驚くべき事実に、廷臣たちは静まり返って声も出なかった。

 報告の途中では、いろいろと懐疑的な意見や楽観論を述べていた彼らであったが、最終的に判明した事実の重大性に、何も言えない状態となっていたのである。


 そして皆の脳裏に響き続けていたのが、「天の神巫」ココチュの遺した預言であった。

 『北方に強大なゴブリリのハーンが現れ、南の地へと攻めてくる。南の地は、ゴブリリの力により、炎に包まれるだろう』

 北方の「ゴブリリ」、リーリエの存在を示しているとしか思えない文言。実際に北方に「炎のゴブリリ」が存在したという事実は、預言で述べられている「北方のゴブリリがもたらす災厄」にも、強い現実味を持たせるものであった。



 ……………



 静まり帰った廷臣たちを前に、わたしは立ち上がり、口を開いた。

「国司コランよ。報告、大儀でした」

 わたしの言葉に、ユガ国司コランは平伏しながら廷臣達の中に下がっていく。


 不安げな表情を浮かべている周囲の者たち、そして廷臣たちを見回してから、わたしは改めて告げた。

「皆の者たちが不安に感じているのはもっともな事です。我々は今回知らされた新たな情報……。北方でハーンを名乗っている『ゴブリリ』、リーリエという者について知らねばなりません」

 静まり帰った中、わたしの声が響く。わたしは続けて言った。

「わたしは……朕は、北方の『豊かなる国』のイラ・アブーチ・ハーンに……リーリエに、使者を派遣する事とします」


 わたしの言葉に、おお……っと廷臣たちの中から感嘆の声が上がった。

「使者を北方に派遣し、北方のハーン、リーリエに直接面会し、彼女が本当に『ゴブリリ』なのか。どの様な人物なのか。そして、彼女の周辺にどの様な者が仕えているのか、北方の『豊かなる国』がどの様な勢力なのかを見定めましょう。まずは彼女たちを、そしてかの国を知ることが必要です」

「確かに……その通りですね」

「この情勢下で今後の対応を考えるためにも、北方の最新状況を正しく掴む事は必要ですな」

 わたしの言葉に、コアクトが頷き、シュウ・ホークも肯定的な意見を述べた。


 コランから報告された「豊かなる国」の状況は、これまでのわたしたちの認識を覆すものだ。

 新たなるゴブリリ、リーリエの存在も勿論であるが、かの国が統一されて一大勢力を築いているという情報も重大である。

 それは、これまでの認識……「まとまりが無く、オークすら跋扈している乱れた国」という情報とは全く異なるものだ。


 特に、現在は人間たちの勢力による、わたしたちゴブリンが住む大陸東方への一斉侵攻を目前とした状況である。

 人間たちが攻め込もうとしているのは、我が国だけにではない。北方の「豊かなる国」にも侵攻が行われる見込みなのだ。

 北方の「豊かなる国」でも、隣国「築きの国」の諸侯ノムト侯による侵攻が予想されている。そんな「豊かなる国」に統一勢力が誕生していたというのであれば、人間たちの侵攻への対処方針も全く変わってくる。

 まずはゴブリンを滅ぼそうとしている、人間たちの侵攻への対応を考えねばならない。南北からの同時侵攻に対処するためには、「豊かなる国」との連携が必要となってくる。

 まずは、大陸のゴブリン全体の危機を。「人間勢力からの侵攻」という危機を乗り越える。


 そしてこの危機に対処したその先に……北方のゴブリン勢力がわが国とどの様な関係を構築する事になるのかはわからないが、少なくとも現時点で両国が……ゴブリン同士が戦うわけにはいかない。今の段階で、預言に謳われた「北方のゴブリリが攻めてくる」状況を実現させるわけにはいかないのだ。

 現時点では、友好関係を……そこまでは無理でも、少なくとも「ゴブリン同士で戦わない」関係を樹立する必要がある。


 そして……この国を「ゴブリリ」であるという、リーリエが率いている以上、彼女が……リーリエがどの様な人物であるのかを見極める必要がある。

 イラ・アブーチ・ハーン……「大地を掠奪する者」という称号を名乗るリーリエとは、果たしてどの様な者なのか。どの様な性格をしているのか。彼女を仰ぐ周囲の者たちも含め、彼女たちと友好的な関係を結ぶ事はできるのか。わたしたちと共存できるか。直接彼女たちに会って、見極める必要があった。



 ……………



 わたしは、居並ぶ者たちを見回し……少し考えてから、呼びかけた。

「サラク将軍」

「はっ!」

 わたしの呼びかけに、弓騎将軍サラクが玉座の前に進み出てきた。


「朕の名において、そなたを、北方のハーン、リーリエへの特使に任命します」

 わたしはサラクに告げた。

「これより朕からリーリエに向けた、友好を求める旨の親書を書きます。

 親書を届けてリーリエに謁見し、可能であれば友好関係に向けた取り決めを締結して来て下さい。

 そして『豊かなる国』がどの様な国か、そしてリーリエとはどの様な者なのかを見定めて来て下さい」

「……ハーンのご命令、承知いたしました」

 サラクが拝礼した。

「勅命に従い、使者としての任を果たし、北方の国をしかと見定めて参ります」

 サラクの力強い言葉に、わたしは頷いた。


 古くからイプ=スキ族の副官として活躍しているサラク。まだ若いサカ君を支えて、危機に陥っていたイプ=スキ族を適切な行動で存続させただけでなく、それ以降も我が国の重鎮として堅実に活躍している。判断力が確かであり、頼りにできる者だ。

