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第130話 ユガ地方の未来

 ハーンの突然の出現に、一同は一斉にその場に平伏した。

「ハ……ハーンが畏れ多くもこの様な所に自らお出ましになられるとは思わず……失礼いたしましてごじゃりまするぅ!!」

 震えながらのコランの言葉に、少女……リリは笑って言った。

「……良い。皆、面を上げてください。今日はお忍びの様なものですからね」

 そして、目の前に平伏するコランの前に立ち、改めて告げた。


「国司コランよ。此度の働き、見事である。このユガに帰還し、自ら武器を取ってオークの首領を一騎打ちで打ち破り人質を救出した働き、この目でしかと確かめたぞ」

「は……ははっ!」

「それだけではない。最終的にオークどもを打ち破ったのは、この地に集いしユガの諸侯と住民たちがそなたを慕い、汝を救うために行動してくれたからじゃ」

 広場に集まったユガの諸部族と住民たちを見回しながら、告げる。

「それは、汝に対するユガの諸侯と住民たちの支持があってこそ。国司としてのこれまでの働きが、こうして形となって現れたものじゃ。

 この地方と住民たちの支持を獲得し、人々を束ね、導いた汝の手腕、朕は確かにこの目で確かめたぞ」

「ははあーーーっ!!」

 ハーンの言葉に、コランは娘たちとともに平伏する。


 リリは、目の前のコランと娘たち、そして周囲に集まる住民を見渡した。そして笑顔で、柔らかい口調に変えて続けた。

「このユガにおける、貴方のこれまでの働きと成果。そして報告や政策嘆願などを頻繁に奏上してくる精力的な活動の様子を目にしていました。

 それ故に、この目で実際に見てみたいと思って、このユガへの援軍に同行したのです」

 リリは、横に立っている右賢王サカをちらりと見てから続けた。

「こうして、ユガの諸部族と住民たちがそなたを慕い、貴方たちを救うためにこの場に集まってくれた事こそが、国司としてのそなたの働きが、その成果が形となった、何よりの証拠と言えましょう。

 ユガの地を、住民の心を見事に束ねた、国司コランの働き。この国のハーンとして誇りに思いますよ」

 ハーンの言葉に賛同する様に、周囲の住民たちが歓声を上げた。

「国司様!」「国司様ー!」

 人々がコランに呼びかけ、称える声が、周囲に響く。

「あ、ありがたいお言葉……恐悦至極にごじゃりまする!」

 コランは胸が熱くなりながら、改めて平伏した。



 ……………



「そして……」

 リリは、周囲を。「ユガの石畳」と呼ばれる、固い石の地面を見つめながら言った。

「わたしが……朕がこの地に来たのは、援軍としてだけではありません。

 貴方から日々送られてくる書簡を。この地における活動に関する報告を見たからです」

 そして、コランと娘たち。そして周囲に集まるユガの住民たちを見渡しながら続ける。

「このユガの地を豊かにするために、西部の川から東に向けて用水路を作ろうと活動していること。岩盤が固い地域が多くても諦めず、ユガの住民皆が力を合わせて頑張って活動している事を、書簡の報告で知りました」

