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幕間 オークの本拠地

 ユガ地方がある「日登りの国」の北方に位置する国、「豊かなる国」の某所。

 オークたちの本拠地である、とある洞窟の大広間に、満身創痍となったオーク……クッコロが這いずるような歩きで進み出ていた。



 ……………



 この地、「豊かなる国」から南下し、「日登りの国」ユガ地方を襲撃した、クッコロと手下のオーク、そしてゴブリンたち。

 一時は国司館を占拠し、周囲の廃砦に陣取り、彼らの計画は成功したかに思われた。

 しかし、最終的には国司コランと援軍たちに打ち破られ、更に追撃を受けて、這々の体で北方、この「豊かなる国」に逃げてきたのである。


 弓騎将軍サラクの率いるイプ=スキ騎兵の追撃は執拗であり、そして徹底的なものであった。

 北に逃げる道中、彼らの執拗な遠方からの弓による一方的な攻撃を受け続け、残存兵は次々と容赦なく討たれ、磨り減らされ続けた。

 イプ=スキ騎兵の襲撃は昼夜間断なく続き、夜に休む事もできない。オークとゴブリンの残存兵は襲撃に怯え、心身共に消耗し、次々と命を落としていった。


 イプ=スキ兵の戦力とサラクの手腕であれば、彼らオークとゴブリンの賊たちを国境まで逃がさず、途中で包囲殲滅する事はたやすい。

 しかし、彼らを全滅させてしまうと、北の「豊かなる国」……彼らを送り出した側では消息に関する情報は途絶え、単なる「行方不明」として認識されてしまう。

 敢えて全滅させず、生きて帰還させる事で、南に……こちらに手を出せばただではおかない。撃退され、酷い結末が待っている事を思い知らせる生き証人とするために、彼らは生かしておく必要があった。


 そのため、追撃である程度数を減らしてからは、イプ=スキ兵の襲撃は、積極的には命は取らず、心身を痛めつけるものに変わった。

 昼夜共に執拗に襲撃を繰り返して消耗させ、痛みと恐怖心を与えるものへと変化したのである。


 クッコロと手下のオークとゴブリンたちは、襲撃に怯え、損耗し、必死に北へと逃げ続けた。

 逃げながらも襲撃を受け続け、疲労困憊の中、傷ついた身体を引きずる様に逃げ続ける。

 そして、そうした中で、怪我や消耗で力尽きた手下たちが、次々と力尽きて倒れていった。

 恥も外聞もなく倒れた部下達を捨て置き、クッコロは必死に北に逃げ続けた。



 こうして、クッコロと手下たちは、その殆どを追撃で討ち減らされ、(イプ=スキ側の「計算」通りに)クッコロとごく一部の手下たちだけが、至る所に矢傷を受け満身創痍となった身体、執拗な追撃にトラウマになった精神状態で、辛うじて国境を越え、北の「豊かなる国」へと逃げ延びてきたのだった。



 ……………



「……で、おめえは、ユガから逃げ帰ってきたというわけか」

 オークの本拠地の洞窟。

 大きく豪華な椅子に腰掛けて、オークの「大親分」は不機嫌な低い声で言った。


 全身ボロボロになって、追撃のトラウマで震えた声で報告するクッコロを、冷たい目で見るオークの「大親分」。

 クッコロと比べて少し身体は小さいが、でっぷりと太った「大親分」は、豪華な服を着ている。ぷっくりと太い指にはきらきらと金色の指環が輝いていた。


「あの拠点を押さえておくのが、おめえの役目だった筈だ。何で負けて帰って来ているんだよ。街も財宝も女も手に入らず……どれだけ役立たずなんだ」

 「大親分」が冷たい声で言う。その傍らに並んでいる幹部たちも、冷たい目でクッコロを見下ろしていた。

「ユ……ユガの連中が、思ったよりも強くて……!」

 国司コランに貫かれた腕を押さえながら、クッコロが反論した。

「それに、南から、ハーンの援軍も来たので……仕方無かったんでさあ!」

「それを撃退して、あの地方のゴブリンを押さえるのが、あんたの役割だった筈だろぉ? 言い訳は見苦しいぜえ?」

 「大親分」の横に居並ぶ者達。オークの幹部の一人、チャラオが嘲笑う様に言った。

「もういいんじゃないですかぁ? 役に立たず、負けて逃げ帰って来たんだし、死刑で! 切り刻んじゃいましょ!」

 隣で軽い声で言ったのは、幹部たちの紅一点にして、唯一のゴブリン、リヨナだった。

 「大親分」と幹部たちが同意する様に冷たい目でクッコロを見る。クッコロは必死に反駁した。

「あの敵軍相手では、誰が守っててもムリだっ! ……そ、それにっ!」

 クッコロは「大親分」を見上げて言った。

「俺たちがユガの街を押さえている間に、軍勢を南下させてユガ地方全域を制圧する筈だったじゃねえすか! 何で増援は来なかったんです!? オタックの野郎はどうしたんですかい!? どうして軍を動かさなかったんです!?」


 クッコロの必死の訴えに、幹部の一人……オークにしては引き締まった身体付きの、ローブを纏った男が言った。

「……その件については、改めて確認し、検証する」

 彼……「大親分」の参謀的存在であるオーク、魔導師ケプレスは、眼鏡に手を添えながらクッコロを見て言った。

「だが、いずれにしても援軍が来るまで拠点防衛ができず、南のゴブリンどもに負けて、無様に逃げ帰って来たという落ち度は、裁かれねばなりますまい」

「し、しかし……っ!」

「そもそも、現地部族長の娘を捕らえたというなら、早期にここまで移送すれば良かった筈。人質にもなりましたし、ユガ政権の実力者を連れ去る事で、彼らの体制にもダメージを与える事ができた筈です」

