中
十歳の時に軌道修正を頑張った私は現在『トキメキラブラブ☆学園、異世界編~魔法もあるよ~』の舞台である王立最高学府の最終学年生である。結局、回顧イベントで起こったことは暴走を含め一つも起きなかった。個別イベントどころか通常イベントも発生しなかった。何故ならヒロインも来なかったからだ。
もう一度言おう。ヒロインが来なかった。
軌道修正を行った私は、このままいけば王立最高学府に同い年で入学できることに気が付いた。主要キャラから後日談を聞くまでもなく、その舞台の隅っこにいられるかもしれない。私の知り合いの人物が攻略される可能性もある。お祝いにかこつけて根掘り葉掘り聞くことも可能なのでは、と煩悩のままにうきうきと入学したのだ。
だと言うのに、三年生になっても四年生になっても五年生になってもヒロインが編入してこない。何故? どうして? 年齢を間違えたかと思って色々と探りを入れてみたものの何の成果もない。隣国の王妹殿下はちゃんと存在する筈なのに、深窓の令嬢過ぎて情報が無い。
「何故なの……っ?」
「ミレイユ、小説の読み過ぎよ。大体どうして隣国のお姫様がうちの学園に来る必要があるの」
私の嘆きをロマンス小説の読み過ぎとして切り捨てる美しい少女はお助けキャラのエステルだ。彼女とは十歳の時からの友好的な関係を続けることができ、公の場でなければ敬語もなく呼び捨てで話し合う間柄である。エステルはかなりの現実主義者なので、ポロッと出てしまった乙女ゲームの知識なんかは彼女にかかれば「夢の見すぎ」で全て片付けられてしまう。逆にそんな彼女なので安心して話すことができた。
「だって、だって」
「だってじゃなくて、ほら、もうすぐ建国記念日なんですから。今年は貴族としても学園の生徒会としても役回りがあるのだからしっかりして」
「エステルぅ」
エステルに泣きついていると小さく扉を叩く音が三回聞こえた。学園内のティールームであるけれど学園専属の使用人が対応してくれる。
「ミレイユ先輩、あの、会長がお呼びです」
開いた扉の端から少し体を出して恐る恐る中を覗くのはお助けキャラのハンナである。可愛い後輩ポジションでヒロインと一緒に子犬のように駆け回るイベントは攻略キャラのスチルが無いのにも関わらず人気が高かった。実際会ってみると天然物の可愛いはとんでもなかった。
学園にあるティールームは時間制で予約すれば誰でも使えるが、学園に通う令嬢の中でも一番に位の高いエステルと私が使う時間であれば皆気を遣ってその前後三十分は使用予定を入れないし近寄らない。
庶民の思い出がある私には何となくいたたまれなくてあまり使いたくはないのだが、生粋の公爵令嬢には気遣いに気遣ってどうするのだと呆れられている。だが、今日はこの部屋を使う必要があったのだ、ハンナが来てしまったけれど。この部屋は原則として女子と男子が同時に使うことができなくなっている、つまり女子が茶会をしている間は男子禁制だし逆もしかりなのだ。まだ自宅よりは逃げられる可能性がほんの少しだけ高かった。
「あら、ハンナいらっしゃい!」
「え、あの」
「お茶はどうかしら、お菓子もあるわ」
「ミレイユ」
「嫌よ」
「嫌よじゃないの、ハンナも困っているでしょう」
「エステルは良いわよ、すぐ決まったじゃない! 私のこれ何回目だと思っているの!」
「十回くらいで弱音を吐かない!」
「今回できっかり二十回目よ! 今日は絶対行かないわ!」
おろおろとするハンナの小柄な肩を押して椅子に座らせる。使用人は困ったように笑いながら彼女の分のお茶をいれてくれた。
「行かなかったら行かなかったで面倒よ?」
「今日は行きませんって申し上げました。秘書業はお休みなんです、私は綺麗なお友だちと可愛い後輩とお茶を飲むんです!」
「もう知らないからね。ああ、ハンナは気にしなくていいわ。貴女に何か仰るような方ではないから心配しないで」
「仰ってみなさいな、絶交してやるんですから」
「できるものなら、どうぞ」