「は……はっ」

 ハーンの突然の話題に、コランは怪訝な表情を浮かべて見上げる。

 リリは、その表情を見ながら笑顔を浮かべて続けた。


「ユガの地を豊かにするための、その活動。わたし……朕にも、手伝わせてくれませんか?」


「えっ……?」

 コランが驚いた表情で見上げた、その時だった。

 リリが地面を見渡して……すうっと手を上げて、そして合図をする様に手を下ろした。


 その瞬間。

 広場の地面から。

 そしてこの地に続く道の地面から。更に、西方向の各地から。

 ボシュッ! という大きな音と共に砂煙が立ち、一斉に各所の地面が穿たれた。


 「ユガの石畳」と言われる固い地面に、一瞬にして長大な溝の様な窪みが、穿たれて出現する。

 出現したその溝は、西に向けてどこまでも続いている様だった。

 そして、これまでに掘られた水路や池に繋がっているのだろうか。遠くからざざざという水音ともに、溝を通って水が流れてくる音が聞こえてきた。


 これまで、どれだけツルハシを打ち下ろしても、ほとんど削れなかった石畳に突然出現した、長大な水路。

 コランが、娘たちが、そしてユガの住民たちは驚きの声を上げ……そしてそれは一瞬後に湧き上がる歓声に上がった。


「こ……これは……、ハーンの、お力!?」

 一瞬にして出現した水路に、コランは呆然として呟いた。

 ハーンだけが持つ特別な力、何でも消す事ができる、消滅の力(採掘(マイニング))。

 ハーン即位後は新たな力に目覚め、「刻印(マーキング)」の能力で、大量の物を同時に一斉に「消滅」させる事ができる様になったと聞く。

 改めてその能力の凄まじさを目にする事となったのだ。



「溝を掘ろうとこの作業をしながら来たので……危うく貴方たちの救出に遅刻してしまうところでした」

 リリが、はにかんだ笑顔を浮かべながら言った。

「これで一応水路は繋がっている筈ですが……、暫くはこの地に留まり、充分な流量が確保できる様に、わたしの力で石の地面を削り、水路を広げて回ろうと思っています」


 ハーンの言葉に、コランは周囲を見渡した。

 突然出現し、開通した水路に、集まって来た住民たちが大歓声を上げている。

「水路が開通したぞ!」

「これで、ユガ地方全体に水が行き渡る!」「皆、豊かになれるぞ!」

「オークを追い払っただけでなく、水路まで作って下された!」

「ハーンありがとうございます!」「ハーン万歳!」「国司様ばんざい!」


 そして、目の前に集まっている娘達も笑顔を浮かべている。

「やりましたね、国司様! これで、このユガの地も豊かになります!」

 クリークが笑顔で言った。

「オークもやっつけたし、水路も繋がったし、万々歳ね」

 普段皮肉屋のトルテアも、この時ばかりは笑顔でコランを見つめている。

「これからのユガの未来は明るいです!」

「これもハーンと国司様のおかげ……」

 サシオとハッチャもコランを笑顔で見ながら言った。


「そうか……水路が……」

 コランは突然の出来事に驚きながらも感慨深げに水路を眺めた。

 ハーンのお力で石畳が削られ、急転直下で繋がった事態に驚かされた。しかしここまで水路が出来ていたのは、ユガの住民たちが力を合わせて掘り続けていたからだ。

 住民たちの努力、そしてハーンの力が合わさって開通した水路を、コランは胸が熱くなる思いで眺めていた。



 ……………



 歓声が渦巻く中。そんなコランの前に、4人の娘達が進み出て、目の前に立った。


「……ありがとうございます、国司様」

 4人の前に立って、進み出て来たクリークがコランに言った。

「こうして水路が繋がったのは、ハーンのお力ですが……。

 ハーンがこの地に来て下さったのは、国司様の日頃の働きがあってこそ。そして水路の必要性を日々ハーンにお伝え続けて下さったおかげですわ」

「そ、そうかのう……」

「はい! それに……それだけではありませんわ」

 クリークが笑顔で、コランの顔を見上げながら続けた。

「国司様は、オークに囚われたわたしたちを助けに来て下さりました。

 こうして、ユガの部族を、そして住民たちの心を一つに集めて下さりました。

 そして、皆で作った水路がこうして繋がり、このユガ地方の未来を切り拓いて下さいました。どれだけ感謝しても足りませんわ」

 そして、コランの顔を見上げながら続ける。

「ありがとうございます、国司様。

 わたしたち4人。国司様の元に来て、お仕えした甲斐がありましたわ。

 これほど幸せな事はありません」

 思いを込めて、コランに告げる。彼女だけでなく、4人の娘達が揃ってコランに優しい目を向けていた。



「ク……クリークママァ~~!」

 感極まったコランは叫びながらクリークに抱きついた。


「あらあら、国司様はこんな時でも甘えんぼさんですね」

「折角のいい場面なのに、締まらないわね」

「でも、それが国司様らしいです」

「それでこそ、国司様……」

 微笑みながら抱きしめるクリークの横で皮肉を言う娘達だったが……口調は明るく、みんな笑顔だった。

「ク……クリークママァ~~! そしてみんな! 麻呂は嬉しいでおじゃるよ……!」

 コランはもう一度涙声で叫びながら、クリークを抱きしめた。



 そんなコランの叫び声を聞いて、後ろで見ていたリリとサカたちが怪訝な表情を浮かべた。

「え、ママ……?」


 いつもの調子でつい出てしまった言葉に気がついて、コランは赤面しながら良いわけした。

「も、申し訳ごじゃりませぬ。そ、その、母親ではないのですが、か、彼女の、クリークの母性が溢れているので、つ、ついいつもの癖でママと……」



「……いいえ」

 コランの言葉を聞きながら、クリークは優しい声で言った。

