身体は男で心は女 【物理】
ここは何処だ?
最後に覚えているのは入浴剤にユズを選んだことだ。
あ、これ夢だね。
そうだ、きっとそうだ。
じゃあ、目の前に倒れている人は深層心理の私か?
いや様子が少し違う
私の目の前に、刃物を持った男達がいる。
殺意で目がギラギラしており、恐怖で竦む。
服装が洋服でなく、着物のようだからきっと時代劇か。いや、和服が好きな犯罪集団とか
あの雰囲気はロケではない。
こういう時に唐突に自己紹介して回想シーンに入るのが常だが、あいにく自分の立場になると、それどころじゃない。
足は遅い。100メートルを14秒。無理だ
性別は女だが、女性向けゲームの主人公のような可愛いらしさは皆無。
内臓を売られるか、身ぐるみ剥がされ奴隷として売られるか
「おい、始末してもう行くぞ。ここらにも奴らが出るってよ」
私には気がつかない。
馬の鳴き声、走り去る足音、静まる空間。
助かった。安堵の息をついて、深呼吸する
喜んだ矢先、やっと気がついた。
私の手が透けている事に
おっと、
まさかうつ伏せで死んでるのが私?!
いやいやこんな服持ってない。
顔が見れないから確認しようが
ガサガサッ
その時、私のいる場所に何か飛び出してきた。
熊だ。わあ、おおきーい
私には気がつかず
そこのものにかぶりつき、揺さぶった。
顔が見える。
案の定違う青年だ。良かった。
なら私の体はどこにあるのか。
熊が貪る間、腰が抜けたらしく動けない
音を聞かないように耳を塞ぎたいが透けてできなかった。
目はとじれるのに。
なんて考えても仕方ない。
透けた体は物を掴むことができない。夜になっているが空腹も感じない
精神体、霊体、そこにあるもの
お化け属性か。死んだら驚くアレか。しかし、お迎え来ない。
朝が来て、熊も人も居なくなったが私はここにいた。
お化けなら空くらい飛べるだろ、とジャンプしたが10センチしか飛べなかった。
と、すれば。広大な大地、まるで海外の森林公園ばりの道しかない場所。
民家ゼロ 電柱ゼロ
行くぜ、私の新しい冒険、
徒歩で‼︎
疲れないのはありがたい。休みに好きなだけ温泉に浸かっていられる
トイレの心配もいらない。
割り切って、旅行に来たと思う事にした。
さて、やっと回想できる。
確か物凄く大事な用があった。目的を遂げたかどうかはわからないが、何かあった。
家は一戸建てに住み、一人暮らし。
家族は昔住んでいたが、今は独居だ。
現在正月休暇中で、悪魔を呼び出して使役するゲームの周回をしていたが、飽きて、王道ファンタジーゲームをしていた。だが、メモリーカードをコーヒーで亡くし、やる気をなくしてスマホゲームに切り替えた。
病院を、経営するゲームだったと思う。
つまり、プレイしたゲームの世界に転生もしくは転移では無さそうだ。
病院の設定場所はアメリカ、ニューヨーク。
かたやここは、どこだ。さっきの人たち黒髪だったからアジア圏内か、さっきのはロケでここは日本なのか
いや、名も知らぬ男の残骸を見たからリアルだ。
回想が終わる頃、景色は変わっていた。
今はひらけた場所から森の中
途中、狼の群れや野盗が通り過ぎていった。
透けているが、土にめり込む事なく、飛ぶ事なく、
歩いている。
どうしようか。何にもできないから、景色楽しみながら今後を考えるか。
魔法使いとかいるか?
あとは除霊、祓い師とか。
いや、もし成仏させられてそのまま戻れず死んだら元も子もないな。
こういう時、神が現れて何か便宜を図ってくれないのか。オプションにないのか
輪廻転生してここに生まれ変わったとしてもこれじゃあ冒険始まらないよー
森の中は薄暗く、よくわからない声がする。
獣の声にしては人間のような
何か飛んでいる。
羽が舞い、何か引きずる音がする。
しかも後ろから聞こえてきた
だが、どうしようもできない体だ、ほっておこう。
緊急事態だ。
今私は、
大きな生き物の
腹の中だ。
なんでこうなったかというと、後ろから突然体を拘束され、捕まえられることに驚いている間に、丸呑みされた。
咀嚼されたとして、痛みがあったかはわからない
身動きが取れなくなったが、生き物の質感は感じなかった。
そして、暗い場所である。
これは発狂するかもしれない
そもそも私は消化されるのか、すり抜けられないようなので消化待ちか。
いきなり死亡エンドとは世知辛い転生だな。
いや、実は、
お前はすでに
この度はご愁傷様でした
だったのかもしれない。
目を閉じても開けていても暗い
歌でも歌うか。
そう思っていたが、どうやら消化が先のようだ
手が溶けてきている。
痛みはないが、ホラーだ。きっと顔もドロドロなのだろう。
胃液があったかくてお風呂みたいと思っていたが、
激痛などなく、あっさり死ぬなら仕方ない
攻撃もできないこの体では。
しかし、よく私を見つけたな、この生き物。
どんな生き物だったのだろう。見ておけばよかった
状況に頭が対応できず、麻痺しているのだろう。
怖くて仕方ないこの状況を受け入れている自分がいる
眠たくなってきた。
これは夢か。
それなら良かった。
起きたら温泉に出かけよう。
だが、目を覚ましても腹の中だった。
井戸に落とされた女性じゃあるまいし、怨霊なんかになりたくはないぞ。
手は、あった。
昨日は溶けていたが、今日は綺麗に揃っている。
誰か落ちてこないかな、暇だ。
いや、溶けて死ぬのを見るのはエグいな。やはり遠慮しておこ
バシャ
落ちてきた。食料、獣かな?そうだな獣だな
「いやぁああ、出して、出してくれえええっ!!」
声から察するに男性だ。若い男性のようだった
半狂乱で泣き叫ぶ男の傍に、耳を塞げない私がいる
溶けていくのがわかるのか、恐怖で体が震えて声まで震えているのがかわいそうだ。
だが何もできない
「私が何か超人的な力が使えたら助けられるけど、
あいにく単なる幽霊、お化けだからコイツを倒すことも、あなたを抱きしめることもできない。ごめんね
」
だから、大人しく成仏してね
聞こえていないだろうが、話しかける。
不思議なことに、男性は泣き叫ぶのをやめ、こちらに来た
誰もいない空間に手を出して探る
薄暗いなかで、私の顔に手が当たるが、すり抜けた
だが、男性は構わずその場の空間を抱きしめる
聞こえたのか、錯乱しているのか
その人が胃液に沈んでいくのを、私はただ、見届けるしかない。
沈む直前の最後の諦めた吐息は、耳にずっと残った。
起きた時、私はいつのまにか身動きが取れない狭い場所に押し込められていた。
いっそ発狂したかったが、よく寝た。スッキリしてる
睡眠を取るのが疑問だが、ずっと起きているのは苦痛だったから助かった。
外に出たいが、何もできない。
布団の中にいるような圧迫感があるが息苦しいわけでもない
