第141話 カチホ族との会見2
カチホ族族長、オタックから告げられた言葉。
「我らカチホ族は、貴方たちの国に加わる事はできませぬ」
「な……何故でおじゃるか!?」
思わぬ回答に、コランが驚きの声をあげる。そんなコランに向かってオタックが深刻な表情で言った。
「……貴方たち『南のハーン』が強大である事は充分理解しています。それゆえ、貴方たちのハーンに服属すること。そして貢納金を支払う用意はございます。
しかし……貴方たちの国に加わる事はできませぬ」
「ま、麻呂たちは……我が国は、貢納金が欲しくて貴方の部族に圧力を掛けているわけではごじゃらぬ!」
コランが慌てて言った。
「我が国の名誉ある一員として加わっていただきたい。西方からの侵攻という難局を前に力をあわせるため、仲間に加わっていただきたい。それがハーンの思し召しでおじゃる。何故それができぬというのです」
「……………」
「国司どの」
オタックは机に置かれた大陸地図……コランたちが持ち込んだ地図を見ながら、コランを見上げて言った。
「失礼ながら……あなたたちは大陸北部の……『豊かなる国』に関する最新の情勢をご存じないと見受けられますな」
そして、地図の「豊かなる国」を指差しながら言った。
「現在の『豊かなる国』は、『諸部族が乱立』などはしておりませぬ。
……暫く前に、統一されています」
「!!」
コランは驚いてオタックを見た。その表情から、嘘とは思えない。
これまで知っているものとは全く違う情報に、後ろに立っている4人の妃たちも驚きの表情を浮かべていた。
「統一された『豊かなる国』は強大な勢力であり、我らカチホ族は、北方の彼らから強い圧力を受けております。現在のカチホ族は、彼らの意向を伺わねば生き残れない情勢です。こうした情勢で、『北』との関係を無視する形で貴方たち『南のハーン』に明確に肩入れする事はできませぬ」
オタックは地図を見ながら続けた。
「……我らカチホ族は力が無い。それゆえ生き伸びるために、強い者に服従しなければならない事は理解しています。それゆえ、貴方たち『南のハーン』にも服属する意思はありますが、それはあくまでも南北両方に服属する『両属』としてです。
南北を強大な勢力に挟まれた状況で、もし舵取りを誤れば滅ぼされてしまう……。この情勢で生き残るためには、どちらかの勢力に明確に付く事はできぬのです」
「そ、そんな……」
コランは困惑しながら妃たちと顔を見合わせた。それでも、何とか目的を達しようと、食い下がる様にオタックに告げた。
「我らには、あなたたちカチホ族を力で支配したり、脅迫し、貢納金を巻き上げる意図はござらぬ。我らに加わることが出来ぬのであれば、友好的な関係を確保してくれれば充分でおじゃる。
しかし……できれば改めて考えては下さらぬか?」
そう言って、地図にある大陸南部のリリ・ハン国領土を指し示しながら続けた。
「我らはハーンの国。偉大なるトゥリ・ハイラ・ハーンが治める国でごじゃる。
百年に一度。大陸にただ一人生まれてくる『ゴブリリ』であるハーンが、りり様が建てられた国じゃ。単なる『勢力の大きな国』ではない。唯一の『ハーンの治める国』なのじゃ。
唯一の存在たる『ゴブリリ』であるりり様が、大陸全てのゴブリンを導くという崇高なる目的の下、ハーンとして君臨し、多くのゴブリン部族たちがその膝下に集っておる。
天命を持つ唯一の『ゴブリリ』が、大陸のゴブリンを導くという王道を歩まれている、唯一にして偉大なる存在なのじゃ」
そして、地図にある「豊かなる国」を指し示しながら続ける。
「『豊かなる国』を束ねた者たちは、確かに今は強大なのかもしれぬ。
……しかし、この時代唯一の存在である『ゴブリリ』、そして『ゴブリリ』のハーンが君臨する我が国、トゥリ・ハイラ・ハーンが、大陸全てのゴブリンを導き、いずれは『大ハーン』となられる王道を往かれる我が国とは違い、王道を持たぬ、単に力を持った存在に過ぎぬのでおじゃろう?」