できる訳がない、相手は王太子殿下である。唸りながらも口に含んだお茶はそれでも美味しかった。
当たり前のように一年生から生徒会長をやらされている彼には多少同情したし少しくらいなら助けてあげよう昔のよしみで、と思ったのも事実だ。しかし相手は次期国王。元々お勉強は一流講師たちから散々学んでいたし、人心掌握術もきちんと知っていたから別段取り立てて手伝うこともなかった。
じゃあさりげなくフェードアウトしようとしたらいつの間にか生徒会役員にされていて、いつの間にか秘書ポジションである。本日はこれから〇〇部の視察、その後に〇〇研究会の学外発表論文の検閲、明日は教職員組合と風紀委員会との学園風紀についての意見交換会、などと王太子のスケジュールを管理し必要書類を集めてファイリングしたものを渡したりとそれなりに忙しい。
私は優秀だったし、十歳までの勉強貯金のおかげで学園の勉学についていけないなんてこともない。働くのだって別に嫌いじゃない、何せこの世には娯楽が足りなかった。前世ではゲーム、小説、漫画、ネットといくつもの娯楽が私を充実させてくれていたし、それに伴う金銭を稼ぐためなら仕事だって嫌だったけど嫌じゃなかった。推しの為に働くのは苦じゃないタイプだったのだ。正直に言えば大好きな箱推しゲームのキャラクターの側で働けるとかご褒美なんですけど、と思ったのも嘘じゃない。しかしだ。二十回もドレスを作り直されるのは秘書の業務ではありません。
「十歳の時からもうずっとそうじゃない、諦めていると思っていたわ」
「初めの頃はまだ二、三回の修正で良かったのよ。それが年々やっぱりこれが良いとか、こっちのデザインがとか言いだして! 私は着せ替え人形じゃないわ!」
「で、でも毎年ミレイユ先輩のドレスすっごく素敵です!」
「ありがとう、ハンナ」
本当に可愛い良い子である。どうかそのまま健やかに育って欲しい。いややっぱり変な人に騙されない程度にはちょっとずる賢さも必要かもしれない。でもとりあえず私が学園にいる内はこのままでもいいんじゃないだろうか。
十歳の建国記念日からこちら私のドレスは何故かずっと王太子に用意されている。最初はエステルとエドモントと一緒に貰ったからさほど気にしてはいなかったが、次の年からは私だけ用意されるようになった。こう毎年となると非常にややこしいことになってしまうのだ。
初めはやんわりと徐々にはっきりと断っているのだが聞いてくれないし、権力には逆らえないから両親は頼れない。何たって私は侯爵令嬢。婚約者制度がほぼないこの国であっても王族、しかも王太子ともなればご内定を何人か選出している。私もエステルもその中の一人ではある。もしかしたら攻略キャラと色んな意味で親密になれるチャンスかもしれない。ただ。小さい時から知っているからもう親戚の子どもにしか見えない。
そもそもゲームでは腹の底が見えないのが良いとか「理想の王子様タイプに見せかけてその実、腹黒そうでたまに子どもっぽく笑うのが可愛い」と人気だった王太子は実際に生涯を付き合っていくのには不向きだ。本当に止めて欲しい。モブとしてモブと結婚してそこそこ幸せにモブとして生きていきたい。王太子と結婚となると次期王妃である。無理。考えただけで辛い。
大体このドレス騒動や呼びだし、呼んでもないお茶会に参加するなどの付きまといは本当に好意なのだろうか。ただ楽しんでいるだけのような気もするし、体の良い虫よけにされている感もいなめない。であるならば私のお婿さん探しが難航するので本当に止めて欲しい。でもそこまで強く言えないのも事実だ。
顔が良い、顔が良いんだ。勿論権力差もある。侯爵令嬢の私が王太子殿下のご意向に逆らう訳にもいかない。毎年そうやってのらりくらりと言いくるめられ今年もまた私のドレスは王太子殿下のプロデュースだ。前世でも別段コミュニケーション能力が高くなかった私では本来あるべきアドバンテージが無く、今生のスキルに頼るしかなかったのである。ああ、あの顔の良さをちょっと遠くで眺めていたいだけなのに世の中本当に上手くいかないものである。