ただ、体が変化してきていた
手が大きくなった気がする
私は女で、髪の毛も切るのが面倒で伸ばしていた
だが、後頭部が、スッキリしている。
また、何か落ちてきた
今度は道具のようだ。
グリップがあるが長細い。
もしや、刃物か。
触って鞘から抜くことができないので、薄暗い中目を凝らすくらいしかない。
そのあと、盾、兜、鎧が落ちて沈んでいく。
最後に落ちてきたのは袋だ。
落ちた衝撃で、袋の紐が緩み中から、暗い中でも光る不思議な石が見えた
やがてそれも沈み、静かになった。
また、眠くなってきた。
さっきの人の死に目を見てしまったから、夢に出てきそうで嫌だが、仕方ないか・・・・。
「起きて下さい、姫様!」
そんなベタな起こし方あるか。
「目を覚まして下さい姫様!」
おーい姫様はどこですか、安眠妨害も大概ですよ
「起きてくだされ姫様、あなたが死んだら誰が我らを助けてくれるのですか!」
知らんがな
私は目を開けた。
生き物の腹の中だと思っていたが、どうやら違う
ベッドで寝ているようだ。
布団が柔らかく、手触りがいい。
このまま二度寝と行きたいが、至近距離で見つめる老人の顔に、それが叶わぬと察した。
「どなたですか?」
私は声を出した。
なんだ、声優になれそうないい声は。
目の前の老人は、口を固く結び、泣きそうになっているし、後ろの方に見える女性は、ボロボロ涙をこぼして震えている。
「あ、い、う、え、おおおっ?!」
間違いない。私の声だ。
男になっている。
酒焼けの声かと思ったが飲んでいないな。
あの生き物の中で、声帯が変質したのか。まいったな
あとは、この人達は誰だ?知り合いにはいない
「私たちのミスで貴方様を幽体に変えてしまい、禍ツ神に喰べられるという最悪の事態まで引き起こし、誠に申し訳ございませんでしたっ!」
土下座をする女性と老いた男性。
「す、すみません。一から説明してください」
胸がざわつくんですけど、ものすごく。
「実は、とある王族の妻に異世界からの女性を娶りたいと命じられまして。私たちは、はい、召喚士でございます。主に、異界に住む神の獣を呼び出しております。」
高まってきたよ嫌な予感。
待って、もしかしてこの人たち
「人を異世界から呼ぶなど、初めてでございまして。
幾度か呼んでも全て死体。やっと呼べた貴方は、
実体を持たぬ体でした。」
「待て待て、私の体は何処にあるというのだ」
「元の世界です。」
うっそ、精神だけ来ちゃった!とかない、ないよ?!
どうするよ、風呂に入ったままだったら。
正月休みだぞ、気温が下がり水になって凍死する
布団でもトイレに行けないから大惨事になる
「早く返せ。もしくは私の体を持って来て、今すぐ、
秒で、は、や、く。」
「それが、そのお、
何処の軸と接触して呼び出したか、忘れちゃってえ。」
クネクネする女。
金髪碧眼しかも胸が大きい美人だが、今は腹立つだけ
冷や汗ダラダラの老人は、髭も髪も真っ白のまるでサンタのような風貌だ。
2人とも白を基調としたローブを着ている
「調べて返して」
「えっとお、数日かかるんでえ、まっ「うおい、
私の体はその前に死ぬわ。妻に呼んだと言ったが。
・・・さっきから喋る声が違うんだけど、鏡ある?」
老人は難色を示したが、眼圧で引き下がり目の前に立ち見の鏡を持ってきた
見たことない男がそこにいた。
真っ黒な髪は私もそうだが、メッシュというか、1箇所金髪が混じってるのはファッションか?
座高が高そうだ。手もでかい。
元の私は砲丸投げの玉が掴めないくらい手が小さかった
呆けていたいが、体の安否がある。
「説明を」
老人は女性を小突くと、ため息ののち深呼吸をして、
これまでの事情を話した
ここはルオヤン カナンリ国の主要都市だ。
国王はここに住んでおり、今回妻に先立たれた王子が
新しい妻を娶らないため、趣向を変えてみたと。
趣向ですむか。ふざけないでほしい。
地図を見せてもらったが、字体が初めてみる模様だったが、すんなり頭に入ってきた
召喚時に、こちらの知識をラーニングさせるらしい
だが、何度やっても皆頭が焼き切れて死ぬそうだ
死体で召喚でなく、呼び出す間に死ぬのか。
「私を呼んで何日たった?」
「3日です」
手遅れか、私の体。
変死体として警察が入り、鑑識がそこかしこに
ベッドの下にあるアレとかそれとか恥ずかしい過去が晒されるなんて・・
「何がなんでも接続して、私の体を確認して。」
老人の肩をガッチリ掴み、目から危険な光を出して私は要求する。
女性は、ドアの方へ移動していたので、枕をぶん投げて阻止した。
老人が青筋を立てながら女性を叱り付ける
「あ、あのう、禍ツ神からどうやって助けたか知りたくないですか?!ありえない方法で助けたんですよ!
知りたいでしょ?!ねっ!?」
馴れ馴れしい態度にイラッとしたが、私は平静を装ってどうだったか尋ねた
だが顔に出たらしく、老人は真っ青だった
禍ツ神
蛇の姿をしているが、翼が生えており繁殖時には飛行できる
神ではなく、所謂モンスターの類に入るが、あまりにも反則的な強さで討伐隊を返り討ちにするため、
近隣の方々から畏怖を込めてそう呼ばれるようになったそうだ。
今回、召喚された私だったが実体がない事に気づき、
本体を呼び寄せるべく更に術を重ねた
しかし、何かの干渉により私は遠く召喚場所から離れた所に飛ばされて、禍ツ神に見つかり捕食された。
奴らは雑食で、精霊や悪魔なども食べるらしく霊体の自分も感知され喰われてしまった。
召喚士からの依頼で救援に来た勇者御一行が、勇者が食われ、仲間も全員死亡
老人の方が、寿命を代価に神獣の上位を呼び出し私を助け出してくれた。
老人の方は本来若い男性だったが、差し出した寿命分歳をとってしまったと。
「申し遅れました。私は召喚士ガラク、此方は」
「ゴードンです!宜しくお願いします!姫!」
女の子のネーミングが厳つい。
「事情はわかりました。で、なぜ姫呼びなのか、
そしてこの体はなんなんですか」
「姫呼びなのは、王族の妻として迎え入れるため、貴方を王族に加える決定がなされたからで、その体は、
」
ガラクが渋い顔でその先を言い渋る。
早よいえ。
「神獣に、倒してもらったんですけどー、実はー、
禍ツ神に倒された勇者が、魔王を倒すためにぃ、神から啓示を受けていた、伝説の勇者だったんですぅ、
それで、この世界の人類が滅ぶ事が決まりそうになりましてー、急遽、体のない貴方を、仮の体に入れて、勇者にしよう!って神獣が。」
は、
はあーーーーーー?!!!!!!!
「待て待て!人妻になる予定が、何で勇者?!
どっちも嫌だが、ロマンス待ってそうな展開超えて
なぜに、魔王討伐?!無理無理無理!!