「国司様。わたしの事は『ママ』呼びで間違っていませんわ」

「えっ?」

 怪訝な声を上げた振り向いたコランに、クリークは少し赤面して、そっとお腹に手を添えながら言った。

「だってわたし……。ママになるのですから……」


「えっ、ええっ!?」

 クリークの言葉に、コランは驚いた表情を浮かべた。そして、クリークの表情と仕草を見ながら尋ねる。

「そ、それって……その……ま、麻呂の……?」

 コランの言葉に、クリークは少し赤くなった表情で、そっとお腹を撫でながら……優しい笑みを浮かべて頷いた。


「最近の騒動でご報告しそびれてしまっていたのですが……間違いありませんわ」

「お、おおお……っ!?」

 突然の報告に、嬉しさと驚きにコランは上ずった声を上げた。


「ちょっとあんた! それだけで喜ぶのはまだ早いわよ」

 コランの後ろに、トルテアが立って言った。

「えっ!?」

 驚いて振り向いたコランを前に。トルテアは少し俯いて、お腹を押さえて赤面しながら言った。

「その……あたしも、最近その『来てない』から。……たぶん、クリークさんと同じだと……思うの……」

「ええっ!? そ、それって、そちらにも麻呂の……」

「そうよっ! じ、自覚を持ってよね! ち、父親としてのっ!」

 赤面して、珍しく口ごもるトルテアの手を握り詰めて、コランは小躍りした。


 更に、それだけでは無かった。

 残る二人の娘……サシオとハッチャが、トルテアの後ろに並んで、コランを見上げていた。

 そして、声を揃えてコランに告げた。

「その……実は、私もです! 国司様」

「あ、あの……わたしも……できたみたい……」

「えっ、えええっ!?」

 驚いて見るコランの前で、ふたりはそっとお腹に手を当てて赤面しながら微笑んだ。

「ええええええーーーっ!?」

 コランはもう一度、驚きの絶叫を上げた。



「ふふっ……一気に4人ともママに……そして国司様はみんなのパパになるのですわね」

 クリークが微笑んで言った。

「この子と……これからのユガのためにも、あんたにはもっと頑張って貰わないと困るんだからね!」

 しっかり釘を刺しながらも、嬉しそうなトルテア。

「私も、これからも……国司様とともに……国司様をお支えいたします!」

 状況が変わっても、はきはきした性格変わらない、サシオ。

「わたしも、ずっと国司様と一緒にいて……お役に立つから、任せて」

 大人しい口調ながら、コランの袖をぎゅっと握りしめて、秘めながらもしっかりとした意思を示してくれる、ハッチャ。


 コランは彼女たちに囲まれながら……

「おおお……っ! 嬉しいのう、嬉しいのう!」

 娘達からの思わぬ報告と、彼女たちの言葉の嬉しさに小躍りして、声にならない歓声を上げながら、順々に彼女たちの手を握りしめ続けるのだった。



「ハーン万歳!」「ハーン万歳!」

「国司様ばんざい!」「国司様ばんざい!」

 国司コランと4人の娘達の周りでは、ユガの主部族と住民たちが歓声を上げ続けている。

 そして、そんな様子を、ハーンであるリリと右賢王サカ、そして本国から来たイプ=スキ兵たちが優しく見つめていた。


 オークの撃退。

 水路の開通。

 そして新しく宿った命。

 ユガ地方に拓かれた運命、明るい未来。

 その歓びに、国司コランは娘達と手を取り合って小躍りし、笑顔を浮かべている。

 彼らを囲んで、ユガの住民たちは、いつまでも歓声を上げ続けるのだった。



 ……………



 この先の未来。

 ユガ地方は、開通した「コラン水道」によって灌漑が進み、豊かな穀倉地帯へと姿を変えていく事になる。

 そして、地方全体が豊かになった事で、商業的にも栄えるだけでなく、様々な文化が花開く事になる。


 この地方の土着部族である、4部族の血統である「ユガ系4氏族」。

 そして、初代国司コランが4人の妃達との間にそれぞれ設けた子たちの子孫である「国司系4氏族」。

 彼らを合わせた「八大貴族」が織りなす貴族文化が花開く、豊かで文化的な地域として、ユガ地方は栄える事となるのであった。


 だが、それはこの物語からは先の時代の話である。



 ……………



 直近の情勢としては、国司コランの奮闘により、北方からの襲撃を撃退する事ができた。

 そして、この出来事とそれまでの活動により、ユガ地方は彼の元で一致団結する事となった。

 国司の元で土着の数多くの諸部族が団結し、住民たちも国司を信頼する事となったのである。



 リリ・ハン国にとっては、国司コランの活躍により、辺境の地であったこのユガ地方を完全に掌握する事ができた。そして、将来の発展に向けた布石を打ち、確保する事ができたのである。

 このユガ地方を不安なく掌握出来た、この地方を押さえ、確保したという事は、この先の混迷を深める大陸情勢でリリ・ハン国が生き残るために、重大な意味を持つ事となる。



 ……………



 そう……。

 大陸全土を揺るがす動乱の時代は……


 このすぐ先に、迫っていたのであった。

 読んでいただいて、ありがとうございました!

・面白そう!

・次回も楽しみ!

・更新、頑張れ!

 と思ってくださった方は、どうか画面下の『☆☆☆☆☆』からポイントを入れていただけると嬉しいです!(ブックマークも大歓迎です!)


 今後も、作品を書き続ける強力な燃料となります!

 なにとぞ、ご協力のほど、よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] これにて大団円。 しかし急なオークの侵攻には裏がありそうな雰囲気だったし、この騒動は序の口でしかなさそうだ。
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