異世界王道設定
どこまでも白い空間に、俺達6人はいた。皆、顔に黒い影がかかっており、素顔が見えない。
俺達はこの白い空間でただ一点の黒玉を眺めていた。
黒玉は、機械で作られたような声で先ほどから永遠と何かの説明を続けている。
だが、説明が長すぎて最初のほうなんて忘れてしまった。
――初期ステータスはランダムに100ポイントを振り分けて決定されます。さらにスキルを……
思考が定まらず、ボーっと声を聴いていると目の前にステータスが表示される。
ヴェノン
HP 55 MP 15
力 5 防 7
知 7 精 6
運 1 敏 4
S:強制宥恕
スキル以外はパッとしない平均的なステータスだ。
てか、このスキルなんて読むんだ……
ライトノベル的に考えると、運が低い俺は『不運系主人公』かもしれない
スキルも強そうだし来世はチーレムかな?
そんなことを考えていると、いつの間にやら説明は終わったようだ。
――では、これより転生処理を開始致します
どこまでも真っ白な空間が、黒い闇に塗りつぶされる。
強い力で引き寄せられるような感覚に、例えようもない恐怖を感じ、俺は気を失った。
§
そんなこんなで、俺は異世界に転生した。
生まれたのは片田舎の小さな村で、そこでは商売をする店なんかなく、広大な畑と深い森が広がっていた。男は森へ狩猟に、女は畑に手入れをしに……を地で行くような生活を送っている。
俺は生まれた瞬間から前世の記憶を曖昧だが持っていた。
しかし、小説のようにすぐに動いたり、あれこれと考えたりすることはできずに、白い空間にいた時のようにボーっとしていた。
思考が安定するようになったのは、一人で着替えたり水浴びができるようになってからだった。
この村では親は共働きなので、子供は村の中心部にある家でまとめて面倒を見てもらうのが普通だ。
そこで俺は白い空間にいた顔の見えない5人と再開した。合ってすぐに同類だと直感で分かった。
お互いを認識してからは、用事がある時以外いつも一緒に行動している。
誰かが提案したわけではないが、お互いそばにいると妙な安心感があったからだ
そんな俺達のリーダー的存在はモリスという男の子だ。
モリスはとにかく元気で意欲的な子供で、前世の影響なのかリーダーに伴う責任に言いようのない恐怖を感じていた俺達を引っ張ってくれる。
「よし。みんな揃ったな。じゃあ狩りにいくか」
この世界には動物はもちろん、魔物と呼ばれる凶悪な怪獣がいる。
村の大人が言うには、それらを狩ることで稀にステータスが微増するらしい
俺達は白い空間でステータスをもらったことを覚えていたため、力試し兼成長を目的として森に魔物を狩りにいこうというのだ。
「ねぇモリス! ほんとに大丈夫なの? ママは魔物に噛まれたって2日も仕事休んだのに!」
「ユーティ、2日しか休んでないなら大した怪我じゃないってことだよ。心配しなくても俺達にはユニークスキルがあるだろ?」
スキルを生まれ持つ人間は極々稀で、大体は後天的に会得するショボいスキルが主だ。
モリスは先天的なスキルを勝手にユニークスキルと呼んでいた。前世の知恵だろうか
「ヴェノンはどう思うよ? 魔物って強いと思うか?」
俺に話かけてきたのは、若干顔が恐い男の子、アラーク。
「うーん。たぶん弱いよ。前世風に言ったらここは始まりの町だし」
出てもレベル1のスライムとかゴブリンとかそんな感じだろう
「油断しないで、始まりの町に魔王がでることもありえる……」
生真面目な女の子はアメリア。でも始まりの町に魔王がでるなんてありえないだろ
緊張感もなく森を歩いていると、シッーっとモリスがジェスチャーをして、姿勢を低くする。
俺達もモリスに続くと、視線の先にはゴブリンらしき小人が3匹ほど眠っていた。
真昼間から爆睡しているなんて、よほどこの森は平和なんだろう
モリスが木の棒を構えて俺達にアイコンタクトを送ってくる。
魔物とはいえ、生き物を棒で殴り倒すなんて俺にできるのか?