筋肉なし、運動神経なし、不器用な私には、
不可能なお仕事です。
体を返して家に帰してもらおう」
「残念ながら、帰る事は当分無理です。召喚時に使う石が、度重なる戦により高騰しており買えません」
通常の料金の10倍で売られており、予算が出ない
予算ってなんだ、国直営じゃないのか
「実は、迎えの費用は出るんですが、帰すつもりがないので帰りの予算はないんで」
ガッ
ガラクの肩をまた掴む。
「あいわかった。帰還は延期だ。で、私の体の安否確認を、神獣を使ってでもしてもらおう」
禍ツ神を倒した奴を呼ぶと、ガラクさんが死ぬため、
一つ下の神獣を魔力で呼び出す。
召喚の光が消えると、竜が現れた。
「バハ、いやなんでもない。でかいな」
さすがに室内で呼ぶと宿屋が壊れると、誰もいない
街の外までわざわざ出て、呼んだ。
「そこにおるのは先の娘か、ふむ、どうやらうまく体に入れたようだな」
「すみません、質問いいですかー」
私は男の声を張り上げ、バ、いや竜に聞いた。
了承をえた後、私の本体の安否と現状、保証期間の有無、食われた勇者というのは目の前で溶けていった彼なのか、今の見た目はまさか死んだ勇者なのかを聞いた。
「まずお主の体だが、私は異世界を繋ぐチカラを持っておらんから、知り合いに今聞いておる、しばし待て
あとは、食われたのは勇者で間違いない。伝説になる予定だったが、禍ツ神が一枚上手だった。
それより此方が強かった。それだけだ。
そして、お主の体だが、勇者のものではない。
神獣全員がカッコいいと思うキャラにしてみた。
勿論力も付与してある。
あとは精霊や、運が良ければ神と遭遇して、力を分けてもらうといい。 」
アバターを勝手に作られたという事か、うん。
仕方ないね、異世界だものね。
などと納得できるか!
「待ってください、私は女です。男では勝手が違いますし、身体的に困るので女に変更してください」
「それはできん。付与に神獣全員が参加してな。魔王に対抗できる力にまで高めてある。勿論、道中苦労せんよう、ヒトに好かれる呪いもかけてある。
金運アップのアイテムが体に埋めこんであるから旅費には困らん。体の違いくらい気にするな」
「嫌です!ていうかそこが問題でしょうが!何年も付き合った体から、ご新規の体なんぞ使えるか!
性別だけは絶対元に戻してくれ!」
「あ、すまぬ。キャッチが入ったから一旦帰るな、
ではな」
光の粒となり消える竜。
「待たんかぁぁぁぁあっ!!」
絶叫だけが響き渡る。
「仕方ない、神獣全部殺して回るしか「お待ちください、性別を変えるだけならなんとかなります、」
ゴードンが手を上げて声を張る
「悪魔に頼んで、変えてもらうんです。彼らの外法なら、神獣のアバターにも干渉できますよ、多分」
多分が気になるが、それしかないなら
「えっ、神獣が作った?本当に?えっ、本当だ。
待ってくれ、私では手に負えん、上を呼んでくる」
そう言うと、下位の悪魔が消え、順に上の悪魔が出てくる。
最後に出てきたのは人型の悪魔で、ものすごく申し訳なさそうにお辞儀をした。
「貴方にかけられている神獣全員の力をどうにかするには、幹部クラスの力が必要です。しかし、彼らは実力主義、勝たないと力を貸してはくれません。
貴方の好きな方法で構いません、どうか勝負に勝ってもらい、交渉してもらえますか」
そう言って膝を折る
後ろから、大型の悪魔が、王様のような姿で歩いてきた
ここまで思うのは、ゴードンは神獣ではなく悪魔召喚する悪魔っ子なのね、という感想だけである。
「おまえが、我のエサか。勝負に勝てば叶えてやるが
負ければおまえ丸かじるぞ」
「ゴードン、かわりに、
いない!!!」
大物呼べる召喚士ならば、さぞお強いんでしょうというセリフは言えなかった。
金髪巨乳は遙か遠くから手を振っている。
ガラクさんは、私の傍から動いていない。
「さすが上司は違いますね」
しかし、ガラクさんは苦笑している。
「・・・申し訳ありません、彼女が上司です」
後輩からの苦言にもびくともしない、厚顔なんです
と、哀しそうな顔をして空を見上げている
何もいえない。
「勝負はなんだ?!」
いたたまれない悪魔が叫ぶ。
「ガラクさんと私、貴方ともう1人の2人ずつ計4人勝負。どちらかが最後まで一枚だけのカードを持っていたら負け」
盤上の勝負もあったが、それを知らないと一から教える羽目になる。
シンプルなルールを説明し、どこからかテーブルを出し、野原でトランプが始まった。
途中、ガラクがジョーカーを引き当ててしまうが、それを次の番の私が引き寄せ、ポーカーフェイスで悪魔に引かせる
露骨に落胆する悪魔。顔に出すぎている。
下の悪魔が慌てているが、彼とガラクは上がり、
タイマン勝負となっている
カードの内側を見て教えるなどという蛮行はさすがにやらないらしく、上がった2人は別の場所から応援している。
「貴様、我に勝てるとでも思っているのか」
「そうですね、剣の勝負や魔法とかなら即負けしますが、これは得意なんで。」
そう言うと、ジョーカーを揃えて出した。
「ババは、そのカードです。ご愁傷様でした。」
悪魔の手からひらりと落ちるハートのエース。
「ふざけるな!ジョーカーを最後まで残したものが負けだろう!なぜ二枚もある!」
「ジョーカーの説明はしましたが、今回は一枚だけのカードを持っていた者が敗者というルール、つまりジョーカーだとは言ってません。」
じじ抜きと呼んでいたが、全国的にどうかは知らない
ジョーカーの説明をする時、たしかに印象つけるような発言はしたが、裏返しを一枚選んでテーブルの真ん中に置いたのは王様のような悪魔だ。
そういえばそうだった!と頭を抱える
この悪魔で大丈夫なのか、不安。
下の悪魔も不安そうだ。大丈夫ではないな。
「仕方なし、願いを叶えてやろう」
「ありがとうございます。では上の方と交代してください」
そう言われた悪魔は、悲しそうに去っていった
「女にしてほしいと?」
最後に出てきた女性の悪魔は、気品のある綺麗なお姉さんだった。
青いマーメイドドレスがよく似合う。
「それは性的な意味で「性別を変えてくださいという意味で、断じてこの体に性的な事をしろといっているわけ「わかっておる、冗談だ、そんなにムキにならなくても良い。代償はおまえの仲間になる、でいいぞ」