 ケプレスの言葉に、「大親分」は頷いた。

「そうだよなぁ……女達は上玉だと聞いて、楽しみにしていたのになぁ。まんまと逃げられやがって。……その点も許せんよな」

 そう言って、クッコロを睨み付ける。


「どうしたもんかなぁ……」

 低い声で唸る「大親分」の元に、二人の少女が歩み寄って来た。

 小柄な少女たちは二人とも肌も露わで、裸に布が引っかかっている、と言った方が適切な格好をしている。

 彼女たちを見て、「大親分」は顎を向けて何かを指示する様な仕草をした。


 その仕草に応じて、片側の少女が酒器を差し出す。

 そして、もう片方の少女に近づき、露わになっている肩口に酒器を傾け、鎖骨の窪みに白濁酒を流し込んだ。

 とくとくと音を立てながら、鎖骨に酒が注がれていく。

 「大親分」はおもむろに少女を抱き寄せると、顔を少女の肩口に付けて、鎖骨に溜まった酒を飲み始めた。

 抱き寄せられ、自分の鎖骨に口を付けられ、下品な啜る音と共に鎖骨酒を直飲みされながら、無表情に身を委ねる少女。


 美酒と共に少女の素肌の味と香りを愉しみ、杯代わりにしている少女の鎖骨に舌を這わせながら、「大親分」はクッコロを睥睨しながら言った。

「……セレナたん、リーリエたん。こいつの事、どうすべきだと思う?」


「……………」

「……………」

 少女たちは答えない。表情を変えず、何の感情も感じられない視線でクッコロを眺めた。


 その様子を見て、「大親分」はくくっと笑い声を漏らしながら言った。

「デュフフフ……そうだよな~、死刑だよなぁ~」


「!!」

 軽い言葉で死刑を宣告されたクッコロが狼狽して「大親分」を見上げた。

「ま……待ってくれ親分、俺は……」

「あのなぁ、クッコロよ……」

 「大親分」は、改めてクッコロを見下ろしながら言った。

 全身ボロボロになり、怯えた表情を浮かべたオーク。そして矢で射ち抜かれた利き腕を見下ろしながら告げた。

「もう満足に戦えない、そして心まで『折れた』おめえの様な奴は、もう要らねえんだよ」

 そして、クッコロの絶望の表情を見ながら、宣告する。


「おめえの様な奴は不要だ。……焼いてしまうか」

 そう言って、指環の入った人差し指で、クッコロを指し示した。


 その途端。

 突然クッコロの前に、ばちばちという音を立てながら、赤い光を放つ光球が現れた。

 肌を焼くほどの凄まじい熱気を放ちながら、赤い光球は、ばちばちという音と共に大きさを増していく。

「ひ……! ま、待って……」

 クッコロが怯え、掠れた声を上げた直後。


 轟音と共に、赤い光球は突き上げる炎の奔流となって、クッコロの全身を飲み込んだ。

「ぎゃあああああっっっっっ!!!」

 凄まじい熱気の炎、エネルギーの奔流に身体を灼かれ、クッコロが絶叫する。

 巻き上がる炎の奔流は、彼の断末魔の悲鳴すら飲み込み焼き尽くす勢いで、大きな音と凄まじい熱気で渦巻き、洞窟全体が紅い光で照らされた。

 大柄なオークであるクッコロの身体が、凄まじい炎の渦に包まれる。

 悲鳴だけで無く、肉が焼ける音と匂いすら一瞬で焔で焼き尽くし、周囲にはただ凄まじい熱気と焔の紅い光だけが放たれていた。

 焔の紅い渦の中央で、全身を灼かれたクッコロの身体が崩れ落ちるのが辛うじて見えた。

 クッコロの断末魔を飲み込み、何も残さず、全てを焼き尽くす勢いで、葬送の炎は、炎の柱、焔の渦は渦巻き続けるのだった。


「……ふん」

 「大親分」は、焔の渦がクッコロを焼き殺す様子を冷たい視線で眺めていた。

 周囲に立つ幹部たちも、ある者は冷淡に、そしてある者はにやにやと笑いながら、かつての仲間であるクッコロの最期を眺めている。

 そして「大親分」の側に佇むふたりの少女は、何の感慨も感情も無い表情で、焔の渦を眺めていた。


「……さて、クッコロは役立たずだったわけだが、『南』の方はどうするかなぁ……」

 「大親分」の言葉に、横に立つケプレスが答えた。

「まず当面は、ここ『豊かなる国』を完全に掌握するのが最優先されるべきかと。

 そして、『西』の方が『南』よりも実入りが大きいですし、最近の動きも気になります。『南』のユガ地方については当面後回しで、この国や『西』が片付いてからでもいいかと思います」

「そうだなぁ」

 ケプレスの言葉に、「大親分」は頷いた。

「ただ、南のゴブリン政権は勢力を増していますし、今回の経過を考えると、その手前にあるカチホ族にも対処が必要です。いずれは腰を据えて対処する必要があると考えます」


「ああ、そうだな」

 「大親分」は壁に飾られた大陸の地図を眺めながら、頷いた。

 そして、両腕でふたりの少女を抱き寄せながら、にやりと笑みを浮かべて嘯いた。


「……南のゴブリンども。おめえたちも、いずれ必ず叩き潰してやる。その時を楽しみに待っているんだな」



 読んでいただいて、ありがとうございました!

・面白そう!

・次回も楽しみ!

・更新、頑張れ!

 と思ってくださった方は、どうか画面下の『☆☆☆☆☆』からポイントを入れていただけると嬉しいです!(ブックマークも大歓迎です!)


 今後も、作品を書き続ける強力な燃料となります!

 なにとぞ、ご協力のほど、よろしくお願いします!

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