=ぴんぽんぱんぽーん=
校内放送の始まりのベルが鳴った。スピーカーなんて無粋なものが無くても魔法じかけで学園中に響き渡る。何とも間抜けな音である。ちなみにこれは私が生徒会役員になって初めて手に付けた仕事だ。あの時は若干日本の学校が懐かしい時期で、鉄琴を取り寄せて記憶を頼りに再現したのだ。
「いってらっしゃい」
「まだそうと決まった訳ではありません」
「でも、あの」
「まだそうと決まった訳では」
=生徒会役員、ミレイユ・ディア・クラウンナイツ様、至急生徒会室までお越しください、繰り返します=
「いってらっしゃい」
「……聞き間違いよ」
「ミレイユ先輩…」
「ハンナは気にしないで、ほらこのクッキー美味しいから」
=生徒会役員、ミレイユ・ディア・クラウンナイツ様、至急生徒会室までお越しください、なおこの放送は指示された内容が遂行されない限り繰り返します=
「いってらっしゃい」
「……」
別に本気で逃げられると思っていた訳ではなかったから良いのだけれど、優雅に微笑みながら手を振られると胃のあたりがぐらぐらとする。今日は行かないと言っておいたのにあの王子。深いため息と共に顔だけは取り繕ってティールームを出た。
―――
「失礼致します」
「明日は参りません」と昨日宣言した生徒会室に入り礼を執る。本来学園では免除されている最上礼だが、王太子殿下に対する礼としては一番相応しいものだ。中には苦笑しているお針子が二人とにやついているエドモンド、デザイン案を片手に持った王太子殿下がいらっしゃった。
「ああミレイユ、やっと来たね。待っていたよ」
「王太子殿下におかれましては、ご機嫌麗しく」
「そんなに怒らないで、本当に今日で最後だから」
「まさか、徳量寛大である殿下に対して怒りの感情を持つ者など、この国にはおりません」
「ミレイユ…」
困ったように眉尻を下げる王太子に罪悪感が湧かない訳ではない。しかしだ、このやり取りはもうお腹いっぱいなのだ。本当なら王太子殿下にご機嫌をとらせるなどあって良いことではない。だからこそ初めの内はひきつりそうになる唇を誤魔化して「今回は構いませんが次はどうか」とお願いしていたのだ。
めちゃくちゃ下手に出てお願いにお願いを重ねて、今日だってエステルとのお茶会を楽しみにしていたのにハンナまで使って、やることが姑息なのだ。これで私が許さなければただただ私が悪者だが、今回ばかりはそうそうに態度を改める気もない。そもそも本来はこのように最上の礼を尽くして接する必要のある方なのだから一つの問題だってない。
「あっはは、だから今日は止めておけと言ったんだ」
「あらエドモント様、いらっしゃいましたの。気付きませんで、大変申し訳なく」
「え、あれ、僕まで怒られてる? 僕止めたんだよ? 怖い、怒らないでよミレイユ」
「怒ってなんておりませんわ、次期宰相閣下に対してそんな」
貴族令嬢らしく上品に微笑んで差し上げるとエドモントはぴゃ、と飛び上がり(身長がにょきにょき伸びたのでかなり滑稽に)転がるように生徒会室から出て行った。
「……」
「……」
「ええと、お嬢様、あのう」
「ええ!貴女たちもここ数ヶ月で二十回も呼び出されてさぞ疲れていることでしょうから、さっさと終わらせましょう!」
「あ、あ、あの、わたくしたちは……別に……」
「ええ、そんなそんな……!」
「さあ今度の修正箇所はどこなのでしょう!」
しょんぼりとしている王太子を横目にお針子を引き連れて奥の個室に入る。生徒会室は応接間、執務室、休憩室で構成されており執務室と休憩室は各三室ずつある。委員会塔という学舎とは別棟の建物のワンフロアを贅沢に使っている空間は、我が侯爵家のそれとも遜色はない。
「お嬢様、あまり殿下を怒らないで差し上げて下さいませ」
「確かにやり過ぎではあるかもしれませんが、お嬢様に一番似合う素敵なドレスを贈って差し上げたいと思っていらっしゃるのですわ」
「気を遣わせて申し訳ないわ、でも大丈夫。本当に怒ってなんていません、怒ったってどうしようもありませんもの。それに貴女たちのせいではないわ、気になさらないでね」