そう言うと、女の悪魔は私の体に不思議な粉をかけ、
なにやら唱える
下半身が恐ろしく痛い。
痛みを堪え光が収まる頃、悪魔が鏡を作り見せてくれた
そこには私ではない女が立っていた。
「・・お主の本当の顔を知らんからな、その顔に合わせて私が作った。どうだ、可愛いだろう。」
またか、またアバターおまかせか。
たしかに憧れの巨乳、憧れのくびれ、ここに女性の憧れが詰まってはいる。
髪の色は男の時と逆で髪に黒のメッシュが入る
正確には金髪というか、白に近い金色。
まつ毛も眉毛も金色だ。
明るすぎて目眩起こしそうだ。
「おめでとうございます、これで王子様の妻、つまり妃になれますね!」
はしゃぐいつのまにかいるゴードン
あ、それもあった。
よく考えたらこれはまずいな。
「悪魔、貴方の名前は」
「ゼルザハだ。宜しくな、名前はなんだ?」
「私は、ミクニだ。何故代償が付き添いなのか聞いてもいいか」
「勿論。その体だ。神獣が結束するなぞまず無い。
その奇跡は貴重だぞ。狙われる間違いなく」
悪魔は暇なんだ、黒魔法は全て使える、連れてってくれと言われ即OKした。
ゴードンが早速王城へという言葉はスルーしている
「平常時は女、仕事中は男という棲み分けにした。だから両方と付き合うが、男は戦闘時だけだ。
下半身の心配はゼロだ、安心しろ」
何かあっても処理してやろう、とウインクされても不安だけしかないのだが。
(よし、まず妻は断ろう。神獣の力で勇者に選ばれた男が召喚されたというテイで。)
こんな私では王宮暮らしは明らかに品性が足りないから無理
リズム感も皆無、反復横跳びならできるが
下手に断ると、ガラクたちが処刑されるだろうと思い、一旦、ゼルザハや自分の衣服一式を買いに出かけた。
ゼルザハから道中、変身する方法を教えてもらった。
頭の中で念じるだけで、パッと変わるのが面白く、
何度も変わってはしゃぐ。
勿論、フードを被り馬車内で変身するため人目にはつかない。
ゴードンは爆睡し、ガラクは馬車で忙しいが、此方を見て心配そうだ。
ゼルザハは、お母さんみたいな笑顔で見守っている
一応、私は成人しているんだが、
悪魔は高齢者、いや長寿が多いから私なんて赤子なんだろう。
企みがあるかもしれないが、女としてトイレに行けるだけありがたい。
身体の安否が最優先だけど・・・
男の姿に変わり、慣れない鎧に関節部分を動かしにくく、城に着くまで四苦八苦した。
王宮はやはり城だった。
予想とは違い、近代的な城だったが。
ゴードンとガラクが、先に入り、何やら話していたが、慌てて門番が入って行き、騎士団的な輩たちに囲まれて王宮へ入った。
筋肉度が高い。気温が上昇して暑い。
そして剣を買い忘れ絶賛素手である。
筋肉の輩達の刃物所持に緊張したが、傍のゼルザハが手を繋いでニッコリ微笑んで癒された。
はーっ心強い。
先に召喚士達が中に入り、後に続く。
「お主が亡き勇者の跡を継ぐ者か」
通された先にいたのはこの国の王だった
服装は音楽家のような格好でマントやローブは着ていないし、王冠も被っていない
周りの輩は、甲冑を着込んで顔が見えない。
フーフー言ってるからやっぱり暑いんだよあの鎧。
王はガラクの風貌に驚き駆け寄る。
「ガラクよ、なんという姿だ。どうしたというのだ」
「申し訳ございませぬ、実は」
「何だと、そのような事態になるとは、
だが、どうしても、我が息子の代で絶やすわけにはいかぬのだ。お主、名は何という」
「やっと自己紹「この子の名前はユネ・クリンバスです。もう、ユネったらちゃんとなさい。私はゼルザです。お見知りおきを、国王様。」
いや、私の名前は
「真名は隠しておけ。国王が善であっても周りはそうと限らない。」
小声でゼルザハが呟いた。
「カッコいい事言うなぁ、年の功は違うなぁ」
「年より扱いしないでくれるかの?」
ゼルザハの顔が近い。笑顔だが圧がある
口に出してた
「そんなに綺麗な顔を近づけないで、恥ずかしいわ」
悪魔のプレッシャーに全く怯まず、ユネと改名させられた私は、ゼルザハの鼻に鼻をくっつけた
猫がやる鼻チューだ。
「なっ!!!」
ゴードンが驚く。
ガラクは固まり、国王は女の子同士だからノーカンだと涼しい顔。
いや、今見た目男です。
ゼルザハは、驚いた後、顔を真っ赤にしてモニョモニョ言い籠る
だが、周りの鎧は微動だにしない。
事もない、ボソボソ何か言ってる。
「まあ良い、王子の事は後だ。今は勇者が死んだと言う事実を隠さねばならん。幸い、あの勇者は天啓を受けて極秘裏に育てておった。
孤児院育ちで知り合いは全て魔物に殺され身内はいない。誰も気にはせんだろう。」
寂しい生い立ちの勇者だな、これからだっていうのに
「さて、其方には勇者として成り代わってもらうわけだが」
了承してませんが。
「勇者の持っていた伝説の装備が何処を探しても見当たらないのだが、何か知っておるか?他にも世界に百個とない幻のオリハルコンも渡してあったのだが」
禍ツ神の中に入ってきた装備品なら全部溶けてったが
いや、どんな胃液なんだ
そしてそれを倒した神獣ってどんな奴なのか
「恐れながら、食われた際に全て装備品も」
「なんと?!禍ツ神は装備を剥がして食べておったのだが、随分と大食いの者であったか」
「そうか、あれは精霊から貰った貴重な品、買い換える事なく成長する代物だったのだが、仕方ない。
ユネよ、其方に与える装備は、この国1の防御と攻撃を備えた物だ。」
与えられた装備は、鉄の鎧と鉄のカブト、鉄の盾は重いから使わない。そして鉄の剣。
「この国での鍛治職人の腕では、オリハルコンなど特殊な素材の鉱石を加工する事はできない。
だからこそ、我が国が所有する貴重なオリハルコンを持たせて、他国で強化させようと思ったところだ。
仕方あるまい、まずは最難関の森の民の国で、
再度オリハルコンを採取してきてもらう。
ガラク、ゴードン、其方たちも同行せよ」
「はっ。仰せのままに」
「ええぇ?私は遠慮します、そこの子を呼んだせいで魔力すっからかんなのでお役に立てません。
ガラクは元気だよね!宜しくね!」
「待て!ゴードン、こりゃ待たぬか!全く!