コランは熱弁を振るい続ける。
「王道は、そして正義は我らにある。北の国がたとえ強大であっても、いずれ必ず、我らがハーンの威光に。唯一の存在たる『ゴブリリ』の大義ある王道の前に服する事になるはずでおじゃる」
そして、オタックをみつめて言った。
「オタック殿。唯一の『ゴブリリ』である、唯一のハーンである我らの元に。トゥリ・ハイラ・ハーンの元に集い、ハーンが導くゴブリンの未来への歩みに加わる事こそが肝要であると思われぬか?」
コランが力説する。
「……………」
しかしオタックの反応は鈍い。そして大きなため息をつきながら答えたのであった。
「……コランどの。貴方の話しぶりから改めてわかりました。
やはり貴方たちは……大陸北部、『豊かなる国』の状況に関する認識が不足している様です」
「そ、それは、どういうことでおじゃるか?」
「貴方たちはご存じない様ですな、それは……」
「族長様!」
オタックが続けようとした時、後ろから制止する声が響いた。
「あまり多くの情報を伝えるのは危険です!! 『彼ら』から、『南』に情報を漏らしていると、『南のハーン』に通じていると思われてしまっては、我らの立場が……」
後ろに控えていたオタックの側近、カチホ族宰相のナナジミが強く諫言する。
しかし、オタックは首を横に振って続けた。
「構わぬであろう。我らの立場をこの方々に理解して貰うためには、『北』の状況を知ってもらう必要がある。それに今告げずとも、彼らが本気で情報収集すれば、いずれは知ることになる内容じゃ」
ナナジミに答えてから、オタックはコランたちの方に振り返って続けた。
「国司どの、失礼した。改めて……我らの現在置かれている立場を理解していただくために、お教えいたそう」
「現在の『豊かなる国』を支配している勢力。それは……」
……………
オタックが話す、「豊かなる国」の支配勢力に関する情報。
その内容を聞かされ……コランは、そして妃達は驚愕の表情を浮かべた。
「そ、そんなばかな……」「なんてこと……」
「その様な事があり得るとは思えぬでおじゃる……」
「……しかし、事実です」
大きな衝撃を受けているコランたちを前に、オタックは真剣な表情で言った。
「……それゆえ我らカチホ族は、この情勢で生き延びるために、北部の勢力を無視する形で、『南のハーン』に、『南のゴブリリ』に加担する事はできませぬ。
どうか……ご理解くだされ」
オタックの言葉に。伝えられた大陸北部の情勢に。
コランと妃たちは、ただただ驚愕の表情を浮かべるのみであった。
……………
最終的に、カチホ族からの簡単な「友好関係を望む」旨の書簡を受け取って、早々に会見は終了した。
会見終了後、コランと4人の妃たちは衝撃覚めやらぬまま、顔を見合わせていた。
「大変なことになりましたわね」
「まさか……こんな事があるだなんてね」
「国司様……どうなさるおつもりですか?」
娘達を前に、コランは蒼白な表情で小さく言った。
「内容が重大すぎるでおじゃる……。まずは早々にハーンにご報告が必要じゃ」
そして、妃達を見ながら言った。
「ハーンにご報告する文を書く故、『文烏』による飛文と、伝令による書簡で直ちにヘルシラントに送り出す準備をして欲しいでおじゃる」
「承知いたしました」
「……そして、内容が重大すぎる故、麻呂自身がハーンの御前に赴き、直接麻呂の口から奏上する必要があるでおじゃる。直ちにヘルシラントに上洛する故、しばらく留守を頼むでおじゃる」
「わかり……ました」
指示をするコランも、対応する娘たちも深刻な表情を浮かべている。
それほどに、会見でカチホ族から知らされた内容は重大であった。
直ちに、ハーンにお知らせせねば。
コランたちはそう考えるとともに、果たしてこれから先、大陸の情勢は、そして自分たちの未来はどうなってしまうのか。例えようのない不安に襲われたのだった。
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