気にするなと言って、それができたら苦労はしないことを私だって知っている。精神年齢は高い筈なのにどうしてこう上手くできないのだろう。出し直されたデザイン案と仮縫いの綺麗なドレスを合わせながらため息を吐くのを何とか堪えた。
でもこの前のデザインのドレスだって美しかった。ドレスの裾にスパンコールを縫い合わせた仮縫いのそれは実際には宝石を砕いて散りばめようと言っていたし、その前のドレスだって細かいガラスを糸により込んだもので刺繡をする予定だった。
何が気に食わないのだ、顔か、私の顔か。確かに美人なら何を着ても様になるが、そうでない人は着る服を選ぶ場合もある。私は後者なのだ、自覚はある。王太子たちは前者であるから合わせてみてやっぱり違ったと思われているのだろうか。無表情で腹をたてながらお針子たちの好きなようにさせる。彼女らは懸命に黙って仕事をすませてくれた。
「まあ、お嬢様素敵ですわ」
「やはりレースをふんだんに使うものの方がお嬢様の美しさを引き出せますわ」
「ありがとう、じゃあもう脱いでいいかしら」
「お、お嬢様……」
「それは……」
「……冗談です」
半分は本気だったが、そんなことをすれば彼女たちが叱られてしまう。促されるままに鏡の前に立つと確かに綺麗なドレスだ。細やかなレースは可愛いが子どもっぽさはなく、しかし大人びて過ぎる訳でもない。私の年齢に丁度合う上品なこのドレスに罪はない。仮縫いの時点ではこれだが、本縫いではレースを足して飾りの宝石を付けてくれるらしい。
……本縫いが私の手元にくればの話ではあるが。おかしな所がないか確認して貰って王太子の元に行くと彼はまだしょんぼりと肩を下げながら書類を片付けていた。
「殿下、お嬢様のお着替えがお済みになりました」
「とってもお似合いですわ。いかがでしょう、殿下」
「素晴らしい出来だ。やはりそちらの方が似合うよ、ミレイユ」
「光栄でございます」
「うん、レースが美しいね。本縫いでは――」
しょんぼりとしていたのが嘘のようにテンションを上げた王太子は私そっちのけでお針子たちと語り合っている。こんなイベントゲームには無かった。解釈違いとまではいかないが、既に王太子は私よりもドレスについて詳しい。デザインやドレスの型などは勿論、縫製から何から玄人たちとやいのやいの言い合えるくらいに詳しい。王太子でなかったら服職人にでもなっていたのではないだろうか。
ただ興奮してドレスの裾を持ち上げるのはほどほどにして欲しい。私はそこまで抵抗がないが、この文化圏ではみだりに足を出すことを良しとしていない。この場を見られでもしたら問題である。王太子がお針子と熱烈に語り合うのもどうかと思う。唯一自由な首をひねって窓の外を眺めながら話が終わるのを待った。これはいつものことである。
「――で、それではそのように」
「もう建国記念日まで時間がありませんので、すぐに戻って制作にかかりますわ」
「いつも無理を言ってしまうが、今回もよろしく頼むよ」
「お任せ下さいませ」
「今後ともご贔屓に」
やっとドレスからもお針子からも解放されたのは夕方が終わる頃だった。ずっと直立だった私の足はもう限界だ。
「では殿下、私も失礼致します」
「まさか、送るよ。もう遅い」
「迎えがあるので結構です」
「ミレイユ、ねえ本当に悪かったと思っているよ。でも」
「明日からは建国記念日に向けて三日間の休日ですが、生徒会役員はその準備とリハーサルがございます。朝九時には生徒会室に足をお運び下さいませ。ではご機嫌よう」
「ミレイユ」
開けようとした扉を後ろから押さえられる。振り向くと眉間に皺を寄せた王太子の顔が予想以上に近くにあった。あ、待って。このスチル知ってる。ヒロインと喧嘩しちゃった時の個別イベントだ。実際こんなドラマみたいな引き止め方する? するのか、ここゲームの世界だしね。いや、生きているんだけれどもその世界で。待って待って顔が良い、顔が良い! 近い! 近いんだってば!
