襲来撃退
旋風が吹いている
問題の路地裏は、ほかの衛兵たちが大勢いるが監視カメラなどないため、目撃者探しの聞き込み中のようだ
無表情のディスターは、血の匂いが立ち込める路地裏を気配を消して歩き回る
ヨロイの塊は幌馬車の中へと搬送される所だった
静かに忍び込み、被せられた布を取る
恐ろしく綺麗な切り口のそれらは、よく研ぎ澄まされた刀剣で斬られたものであるが、僅かに光が付着しており、魔剣の可能性が出てきた
しかし魔剣はカホンには量産型が大量にあり、知名度の高い刀剣も合わせれば100種を超えていた
付着する光は一般的な切れ味向上の効果で、捜査は難航するだろうという報告で締められていた
読み終えた報告書を元の場所に戻してその場を離れる
表通りまで来たディスターは、後ろから尾けられる気配を感じた
急に音が止む
騒がしい人々の声が聞こえない
「お前は魔族だ すなわち私の敵だ」
若い女の声が耳元で囁いた
ザクッ
持っていたりんごが袋が破れ中から転がり出る
バシュ
りんごが綺麗にうさぎ切りにされ地面に落ちる
寸前でディスターが全部穴を塞いだ袋に入れ直す
「こら、食べ物を粗末にするな!そんなに自慢の腕前なら
私の髪の毛を切ってみるがいい」
ディスターは長い髪を解き、挑発した
キィ、という音ともに軋む感覚があるが髪は無傷だ
「あいにく、私の髪は傷んでいてな。逆に相手の髪を切り落とすほどの具合だ」
何もないところから碧色の糸、髪が無数に広がる
「!!」
何か奇声が聞こえ、デイスターは思い切り蹴り上げられる
体を丸め綺麗に回転して、元の位置に戻るディスター
「いけない、りんごは酸素に触れると変色する、急いで酸素を抜いて、」
そういうとディスターの手から黒い球が出る
周りを囲み、全て黒になる
「!?
!!
,、!!!‼︎‼︎!!!」
何か震えてくるが聞こえない
可愛らしいウサギりんごは無事、真空パックの入れ物へ収納し終えた
「返してくれないか、それは私の主のものだ」
虚空に手を伸ばし、指を折り曲げる
碧の髪の毛が見え、体が見え、項垂れる顔が出てきた
苦しげに泡をふき白目なのは気絶しているからか
よく出てこれたとディスターは感心したが、相手は黒目に戻るなり、睨みつけてきた
「生霊とは珍しい」
自然に宿る精霊ではなく、ヒトの思いから成る思念の塊
碧の髪の毛が霧散する
ディスターの周りを漂い、やがて全身を包む
急に縄がディスターの体に巻きつき拘束した
「これで動けまい」
合成音のような声
「手厚い歓迎のところ申し訳ないが、あいにく私はこういった趣向は好まない。別の人にお願いできるかな」
ディスターはにっこりと微笑みながら縄をはらはらと解いていく
キツく縛られていた筈が、するすると落ちる縄
しかし、次の縄はディスターの首に巻かれ、そのまま上へと吊り上げられる
苦しさにもがく、事もなく、縄をつかみ、華麗に飛び降りた
縄は細かく切り刻まれ、地に溶けていく
「貴様、一体何者だ?」
驚きを含む怒りの声は、土から新しく緑の刃を生やし、ディスターめがけて吹き荒れる
「わたしはっ
華麗なる!
ドラキュラ族の雑草魂!!!
雨の日も風邪の日も雪の日もアツゥイ日も!!
無断欠勤なしの勤労魔族!
家族のために身を粉にして働く!
おい聞いているのか、攻撃はここでは止めるものだ
無粋というか礼儀知らずだな」
わざわざ上に飛び上がり、空を指差し自分も主張し
煌めいた粉を振り撒きながら回転ジャンプで着地成功
この動作の間も生霊の攻撃は絶え間なく、ディスターはため息一つで生霊を掴んだ
「はあ、強い強い」
興味なさげに生霊を振り回して、壁にぶつける
透けているはずのそれは、物理的にダメージを受けていきだんだん削れていった
「怨念なんて流行りませんよ,主人の元へ還りなさい」
解放した時には親指ほどしか残っておらず、離した瞬間に消えていった
「顔を拝み忘れましたね、髪で隠れて見えませんでした」
同時刻、どこかの屋敷の一角
部屋いっぱいの赤い模様
壁には赤黒く変色した飛び散った飛沫が付着している
模様の真ん中が、一瞬青い光が火花のように煌めいたかと思うと、煙をあげはじめ部屋が真っ白になった
部屋に飛び込んできた人が見たのは,綺麗に清掃された部屋だった
壁も新築のような戻り具合で、家具までもが新しい
「ぐっ、・・が生意気な・・なんて全部、全部、消し去ってくれる・・」
黒いローブを羽織ったニンゲンは、忌々しそうに部屋を睨みつけ,大きな音を立ててドアを閉めた
模様のあった真ん中には、紙切れが一つ
【貴方の所在は検知しました】
ニンゲンには読めない日本語で書かれてあったが、読まれることはなかった