俺がビビっていると、モリスとアラークが飛びだして手前のゴブリンの頭を殴り付けた。
ゴンっと生々しい大きな音がなり、途端に罪悪感を感じる
ゴブリンは頭を押さえて喚気散らし、起きた無傷のゴブリンは俺達を唖然と見ている。
その顔はまるで「僕達が何をしたっていうんだ!? なんでこんなヒドイことを!!」と訴えかけているようにすら感じた。
優しいライリーやアメリアもそれを感じ取ったのか一歩後ずさる
「一匹押さえてくれっ!!」
アラークは悶えるゴブリンをメチャメチャに殴りながら、こっちに援護を求めてくる
「うっ、や、やあああ」
隣にいたユーティが恐怖に打ち勝ちゴブリンに突撃したため、仕方なく俺も後に続く
さすがに男の俺が後ろで震えてる訳にはいかない
唖然としたままこちらを見ていたゴブリンの頭に、ユーティの棒が迫ると腕でガードされる
頭が真っ白だった俺とユーティは、とにかくガードの上から殴り続けた。
ゴブリンを殴り付ける度、とんでもない罪悪感に襲われ、数分殴り続けるとゴブリン達はピクリとも動かなくなった。
しかし、ゲームのように光になって消えるわけでもなく、ただ血塗れで横たわっている。
「……ステータス、上がったかな?」
モリスの声は震えており、ゴブリンを撲殺したことに意味を探しているようだった。
「少なくとも経験値は、入ったんじゃないかな?」
重い空気に堪えきれず、すこし茶化す。
この世界の魔物を倒したという経験は、今はどうあれ、いずれ役に立つだろう
皆、酷く疲れた顔をして村へ戻ると、アラークは真剣な顔で俺達に向き直る
「なんでこの世界に俺達が転生したのかはしらねぇけど、戦う力が与えられた以上は強くなって損はねぇはずだ。もしかしたら凶悪な魔物や魔王に襲われるかもしれねぇ」
アラークの言い分はもっともだ。
そしてそれは明日からもゴブリンを撲殺する宣言でもあった。
「わ、私はゴブリンを倒せなかった……だから明日は私がやるっ」
生真面目なアメリアの覚悟に皆も覚悟を決めさせられる。
真面目なアメリアがやるといえば、それはやらなければならないことだ!
しかし、疲れたままでは危険だろう
「でも初めてのことですごく疲れたし、数日休まない?」
「それもそうだな。明日は自由参加にしよう」
モリスが俺の提案に賛成してくれた。ふぃぃ明日はゆっくり休むぞお
ちなみに翌日、俺以外は全員参加したらしい……
村近くの森で、ゴブリン撲滅運動を行うこと早一ヶ月
途中何度も休んだ俺でさえ、ゴブリンと一対一で渡り合えるようになった。
最初に会ったゴブリンは寝起きで動きが悪かったらしく、それ以降に出会ったゴブリンは皆好戦的であった。
精神肉体ともにゴブリン退治に慣れてきた頃、俺達は大きなイベントに直面していた。
そう、異世界において必ず起こるであろうステータス鑑定イベントだ。
村に年数回訪れる行商人が、偶々ステータスオーブなるものを持ってきたらしい
聞けば3銅貨でステータスを鑑定してくれるとか
俺達は親に頼み込み入手した銅貨を握りしめ、列に並ぶ
「うぅ緊張する! あの時見たステータスから成長してるかな?」
「俺はそんなの覚えてねぇよ。ユーティは覚えてんのか?」
「もちろん!」
アラーク同様、俺もステータスなんて忘れてしまっている
たしか運が低くて『不運系主人公』からのチーレムが待っているんだっけ
「次の人どうぞー」
ようやく俺達の番が回ってきたか
銅貨を払いオーブに触れると紙にステータスが浮かび上がる
アラーク
HP 80 MP 5
力 2 防 8
知 1 精 2
運 1 敏 1
S:強制増進
ユーティ
HP 30 MP 50
力 2 防 1
知 11 精 2
運 2 敏 2
S:強制破砕
モリス
HP 50 MP 25
力 1 防 2
知 6 精 3
運 3 敏 10
S:強制解除
ライリー
HP 55 MP 20
力 2 防 4
知 4 精 12
運 1 敏 2
S:強制快癒
アメリア
HP 60 MP 15
力 3 防 15
知 2 精 3
運 1 敏 1
S:強制堅守
ヴェノン
HP 55 MP 15
力 5 防 7
知 7 精 6
運 1 敏 4
S:強制宥恕
「なんていうか……微妙ね……」
アメリアの落胆は理解できる。初期ステータスは100ポイントをランダムに振り分けられる
あれだけゴブリンを撲殺したのにステータスがちっとも上がっていないのだ。
だが、俺にとっては皆も運が低く、ますます俺の主人公説が遠のいたことの方が深刻だった。
そんなしょっぱいステータスだが、どうやらこの世界の住人からしたら特別なようだった。
「知力11!? 精神12!? それだけじゃない! 君達全員スキルを……!?」
「おじさん、これって高いんですか?」
我らがリーダーモリスとおっさん行商人の話をまとめるとこうだ
ステータスの初期値が今後の伸び代を示している
知力の高いユーティは今度、知力が大きく延びていくらしい
普通は2や3が平均値らしく、それぞれ突出した才を持っているとか
後、ステータスを上げるには特別な訓練や魔物の核、通称魔核を吸収する必要があるらしい
要するに1ヶ月間、俺達は無駄なことをしてたようだ。
「君達さえよければ、王都のギルドの掛け合ってあげるよ。君達も冒険者に憧れているんだろ?」
ニヤリとムカつく顔のおっさんに反発したくなるが、冒険者かぁ
やっぱり異世界っていえばこうだよな
これから俺達の冒険がはじまる!
って顔してる他5人に呆れつつ、ワクワク感を隠せない自分がすこし恥ずかしかった。