「本当に、その、悪かったと思っているよ。何でもする、お願いだから機嫌をなおして」
「不用意にそのようなことを仰るべきではございませんわ」
「じゃあどうしたら許してくれる?」
「許すも何も私は」
「ミレイユ、お願いだよ」
はあああああ!? 顔が良い! じゃない、そうではないわ。この王太子は私がこの顔に弱いことをよくよく知っておられる。だからと言って何でもかんでも許すと思ったら大間違いなのです! 近い!
そんな支離滅裂の思考が表情筋に伝わらないようになるまでにどれだけの訓練が必要だったと思われるのだ。今だって顔面が崩壊する一歩手前であるのに努めて冷静に見えるよう微笑んで見せた。
「殿下、どいて下さいませ」
「嫌だ」
「何でもして頂けるのでは?」
「君が怒ったままなのなら嫌だ」
「……」
「……」
埒が明かない。この王子様は生まれた時から王太子殿下であらせられた為、かなり我が強い。どちらかと言えば優しい顔立ちをしている上に物腰も柔らかだから誤解されやすいし、俺様でもないのだが頑として譲らない。こうやって私は十歳からこちらずっと譲りっぱなしなのである。初めは子どもだし可愛いなくらいにしか思っていなかったが、ここの所はそれが顕著だ。育児疲れしそうだ。
このスチルの本来のイベントでは既に王太子とヒロインは付き合っている状態だったし、喧嘩の発端は王太子の嫉妬で誤解を解いた後の甘いキスで終了する。あれはときめいた。さすがは『トキメキラブラブ☆学園、異世界編~魔法もあるよ~』を代表するイベントであった。…思考が脱線し過ぎてしまった。もう何か心臓も痛いし足も痛いし疲れたな、もうお風呂入って寝たい。明日も仕事なのに、学生なのに学業じゃなくて業務なのに。
「な、泣かないで、ミレイユ」
泣いてませんとは言えなかった。制服のスカートをぎゅっと掴んで斜め下を向く。離れるどころかぐいぐいと引っ張られて、ソファに座らされた。綺麗なハンカチを押し付けられたので最高級品のそれで遠慮もなしに無言で涙を拭ってやった。魔導式冷蔵庫からジュースを持って来てくれたがそれも無言で飲んでやった。突如泣き出した女生徒に慌てふためく普通の男子高校生みたいだった。反省しろ男子。
「そんな所にお座りにならないで下さい」
「反省しているんだ、君を泣かせてしまったこと」
「こんな所を見られでもしたら罰せられるのは私です」
「扉は向こうからは開かないようにしているよ。それにこの位じゃあ君は叱られたりしないさ」
王太子は私の足元で片膝をついている。叱られたりしないと? そんな訳がない、普通に不敬罪で独房行きである。反省しろとか不遜なことを考えていたとかバレたらお取り潰しだ。もう貴族怖い。平民になろうかな。
「ねえミレイユ、本当にごめん。疲れてしまったよね、エステルとのお茶会も台無しにしてしまって」
「……」
「でも最近忙しくて、なかなかゆっくり会えなかったからつい……新しいドレス案も思いついてしまって……」
美形の王子様にうるうると「大型犬が反省しています」みたいな瞳で下から覗き込まれて落ちない女の人なんていないだろう。男の人だって危ないと思う。この王太子は本当に自分の顔面の価値を知っているから嫌だ。
嘘。この顔も声も仕草もめっちゃ好きです。何周もしました、トゥルーエンドから友情エンド、勿論バッドエンドだって何周もしました。でもそれはゲームの話で、現実ではないんです。
「怒ってなんておりません。ただ、悲しかっただけですわ、殿下はいつだって私の話なんて聞いてくださらないって」
「本当に、そうだね。ごめん」
「謝って頂きたい訳でもございません。それに殿下が謝意を示されるなんて、本来あってはならないことですわ」
「公式の場ではね。でもここは学園だ、まだここでなら少しだけ王族のしがらみから離れられる」
手をすくわれてそっと唇を落とす様は本当に絵になる。写真にして飾りたくなるくらいには絵になる。前世でもしこのスチルのポスターが出たら絶対に買っていた。
「君の気持ちを蔑ろにして本当にごめん」
ああ、もう。
「本当に、これきりですよ。ディブ様」
いつもこうなるのだから! これだから顔の良い人ってずるい!
読んで頂きありがとうございました。




