勇者は殉職したい
パチンコ店の中にバーチャル体験ができるゲームがある、
と考えれば楽だろうか
実際には遊戯という名のサバイバルだろうが
万全を期すため、ガラクも呼び寄せた
「へえ、このグリップ?を、回すと球がでる、へええ」
カナンリでの娯楽にはないものに、珍しくガラクがはしゃいでいる
キラキラと目を輝かせ、周りの演出を興味深く眺めている
水を差すのは申し訳ないが、一番危険な場所へ頼りになる彼は、絶対に必要だ
「とはいえ、今すぐ行くとは言ってないから、とりあえず甘デジでも打ってみます?」
資金はたくさんあるし、ガラクが楽しそうだから少しくらいいいだろう
D I Yをこよなく愛する主人公のパチンコを打ち始める
画鋲が画面いっぱいに降り注ぎ、金色の画面に金の文字が描かれ、光量最大の画面は眩しく光り続けた
まったく何も前兆は来ないが、ガラクは楽しげに打っている
のめり込みすぎなければ、娯楽として楽しめる
ハマらなければ。
「ふふふ、あのガラクがギャンブルの泥沼に浸かろうとしておる。悪魔としては大変素晴らしい光景よの」
悪魔らしい言い方をするゼルザハに、ユネは後ろから女の姿で大胸筋チェックをした
可愛らしい叫びも、筐体から出る音がかき消していく店内
魔族のディスターは、鎧を着た金色の毛並みの猫が悪霊と戦うパチンコを打っていた
筐体にはしっぽがボタン代わりに設置されており通常垂れ下がるしっぽが、ボタン演出時にはぴーんと立ち、そのしっぽを引っ張る、というものである
一部から動物虐待ではと反響があるも、これはあくまで機械であり、常識をわきまえた人間のみ入店できるシステムを導入して解決した
反対側には肉球ボタンをプニプニ押して遊戯するニャロっト
がある
本題に入らぬまま、しばらく時間が経過
結局、ディスターは単発で当たるも連続で当たりを引ける
ラッシュに入ることはなく、ぎりぎり出資回収でおさまる
対してガラクは驚くほど連チャンし、出玉表記は4桁を超えた
そんな大盛況のうちに、幕を閉じたパチンコ体験
すでに時間は晩御飯
帰って飯にでも行きたいところ
「ありがとうございます!」
笑顔が眩しい、マイナー筐体の担当
ディスター、ゼルザハ、ガラク、そしてユネ
広告ではいかにもパズルゲームを装い、実際は全く違うゲーム
そんな事例に当たったことはあるだろうか
紹介されたPV、資料からてっきり大陸の戦国世界へと旅立つものと思われていたユネたち
「もう!いつまで寝てるのお兄ちゃん!」
カンコウというテロップのついた女の子が、ユネの上に乗っている
布団で寝ていることや、知らない部屋、他人がいることなど
情報が多かったが、ユネは直感した
「騎乗するのは恋人だけにしておきなさい」
殴られた頬が赤くなっている
ユネは正論だと思っているが、妹はプンスコという擬音を鳴らしながら先を歩いている
ディスターもゼルザハも見当たらない
ガラクはいるだろうか
「おじいちゃん!おはよう!」
ダイニングに先に座っている人物に声をかけた妹、他人が増えるのかと視線を移せば、ガラクだった
「今日はおじいちゃんとデステニィランドに行く約束何でしょ?開門時間前に行かないと、混んでくるよ」
妹は的確にスマホのマップを表示させ、ランドのパンフも見せてくれる
なぜに女の子とではなく孫とじいじのランドなのか
ガラクはさらに老けた様子で、ほわほわしている
眠たそうだ
「う、うん。」
せっかく出てきた架空の妹は、家からバス停に送り出すと
手を振りながら後光の中へ溶けていった
名前も知らない親切な子に感謝しながら、来たバスに乗り
やっとガラクが口を開いた
「ユネ様、ディスターでございます」
「ほうほう、実に面白い」
ゼルザハは喫茶店でディスターと面と向かってお茶をしている
なぜか特大パフェを攻略する、という謎設定にも動じてはいない
ディスターの姿をしているガラクは、上品にパフェのアイスを食べていた