我が娘ながら情けないのう」
「ガラク、残念な上にまさかの王女様なのあの子」
「そうなんです、取り柄が召喚だからってコネで役職についておりまして、本当に大変なんですよ」
またもや勝手に外に出て行こうとしている。
なんてこった
ゼルザハの顔を見る。
頷き、指を鳴らす仕草をする。
鈍い大きい音がした。
音の方向はゴードンだ。
見れば頭に枕が直撃、お尻丸出しで突っ伏している。
「ゴードン、休憩が終わったら準備に入るからね、
女の子は腰を冷やしちゃダメだよ」
ゼルザハに出してもらった毛布をかける
可愛い猫の模様だ。
そのまま毛布で包み、捕 保護した。
「それで王様、確認したいことが一つ。今、最難関と聞こえましたが?」
「ああ。確かに言ったぞ。森の民の代表といえば、
いつまでも若々しいエルフと相場が決まっておる。
そして、奴らはとにかく頑固で、人族を下に見ておる
協力などではなく、こちらが下手に出ぬと全く相手にせんからな。ワシは胃に穴が開いてからは、ノータッチじゃ。」
バケツいっぱい吐血したんじゃぞ?と語る様子に、いきなり詰みを予感する。
「頼んだぞ!勇者ユネ!成功した暁には、息子と婚約「それは結構です。王族の方は由緒正しい貴族からお選びください。下衆には荷が重すぎます」そんな事言うでない。」
今、男の姿なのだが、全て報告済みだ。
しかし、王様と召喚士だけの秘密であるため、今後も城は男で出入りする。
お金はたんまりもらえた。
通貨の事はよくわからないので、ガラクに任せた。
ゴードンはすぐお菓子を買ってしまうらしく、いまだにお小遣い制なんだとか。
森の民の国は勿論森だが、国境に崖があり、そこを渡るにはエルフの了承を得なければ橋をかけてもらえない
城から崖までは馬車で数時間で行ける距離
というわけで馬車を貰い、ガラクとゴードンの二交代で操縦、いや運転?している。
まだキャッチでいなくなった竜は連絡をよこさない
忘れたわけではないだろうが、これが落ち着いたらガラクさんにお願いしよう。
ちなみに城下町ではアイテムを買ってもらった。
ポーション、現物を見るのは初めてでテンションが上がったが、ガラス瓶のものは高級品で、一般は美味い麩菓子だった。
口がパサパサしてくるから、必ず水筒が必要になる。
他にも魔力を回復させる豆の粉の餅、素早さを上げるラムネ、ボールクジで大人向けの装備が手に入るなど
状態異常回復アイテムは、別店舗の漢方薬局で、全部苦い
一苦いから十苦いまで段階があり、十は全回復も兼ねているが、苦すぎて飲み込めないのでまず売れない
今回は王様からの特別な計らいで、高級ポーションを
20本貰った。状態異常回復アイテムも漢方ではなく、
他国のチュアブルタイプで口に入れるとスッと溶ける
ところで、だ。剣を買う暇が無かった。
ガラクさんが財布をしまう時に気づいたが言い出せなかった。
絶賛手ぶらだ、どうしよう。神獣からの贈り物も全くわからない
そんな時だった。
「ユネ殿、魔物です」
ガラクさんが馬車を止め、路肩にたむろう魔物を指差した
そこには小さな軟体動物達が、赤い体を震わせていた。どうやら威嚇しているようで、ゼルザハが教えてくれた
「あのくらいなら素手で倒せます、頑張ってください」
とガラクさんに言われ、恐る恐る対峙する
ぷるんっと、跳ねて飛びかかってきた。
思わずキャッチし、グイッと潰す
ビシャアアアッ
なんとも言えない臭いがあたりに立ち込める。
次々に飛びかかってきたが、全部順番に掴んで潰す
終わる頃には、生臭い臭いが鎧についた。
「くっさい!勇者様、くっさい!うえ、うええええ」
ゴードンがキャアキャア騒ぐのを、ゼルザハが鼻栓をして黙らせる
「ようやった、ユネ。さすが私の勇者よ」
ゼルザハがタオルを出して拭いてくれる。とは言え臭いは取れていないので、お湯か、水で洗い流したいが
生憎こちらに村はなく、臭いまま崖に到着した
向こうに見えるのは関所のような造りの建物と、警備する兵らしきエルフ。すぐこちらに気がつく
飛び越えられそうな至近距離だが、壁が張ってあるらしく、飛んでも壁にぶつかり奈落の底だという。
ガラクに、水の属性の召喚獣で洗い流してもらえばよかったと思ったのは、エルフの門番を呼んだ後だった
案の定、風下の彼らにすごく嫌な顔をされ、出てきた守備隊長らしき人物に鼻で笑われた。
「ほう、カナンリの田舎から遥々来たと?どうやら田舎者は常識はずれらしい。そのような臭いの酷いものを森に通すか、出直してこい」
確かにそうだと納得した私は、風呂に入って出直すよ!と言おうとした。
ゼルザハが、上空に魔法の球をものすごい数呼び出して攻撃態勢に入っており、ガラクがそれを止めるべく
キャッチの竜を呼んで、ゴードンがまたいない。
馬車の荷物が揺れているが、あそこか。
「な、な、んのつもりだ!!!」
うろたえるエルフ達
「なんのつもり?私の大事な勇者を馬鹿にされては黙っておれぬ。お前たちを塵に返してやろう」
ゼルザハは、魔法の球を合体させていき、かなり大きくなった。
「待ってくれゼルザハ殿!そんな事をしたらオリハルコンが手に入らず、国交も断絶する。
頼む、抑えてくれ!」
ガラクさんが叫ぶ。
召喚された竜は、ゼルザハを見て嫌な顔をしている
「まさかお前が出ているとはな。
本気で戦えばここら一帯は焦土となり、数百年は暮らせぬが・・まあいいか、エルフなら死なんだろ」
竜のフワッとした考えが怖い。
焦土で数百年暮らせなくなるとか、放射能汚染よりも酷いのダメダメ!
カナンリにも影響あるぞ絶対。
「ゼルザハ、やめろ!」
とりあえず、攻撃をやめさせなければ。
だが、言って聞く状態ではない。
とすれば、お約束を行使するのが1番いいが、
同性としてどうかと思い気が引ける
そうこう迷う内、門に球の魔力が漏れて引火、火事になる
消火が素早く行われたが、ゼルザハの持つ魔力の球が落ちれば、一気に森が大火事になる、てか消滅だ
「ええーい、ままよぉっ!」
まさかこの台詞を本当に言う日が来ようとは。
むにょん。
「ひっ?!」
豊かなバストをWASIDUKAMI
あれ、zuだっけ?
しかしでかいな、ナンカップあるんだ、一般で売ってるブラのカップじゃないな、通販で買わないといけないサイズだな。しかも硬いんじゃなく柔らかい
むにむにむにむににむにむに
しかし重いな、この重さ、ボールに例えたらなんだろう。ラグビーボールは持った事ないから知らないとして、バレーボールよりは大きく、バスケットボールよりも重いんじゃないのか、いや待てよ、西瓜に例えた方がいいのか、メロンの方がいいのか
こんなに大きくなるには何食べればいいのか
あれか遺伝ってやつか、進化の過程で何をすればこうなれるのか、月か太陽の石でも食べればいいのか、
いやいや、それしてもほん
「う、うううう、うっ、や、やめてくれ、わたひ、
そんな、そ、そんなに激しくさ、わかった、やめるから、や、やめええええっ」
目を瞑り、集中して揉むユネに、ゼルザハの声は届かず、半泣きになった彼女を見かねて竜が止める
「おい!やめてやれ!悪魔が号泣する秒前だぞ」
「え??ごめんごめん、例えたら何か考えてた。伝助スイカかなぁ。いや、もっと、こう」
ワキワキとありえない高速で動く手に、ゼルザハは悲鳴を漏らし胸を隠した。
「ごめん、もう少し触らせて、あと少しで掴めそうなんだよ」
「もう、無理、やめてユネっ」
息絶え絶えのゼルザハが、顔を赤らめて蹲る
「そこまでですっ!!」
遮る気の強そうな声
大声に皆の視線が集まる
ユネも手を止め視線を向けた。安堵するゼルザハとガラク。
そこには、ボヤを消火して疲れ果てたエルフの門番と、明らかに貴族のような佇まいのエルフが仁王立ちしていた。
「何の騒ぎかと駆けつけてみれば、なんですかこれは!何故人間と悪魔が共にいるのですか?!