 そして最近ではユガ地方への援軍を指揮して、襲撃してきたオークを北方の国境部まで追撃している。能力が確かであるだけでなく、最近の北方の情勢も把握している。

 彼であれば不足無く特使の任務を果たしてくれるだろうし、使者としての行動を通じて適切な判断力と観察力で、「豊かなる国」の最新の情勢も的確に掴んでくれるだろう。まさに適任だった。


 そして……


 わたしは、後ろを振り向いて、呼びかけた。

(じい)


「え、えっ!? わたくしですか?」

 突然呼びかけられた爺が、驚きの声を上げた。

「ええ。爺。あなたも北方への使節として派遣します。副使として任命しますので、サラクとともに『リーリエ』に会ってきて下さい」

 わたしの突然の言葉に、周囲の者たちがざわざわと驚きの声を上げる。爺本人も、当惑の声を上げていた。

「そ、その………りり様……いえ、ハーン。なぜわたしなどを使節などに……!?」


「爺。あなたはわたしが子供の頃から……。本当に子供のころから、わたしが生まれた時から。『スキル』に目覚める前から、ハーンになる前からずっと、わたしと一緒にいて、わたしの側で仕えてくれています」

 わたしは少し笑顔を浮かべながら続けた。

「『ゴブリリ』としてのわたしを、誰よりも長く見ているのが爺、あなたです。わたしの『ゴブリリ』としての生活や過ごし方、そして性格などもずっと側で見てくれました。

 そんな爺の目で……同じ『ゴブリリ』であるという、リーリエを見てきて欲しいのです」

「……!」

「わたしと同じ『ゴブリリ』であるというリーリエが、まずは、本当に『ゴブリリ』なのか。

 もしそうだとすれば、彼女はどの様な者なのか。どの様な性格をしているのか。わたしとは何が違うのか。わたしと共通する部分はあるのか?」

 わたしは爺を見ながら続けた。

「そして、彼女や、彼女が束ねている国が……わたしと、わたしたちと仲良くする事はできるのか。それを……誰よりも『ゴブリリ』を知るあなたの目で、見てきて欲しいのです」

「なるほど……」

 わたしの言葉に横に立っているコアクトが頷いた。

「そう考えると、確かにマンティどのは適任ですね」


 爺は引き続き当惑しながら言った。

「し、しかし、弓騎将軍であられるサラク様とは違い、儂はただの守役に過ぎませぬ。国の代表として、ハーンの正式な使者を務められる様な者ではありませぬぞ……」

「……それは心配ありません」

 わたしはそう言って、爺を玉座の前方に座らせると、王笏をかざしながら告げた。

「マンティ・コアよ。朕の名において、汝に『骨都侯』の爵位を授ける」

「!!」

 いきなりの爵位授与に、爺……マンティが驚きの表情を浮かべた。

「骨都侯マンティ・コアよ。改めて汝を北方への使節、副使に任命します。正使サラク将軍とともに、使節の任を果たしてください。

 なお、『骨都侯』は世襲爵位とし、汝の子孫にも継承されるものとします」

「りり様……ハーン! わたくしにその様な爵位を……」

 目を白黒させている爺に、わたしは笑顔を浮かべながら言った。

「ふふっ……実のところは、昔から、子供のころからずっとわたしを信じて支えてくれた爺に、何らかの形で報いたいとずっと思っていたのです。丁度いい機会でしたね」

 わたしは進み出て、感激と驚きの表情を浮かべている爺の手を取って言った。

「爺。朕を……わたしをずっと見てくれた、信じて見守ってくれた、わたしの事を知るあなたに、わたしの代わりに、リーリエに会って来て欲しいのです」

「りり様……」

「わたしの代わりにリーリエと話してください。……そして、彼女がどんな子なのか。そしてわたしたちが仲良く共存できるのかを見てきて頂戴」


「……わかりましたぞ!」

 爺が、わたしの手を力強く握り返しながら答えた。

「おまかせ下さいりり様。

 この儂が……サラク様とともに、しっかりと務めを果たし……、リーリエ殿と、りり様の間を取り持ってさしあげます!」

「頼みましたよ、爺」

 笑顔を浮かべる爺の温かい手を、わたしはしっかりと握り返した。


 力強くわたしの手を握りしめる、爺の手の感触。

 しっかりとわたしの掌を包み込んだ、爺の手の温かさ。


 それは……爺が旅立った後も、わたしの記憶にいつまでも残り続けたのだった。


 読んでいただいて、ありがとうございました!

・面白そう!

・次回も楽しみ!

・更新、頑張れ!

 と思ってくださった方は、どうか画面下の『☆☆☆☆☆』からポイントを入れていただけると嬉しいです!(ブックマークも大歓迎です!)


 今後も、作品を書き続ける強力な燃料となります!

 なにとぞ、ご協力のほど、よろしくお願いします!

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