3-豹変と苦痛
そして始まった。この当たり障りのない健全な学校生活を覆すであろう転機の時。
キーンコーン カーンコーン
二時間目の開始のチャイムがなる。
思いの外普通に授業が始まってしまった。
おかしいな?魅花見さんの話ではその…
二時間目でこのクラスの誰かが、死ぬのだと。
しかもそれが僕も例外ではないらしい。その事実を聞いてしまっては落ち着いていられるわけもない。
平然、依然として先生はぶっきらぼうに解説をしながら名簿を見た後に視線を僕の方に向けた。
「果山くん。答えたそうだね。問8を前にでてきて書きなさい。」
く…くそ…焦燥にかられていたら指名されてしまった。前に出たら死ぬんじゃないかと不安で仕方ないのに……。
遠くで晴也がバカにするように笑っている。
こいつには死なないで欲しい、もちろん魅花見さんが嘘つきとは言わないけど……嘘であって欲しい。そして魅花見さんも救われれば………
黒板に行かないと変な空気になりそうなのでとりあえず僕は前に歩いていく。
そういえば、このクラスのひとの顔と名前、彼女の話が本当なら、覚えておくべきだったかな………________?
黒板に向かう途中に、何かが僕の足にのってきた。
ふと足元を見たら、女子生徒が俺の足元にたおれこんでいた。
_____その時が来てしまった。僕は悟った。
「……………え?凉佳ちゃん!?」友達がその子を心配している。
僕もすぐさま大丈夫かと声をかけ続ける。
「先生は!!!」 慌てた僕は大人の判断も借りようと考えた。ただ、いたはずの先生はいなくなっていて、先生の腕時計だけが11:20の時刻をさして破壊されていた。
「…そんな」
「律徒くん、ここから先はもう誰がどうなるかは分からない。私たちはもう一線を越えてしまったの。ただ…逃げようと思えばきっと逃げ切れると思うの。」
魅花見さんは固い顔でそう持ちかける。
「君を置いてきぼりにして逃げたくはないよ」
「きっとここからは…あなたには予想だにしなかった絶望が待ってる。それでも…それでも私に着いてきてくれるの?」
僕は覚悟を問われる。
「友達を置いてにげて、後悔をしながら生きていく一生なんてものはね、僕は心から望まない。だから一緒に……戦うよ」
「不思議な人……。でもありがとう。」
魅花見さんは固い表情から少しぎこちない微笑みをして僕の手をとった。
「これは前の学校で、前まで友達だった子が持ち合わせていた宝玉よ。これを持っていれば闇の異能力が少しだけ使えるようになる。コツも才能もあるから難しいと思うけど、もし危なくなったらこれを使って身を守って。」
僕の手に青紫の宝玉を置いた。僕は学ランの内ポケットにそれを入れて、彼女にまた後でと言って
さっきの事件の現場に戻る。
「沖葉 凉佳…?だよな。苦しいところ申し訳ないが、何があったのか分かるところまで教えてくれないか?」
はやる気持ちを押さえつけて僕は尋ねた。
「右……から、音が、して………それで……見たら………学級、委員の…琴音ちゃんが……」
「あなたが、最初よって…」
琴音…?眼鏡でショートボブの学級委員か。
「寒い…の…」
「体の中から、まるで氷が…むしばんでいくみたい………に…」
温もりを求める顔のまま、沖葉は目を閉じて動かなくなってしまった。
僕の血の気もその瞬間引けてしまった。
「魅花見さん……。最初の異能力者…分かったよ。」
温もりが欲しかったであろう悲しく冷たい沖葉の顔と同時に何か込み上げてくるものがあった。
「学級委員 白川 琴音。お前だよ」