そして、そこの竜は銀竜ではありませんか。何故人間などと共にいるのですか!」
若い女のエルフだ。
青色の服に、弓矢。長い耳にピアス、胸は、発展途上だろうか。
「はじめまして、私はユネと申します、こっちの巨乳のお姉さんはゼルザハ、頼れるガラクさんです。
あとどっかにゴードンという助手が隠れています」
自己紹介をとりあえず差し込んだ。
そんなのどうでもいい的な顔をされたが、無視
「貴方様のお名前、お伺いしても宜しくって?」
今、男だということを忘れて、可愛いし草で尋ねてしまった。場を和ませようとしたのだが、空気が冷えた
「、そうですか、カナンリ国王からの。分かりました。こちらの無礼を謝罪します、どうぞ中へお入りください」
名前は名乗らずエルフの女性は橋をかけてくれた
何か呟いていたが聞こえない
「あれはエルフ語と言って、人には聞き取りにくい
なまりのひどい方言なんです」
「な、なまり」
ガラクさんの説明はわかりやすいが、方言ってどうか
いや古代語とかロマンのある言い方の方が
「ちなみにドワーフは喧嘩してるようにしか聞こえない訛りで、度々ケンカと間違われて通報されます」
へ、へええ。
橋を渡り、森へと足を踏み入れる
前に、関所の風呂へ案内された。
銭湯くらいの広さの浴室と、広い浴槽。
特別な薬草の内湯と、魔法で沸かしたお湯のシャワーがあり、シャンプー、コンディショナー、ボディーソープまで完備されていた。
エルフの国に風呂の概念を持ちこんだ人間のおかげらしい。日本人じゃないのか、その人
女の姿に変わり、身体を洗い、浴槽に浸かる
丁度いいお湯加減に、疲れが吹き飛ぶ
「風呂か、水浴びで済ませるエルフが随分文化的になったものだ」
ゼルザハが、バスタオルを巻いて入っている。
しかも女同士なのに距離を取って。
「どうしたのゼルザハ、裸見られるの恥ずかしいの?」
「さ、さ、さっき、胸を揉みしだいたろう?あんな事をされたのはじめてだ。」
ゼルザハ独身なの、と聞くのはやめた。彼氏いない歴何千年とか言われたら、慰めようがない
「スプラーーーーーシュッ!!」
ゴードンがかけ湯も体も洗わず浴槽に飛び込もうとしたので、手桶をぶつけてたっぷりかけ湯をし、洗い場に引きずっていった。
女の力では無理なので男に変身して。
勿論タオルは巻いているが、ゴードンが変態とか異常者とか叫ぶので、女に戻り、ゴードンの胸も確認する
もにもにもにもにもにもにもに
「ひ、ひやぁあん!」
こちらはしっかり弾力のある張りのある胸だ。
大きさは程よい感じ、巨乳ではあるが、ゼルザハの方が大きくこちらは一般的な巨乳だ。このサイズまでならしまむらにある。
「やめへえ、やめへくははいいいい」
容赦なく揉むユネに、ゴードンが抗議の声を上げるが
吟味中のユネはまたもや集中していて聞く耳持たない
「ぜ、ゼルザハ、助けてよっ」
「え?嫌だ。私まで揉まれたら、今度こそどうにかなってしまう。自分で解決してくれ」
胸を押さえ、ソッポを向く
「ご、ごめんなさい、逃げずに戦いまふからぁ、やめれ、やめええええっ!!」
ゴードンがビクビク痙攣しているのに気がつき、ようゆく手を離す
「あ、あはぁ、ひい、」
「ごめんごめん、集中してた。」
ピンと弾くと、ゴードンの体がのけぞる。
そのままクタっと動かなくなった。
仕方なくバスタオルをかぶせ、脱衣室のベンチに寝かせておいた
「わ、わ、私、そろそろ出ようかの。あとでっ」
ゼルザハが上がろうとしたのを引き止める
「ちょっと話があるから待って」
この国に入る前、竜が教えてくれた情報についてだ
「おまえの身体は無事だ。どうやらこの国以外にも異世界から召喚した者を使役したい輩がおるらしい。
魔王城で氷漬けにされて展示されておる」
「いや、凍ったら細胞死ぬ」
「そこはほれ、冬眠するだけとか都合の良い魔法で」
だからなんでそんな適当な説明なのか
竜はまた面倒くさくなってきたようだ。
アッ?!と言ったかと思うと次の瞬間消えていた
「ガラクさん、神獣の御加護が何か聞いてます?」
「いや、その辺全く説明無かったですね」
あんの竜、もう少し情報寄越せ
今はレベルが低いから返り討ちだろうが、いつか顎で使える日が来たらどついてやる。
「おまえの体は魔王城にあるといってたなあの蜥蜴。
私は悪魔の上位であるが魔王たち魔族とは異なる。
あちらはダークエルフ、ヴァンパイア、ゴブリン、オーク、シャドー、フニフニなどだな」
うわぁ、それらしい種族盛り沢、
「フニフニってどういう生き物だ」
「さっきの軟体動物や、小動物に寄生して魔物化させるアメーバだ。軟体動物は、腐った死体を素体にしているから、臭い」
「ぎゃあああ!!!」
勢いよく浴槽から出て、洗い場へ向かい、もう一度念入りに身体を洗う。
もう、プルプルしてて可愛いとかもう思わない。
ゴードンが気がついて戻ってきた
洗い場に座り、その後ゼルザハの所まで来て申し訳なさそうに
「城で洗ってもらっていたから、やり方がわからないの。」
城では侍女たちに浴槽の中で洗われ、かけ湯をして別の浴槽に浸かり終わりだったらしく、まずは何処から洗うのかもわからない、といつもより小さな声音で話した。
「そうか、ならば私が教えてやろう、こっちに来い」
手を引かれ、洗い場で姉妹のように仲良く洗う2人
「あー、スライムは今後要注意だわー」
2人を気にせずユネは薬湯を満喫した。
「長すぎる。」
エルフの女性はイライラしていた。
周りの男性のエルフ達は、緊張した面持ちで見守る
臭い人間を入れるわけにはいかず、風呂へ行かせたが、2時間経っても出てこない。
ガラクも男性用の風呂へ行っていたが、さっさと出てきて、関所に貯蔵されている森の民の書物を読んでいる。
エルフ語は文字にも現れており、汚すぎて他種族には読めないのだが、ここの書物には誰かがルビをふってくれてあり、人にも読める仕様だった。
「貴方のお連れの方、いつまでお風呂に入るつもりかしら?」
「そうですねえ、私の上司のゴードンはお風呂は1日3時間と国王から聞いた事があります
美肌効果のある薬液を使いマッサージや、髪の毛のトリートメントなどでさらに2時間だそうです」
仕事は1時間しかしてくれませんよ、と乾いた声で笑う
ガラクに、哀愁が漂う
「、人間は老いるのが必定なのに、若さに固執するなど無駄なことをしたがるのですね」
「まあ、若いままを保つ貴方たちにはわからないでし ょうね。」
ガラクは若い青年だ。だが、今回の一件で一気に半世紀分歳をとってしまった。
対価として差し出したことに後悔はないが、両親より老けてしまった事をまだ伝えていない。
孫の顔を楽しみにしている2人に、自分の老化した姿をみせたら、たぶんショック死してしまう
召喚士の証である特殊な形のプレートを懐から出す
「貴方は召喚士ですか」
「ええ。よくおわかりになりましたね、神獣と契約し召喚する、就職希望最下位の召喚士ですよ」
エルフの女性は申し訳なさそうな顔をして、咳払いを一つすると、ガラクに向き直り、
「私の名前は、ダノンといいます。」
「ご丁寧にどうも。私はガラクと申します」
自己紹介した。
「ダノン様が、名前を?」
「彼は著名な人間なのか?」
周りのエルフがどよめく中、ダノンはガラクの手を取り微笑む
「あれは、ガラクさんに春が来たという?」
長い入浴時間を終えた女性陣が戻ってきたら、あのエルフとガラクが手を取っている場面に遭遇した。
「たぶん、頑張れと励ましているのだろう。コイツは使えなさそうだからな」
