汚れた女は愛を知っていた 前編
これは愛を知らない少年が、とある女性に愛を教わる話
その女性は薄暗い路地裏の窓から煙草を吸い、煙のドレスをまとっていた。
少し小汚いドレスアップされた彼女に、僕は恋をする。これはまだ僕が身も心も幼かった時の話だ。
あれは桜が降るころだった。まだ丈の合わないブレザーを初めて着て、不慣れながらもネクタイを結んだ。正直へたくそだが、少しだけ大人になれた気がしたんだ。
「母さん見てよ!」
僕は褒められたかったんだ、ただ見てほしいだけなのに、母さんが見ていたのは知らない男だった。
「あれ?この子だれ、ヨウコの子?」
「…」
「はぁ、子連れかよ。そういうことは先に言うべきだし、この子が可哀そうだと思わないのか⁉」
母さんは上目遣いで彼氏を見つめるだけで何も言わなかった。この状況でそんなものを見た男は、失望したのか荷物をまとめ始めた。
「ね、ちょっと!一人にしないで!」
必死に止める母さんを置いてその男はその場を後にした。数秒の沈黙の時間が終わると、この世の憎しみという感情すべてが僕に向けられているような、母さんはそんな目で僕をにらんだ。
僕が悪かったのかもしれない、そう思って謝ったんだけど、気ずいたころには涙でぼやけた天井を見ていた。アザで痛む体を起こし、せっかくの純白のワイシャツは血で染まっていた。
僕は苦しくも涙を拭い、広い田舎道へと進み学校を目指したが、進むにつれて少し暖かい風が傷を撫でて痛んだ。僕は学校へ一歩、そしてまた一歩進むにつれ足が重たくなっていった。
周りには楽しそうな家族ずればかりで、記念写真を撮る人もいたからだからだ。その幸せそうな光景が僕の心を握りつぶすような、本来あっただろう幸福が奪われていくような…。
この時叔父さんからもらった給食費がカバンにあることを思い出した。それに気ずくとすぐにその場を後にし、僕は駅へと向かった。まだ幼かった僕は、泣きたくなる気持ちを我慢し歯を食いしばり、給食費を使ったことや学校へ行かなかったことへの罪悪感を感じながらも、列車に揺られながらこの田舎を後にした。
東京、それはそれは大きかった。右を見ても左を見ても石の壁が連なり、車は常に入れ替わり何もかもが魅力に見えた。とりあえずコンビニの百円コッペパンで腹を満たし歩いた。
別に居場所、目的すらないのに何かを目指すようにひたすら歩いた。そして太陽は沈み町は街灯の光に飲み込まれたころ、手元にあるのは二千円と一握りの小銭。仮に帰るとしても交番へ行かなくてはならなかったが、年頃の僕は警察官が怖くてとてもそんなことはできなかった。
夜の街では大人が酒に酔い、肌を露出した女性にあふれるそんな場所で、気ずけば流れるように路地裏へと逃げ込んだ。そして自分よりも大きなゴミ箱とゴミ袋の陰にうずくまり、そこで夜を明かそうとした。
様々な理由からこみ上がってくる恐怖と、その恐怖に耐えなければならないつらさから出る涙、そして東京の地面は硬く冷たく、僕の体は悲鳴を上げていた。
「このまま苦しまずにここで死ねたらな…」
もう負の感情をコントロールなどできずむしろ絶えず湧いて出てきた。ちょうどその時だ、僕の頭に何やら熱いものが落ちてきた。
「アッつ!」
驚き頭に手をやると手には灰らしきもので汚れていた。僕はすかさず上を見たが、そこには一人の女性が窓の手すりに腕を掛け煙草を口に銜えて僕を見下ろしていた。
髪はボサボサのショートボブに黒髪、そして白いキャミソールを身に着けていた。少しやつれてはいて小汚くはあるが、小顔で可愛らしい容姿で煙草の煙をドレスのようにうまく着こなして、まさに芸術作品を見ているようだった。
「やぁ少年、どうした?」
見た目とは反対に張りのある明るい声だった。
「休んでるだけです。」
彼女はこの一瞬だけ少し悲しそうな表情をちらつかせてから言った。
「…ちょっと待ってな」
そう言うと窓の斜め下の汚いドアを開けて出てきた。
「だいぶ汚いが上がっていきな、布団くらいは貸してやるからさ」
本来知らない人にはついていかないが、この時は身も心も疲れていたためその甘い言葉にそそられ流れるように彼女の方へと入っていった。
これは今でもよく覚えているが、頭上にいたときはよく見えなかったが、その人の肌着の下から浮き出た突起に目が離せなかったことを。
{続く}
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