カナンリの王子
「面倒くさいいいいいい」
ゴードンは山のように積み上げられた書類に四苦八苦していた
兄への手紙供養を見届けた後、当然のようにユネ達のあとを追うべく準備をして、抜け道の井戸から顔を出した所で王自らに捕らえられ、今に至る
ゼルザハとの契約は続行中であるが、他の悪魔も呼べれる為、呼べるだけ呼んでユネの召喚トラブルの原因ガラクを元に戻す方法を調べているが、関係書類に目を通してはや1日
収穫は未だない
「あの、ここにお食事置いておきます」
低級悪魔がおずおずとサンドイッチと紅茶を乗せたワゴンを押してきた
王家の食事にしては簡素だが、書類に埋もれてナイフフォークなど無理
食事の席も簡略化され、デスクでの食事など屈辱だったが、書類はあの竜王絡みもあり、早急を要するものばかりでひしめいている
というかこれ全部お父様の仕事じゃん?
サンドイッチを咀嚼しながら、パン屑を落とさぬよう皿を書類に乗せて食べ、丸い跡がついたが気にしない
とりあえず、一気集中
エルフたちの非協力はかなり痛い
一部の長命の者が持つ知識は、この世界の創生に関する伝承が含まれる
ガラクが呼び出したアレは、雲を呼び嵐を起こし、
街の半分を半壊させる地震を起こし、修復作業にあたる魔導士たちの命を容易く奪い取り・・・
ユネが来た時には平穏がやっと表面上は取り繕えた、
そんな被害を出していた
エルフたちの里も地震により建物が倒壊し、鉱山に甚大な被害を及ぼし、標高が一番高い伏山で火山活動が確認され、・・・
ガラクの姿が変わったおかげで、別人扱いとなり、何もされてはいないが
かなり恨まれている
オリハルコンがないと嘯かれたのもおそらくそこが原因の一つだろう
胸糞悪い報告書をゴミ箱にダンクしてゴードンは窓を開け深呼吸した
「よし、決めた」
薔薇に包まれるように佇む青年
周りには女神や天使や美しいと評される美術品が並べられ、薔薇以外の花も全て満開で咲き誇る
枯れた花は一輪も存在しない、美の庭園
部屋というより某春の花の里のような巨大な庭園
ガラス張りの温室にポツンと豪華な寝台が設置されている
空調は精霊達の尽力で常に26度から27度に保たれており、温室に降り注ぐ紫外線は特殊加工のガラスで遮断されるため、日焼け諸々の心配はない
王家は皆金色の髪を有するが、ゴードンの兄
ロムルス・ビビアン・カナンリは
珍しい赤髪である
特に忌み嫌われるということもなく、個性的として
国外まで容姿は伝わっており、黙っていればかなりの美男子のため彼の肖像画は、飛ぶように売れる
彼の愛する花嫁の想像画は、天使のような悪魔の笑顔でこちらを挑発している刺激的な絵画である
限りなく二次元嫁と言われるものに見えるが、この世界に二次元嫁は存在しない
国王からは外せと言われているが、本人しか入れない
特殊な結界を宮廷魔法師に頼み込んで張ってもらい
うっかり掃除のメイドに見つかるということはない
だが、そのかわりここの部屋の掃除管理は全て彼だけでやらなければならない
召喚した第三者から噂が広まるのを恐れ、話すことのできない低級の精霊すら使うのを拒み、ロムルスは朝から日課のガラスの窓拭きと、吸引魔法での部屋掃除を初めていた
薔薇は散らずに美しさを保っているのは、掃除しなくていいように隣国から招致した魔法師と共同開発して完成させた作品であり、摘み取らない限り、その場で永遠に目を楽しませる
摘んだ薔薇は、故意に潰したり燃やしたりしない限り美しい姿を保ち続ける高級品で、出回れば金貨数百枚にもおよぶ価値がつくが、王子は摘むつもりはないし
誰も立ち入らせないので盗まれる心配もない
「っ、相変わらずねお兄さま」
アイアンクローをきめられた妹は、無表情でドアの外へ捨てようとする兄に囁いた
「当たり前だ。苦心して作り上げた庭園をお前は一度壊滅させているからな。薔薇が全部ガラスのように砕けた時には、魔法師が涙目になっていたのを今でも思い出す」
ロムレスは騒ぎ立てる妹を、騒ぎに気付いてやってきた見回り兵士に引き渡すと、庭園へと戻った