ゼルザハが、初めて一人で身体を洗ってテンションの上がっているゴードンを突く
「何?アレっ?!ガラクー、彼女が出来たのぉーっ?!」
明るく気さくにズケズケと、ゴードンが遠慮なく立ち入って行く
見る見る間にダノンの顔が険しくなる。
ガラクは苦笑い。
「丁度いいわ。私の名前はダノン。貴方たちのお名前を聞いておきます。急にいなくなっても名前がわからなければ探せませんし。」
怒る事なく、ダノンはゴードンをスルーして、こちらに自己紹介を促してきた
「では、私はユネ、ユネえーっと」
「この子はユネ・クリンバスです。名前、覚えなさい?私はゼルザハです。」
「さっき自己紹介してたんじゃないの?忘れんぼうさんなのね、ダノンちゃん」
ゴードン、姫の言動じゃないね やめなさい
ダノンは、青筋を浮かべつつ冷静に何かを出した
名札のようだ。
「フルネームをここに刻み、森の民の一員であると証明するための作業です。ゼルザハ、ガラク、ゴードン。フルネームを教えてもらえますか」
「ふうむ、まずはゴードン行け」
ゼルザハはまずそうな顔をして手を振る
「はあい。ゴードン・ハン・カナンリです」
「ガラク・サナゲです」
「私はゼルザハ・・ダノンよ耳を貸せ」
ゼルザハだけはダノンに耳打ちして名前を名乗る
「貴方、そう、それであんな魔力を、わかりました。
失礼をお詫び致します」
ダノンは全員に名札を渡して行ったが、ゼルザハにはフルネーム無しのプレートを渡した
「ではこちらへ。まずは森の民を統べる女王にあっていただきます。交渉が成功するかどうかは女王の御心次第。くれぐれも無礼なきよう、お願いしますよ」
ダノンは、ゴードンを睨みながら話す。
一応、王女だから言葉使いもいざとなれば大丈夫な筈だ
「ゴードン、一言も喋らないでください。これは王からの勅命です」
あー、やはりダメか。
「うん、任せて、なーんにも喋らないからハアト」
あかん、あかん気しかしない。
「ところで、ユネ、何故男のあなたがそこから出てくるのですか?」
ダノンはユネの方を向く。
今、一応勇者として男になっている
そして、女湯から出てきた。
ガラクがあっと声を上げて俯く
だが、ユネは堂々と胸を張る
「体は男でも、心は女ですからっ!」
可愛いポーズをとる。
そこで何故、なんとも言えない空気になるのか
エルフの男達の憐みの眼差しと、ダノンの目が丸くなった後、冷静さを取り戻し、目を伏せた後
「そうか、頑張れ」
と言ったきり追求されなかった。
女王のいる城まで、森を象った広い廊下を歩いていく
崖から見る限り森だったが、中に入ってみれば建物が並んでおり、森に見せているのは魔法だそうだ。
というか建物が多く、緑がない。
外に見えるのはエルフや妖精が楽しげに話したり遊興に浸っている姿だ。
歓楽街の雰囲気をかもしだしており、厳粛なエルフのイメージと程遠い
城に着く。手入れされた花壇の花のアーチを潜り抜け、白銀の扉を開ける。
ホールにはすでに女王らしき人が立っており、入り口からエルフが両脇にひかえている
「人の子よ。此度はどのやうな用件で参ったか」
女王は、薄い金色の髪を長く伸ばし、特徴的な長い耳には硝子のイヤリングが光を放つ
服装は青と緑のドレスで、刺繍が細かく縫い込まれており、足元は何かキラキラした素材が舞っている。
「お初にお目にかかります、ユネ・クリンバスと申します。実はもう一度オリハルコンを採取させていただきたいのです」
「ほう・・それはわざわざよく来たな。」
「もしかしてオリハルコンあるんですか?!」
ゴードンが目を輝かせる
「いいや、ない。あの鉱物は最奥の洞窟にある魔物が守っていた過去の遺物だ。勇者に渡した物で最後だ」
今は枯渇して採取できない
困ったぞ、これは非常にマズい。
「勇者はどうした?何故今更オリハルコンを求めるのだ」
女王は、一同を見据える。
ゴードンが手を上げるが、ガラクが押さえ込む
ゼルザハはユネの背中を、トントンッとつついた。
「勇者は、禍ツ神と戦い相打ちになりました」
言った瞬間、場が紛糾した。
「禍ツ神だと?!あんなものが出たのか!」
「あれは久しく封印されており、出ても魔道士で倒せる端役のモノしか残っておらんかったはずだ」
「なんたることだ、魔王の勢力が増えてきている影響か」
「元も禍ツ神はこの世に太古から存在するだろう、
繁殖期に突然変異が出てきたのか」
「静粛にせよ」
女王の側に控えていた騎士風のエルフが凛とした声を上げる
ダノンによく似ているような
「ユネとやら、貴様は何者だ」
「私は亡き勇者の跡を継ぐ事になりました。
とはいえ、天啓を受けた正統ではありません。
資格がないと言われればその通りです。」
お前に資格はない、代わりの勇者を探してくれるとか言ってくれないか。
今だって、慣れない男の姿で話しているから緊張して、トイレに行きたくなってきた。
「ダノン」
「はい女王様」
「鉱脈は途絶えておるのは本当だな」
「はい、検知魔法をどんなにかけても、もう残ってはおりません。」
「なれば、私がお前たちにしてやれる事は何もない。
人間には酷な話だが、オリハルコン無しで進むしかあるまい」
災難だ。なんてこった、あの時オリハルコンを引き揚げれていたら、いや実体なかったしな
「承知致しました。女王様、オリハルコンが他に採取できる土地をご存知でしたらお教えください。
わがカナンリで作れる武器は鉄製のものだけ。
この先、魔法やら魔物やらに耐性を持つ防具や、
どんな敵にも当たる武器が無ければ死ぬのを待つのみ。魔王など到底倒せませぬ。」
ここに無ければ探しに行けばいいじゃない。
【ここ以外でオリハルコンは取れぬのに楽観的な田舎者よ】
エルフたちが何か話している
訛りで全く理解できないが、ガラクは苦い顔をしているので、悪口かな
「ほう、面白い事をいう。オリハルコンは世界一産出が少ない鉱物で、我が国以外では聞いた事がない。」
女王の側に控える騎士が答えてくれた
うーん、もうダメだ
終
「・・だったらもういいです、オリハルコンは諦めます。別の質問が有りますので、其方をお答え頂きたい」
もういいや、ないなら仕方ないや
「この世界の神についてと、魔王の元に囚われている人間の事です。」
女王の目が開く。
薄い翡翠の宝石が、キラキラと煌く。
「面白いな。だが、神はそこにいる悪魔に聞けばよかろう」
謁見してからダンマリを決め込むゼルザハに、女王が視線を向ける
「私など下位のしがない悪魔。森の民の知識に遠く及びませんわ」
ゼルザハは大人しく首を垂れた
「年増は持ち上げるのがベストですから」
ユネにしか聞こえない声量で半笑いの呟きをする
「ゴフッ」
ユネはお互い様じゃないかと思ったが、女王の冷たい目線に沈黙を選んだ。
「わかりました。コア、案内を」
城の屋上へと案内され、素敵なガラス張りの温室に案内された。
見たことのない光る花や、小さな小人が眠る草、
美味しそうな果実の木など地球では見慣れないものばかりが揃っていた。
行き止まりに案内されると、そこには噴水があり、石板が設置されていた。
獣の姿と人の姿、悪魔っぽい姿が描かれており、
全員が丸い玉を取ろうと手を伸ばしている絵だった
「あの、女王様が来るんじゃないんですか」
「フッ、悪いな、お昼寝の時間なのだ。」
ここに案内したのは騎士のエルフだった。
(お昼寝って子供じゃあるまいし)
見た目妙齢の女性だったし、ゼルザハも年増って言ってたし。いや高齢すぎて疲れて眠くなるとかアレか?
ゴードンはガラクとダノンと共に下の客室でお茶を飲んで待っている。
興味がある物をすぐ触ったり、うっかり壊したりとマナー違反が酷く、連れてきて希少な植物が傷つくのを防ぐためだ。
「説明の前に、私はコア。ダノンの姉です。神獣スピリットツリーの巫女をしています。
そこの貴方は悪魔。呼び出したのは待っている彼らのどちらかでしょうが、ユネ、貴方は」
コアはそこまで言うと、何か呟いて目の色を赤色に変化させた。
別に何も起きないユネの男verの体を、コアの目がじっと見つめる
「神獣は基本、一人としか契約しません。中には契約を拒む者も。でも貴方は、全ての加護がついている
スピリットツリーに尋ねても、答える必要はないと返されました。
一体、貴方は何者なのですか、魔王の側に寝返る可能性はありませんか?」
ゼルザハは、得意げにはユネをつつく。
ユネは困った顔でため息をつき、コアに向き合った
「実はまだ加護の内容知らないんですよ。もし、神獣毎の契約時における加護の内容、知っているなら教えてください。」
コアに、今までの事情を
カナンリ国の王子と強制結婚させるために呼び出されたが、禍ツ神に捕まり、神獣に気に入られ男に変化させられ非常に困っていると。
「女なのに、男にさせられたんです」
「そうか、だから女風呂から出てきたのか。だがこれからは公衆の風呂へ行くなら男湯へ行け。混乱するからな。」
ゼルザハの作ったアバターは伏せた
隠密作業の時に、面割れしているのは不利だと思ったからだが、隠密のイメージが影の軍団なので、なんか違うなぁとセルフツッコミを入れる
「直に聞いてみればいい。ここの木に触れれば資格者はツリーが連れて行ってくれる」
石板は単なる設立時の日にちと寄付者の名前が刻んであるだけ
その後ろにそびえる大きな木。
横広がりの大きな木で、葉も幹も白い。
ゼルザハはコアと一緒に見守り、ユネだけが幹に手を当てる
その瞬間、眩しい視界に目を閉じ、次に開けた時はよくわからない空間にいた
フワフワした空間だなと見回していると、肩を叩かれる
振り向くと、杖をついた老人がいた。
髭が白いが頭髪はキラッキラのピンク、服装は眩しいゴールドというなんかイメージ違うのが出てきた
「Wi!Wi-!よく来た!ミーからユーに送るプレゼントは、どんなところに飛ばされても酸素と二酸化炭素の調節をして呼吸ができる。向こう100年は保証付きじゃ。加護の詳細は、ワシからは言えん。あとは何かあるか?」
言動と見た目はスルーしよう。
「はじめまして、わた「そう言うの無しでOK、」そうですか。ではまず、この世界に神は存在するのか」
「神か、唯一神は関わりとうない。あまりに独善的で天罰がエゲツなく、天使から離反者が出たくらいじゃ。土地神たちは精霊に近く、温厚なものからトリッキーな者まで多種多様じゃ、面白いぞ」
「魔王って悪いやつなんですか?」
「当たり前じゃろう?人類を滅ぼし魔族だけの世界を擁立させようとしとるんじゃ。エルフや妖精も滅ぼされるか、奴隷にされるじゃろうな」
「魔王が私の本体を捕獲して飾っているそうなんですが、取り返す手段とかありますか」
「アレか、ワシはここから自立して動けん。
この木ごと動かせばいいが、根っこが傷つくとワシも痛いからな。基本、アウトドアの事はしらん」
そう言うと、一方的に追い出された
神獣の加護内容はお互いに秘匿情報なのだろうか。
「どうでしたか、」
「かなり濃い、いえ個性的な方でしたが、ここの加護を教えていただきました。新鮮な空気なのはスピリットツリーのおかげなんですね」
コアと別れガラクさん達と合流する。
ゼルザハはずっと静かにしていたが、客室にユネたちだけとなると口を開いた
「151も神獣はいたか?せいぜい20体くらいだと思っていたが。」
「実は、昔召喚ブームがありまして、著名な魔道士が
神獣を掛け合わせて作った神獣がいるんです。
そのせいで何度か世界大戦になって、過去に3度人類は絶滅しかけています。」
「あー、最近ニンゲン見ないなー、どこ行ったんだろう?って時何回かあったがあの時か。悪魔は別の世界で暮らしているから、こっちに来ないと時世がわからないからな」
人工神獣というわけか。
数が初代の携帯魔物捕獲物語の魔物数に似てるが、ここにそれを共有してくれる人がいない
「とりあえず、オリハルコンは諦める。他の魔剣とか聖剣を代用にするべく探す。並行して、全国神獣詣りに行く。で、把握したら魔王討伐対策を考えると。」
ガラクには、あのキャッチ竜と交信をしてもらう
「なんだ、こんな夜更に。今から大人の時間だ、プライベートに踏み込まないでもらえるか」
客室のバルコニー上空に召喚したキャッチ竜は、見た目変わらないが粧し込んでおるから邪魔するなと呟いていた。
「はい、どうぞ」
どっさりの書類。
キャッチ竜は浮遊させて目の前に書類を広げる
「な、な?だこれ?は!」
「要請書だ。見てわからんか?」
ゼルザハが侮蔑の表情でキャッチ竜を睨む
ユネは、疲れたので女の体に変身して客室内で寛いでいる。盗撮カメラ類がないか確認をゼルザハにしてもらい、外からの盗撮もない事を確認した上で。
「お主が情報公開に手間取るから、こちらから注文の詳細を記した書類を作成した。151もいるのだから大変であろうな。だが、主要の有名どころはすぐ出してもらう。明日此処を出発するまでに頼むぞ」
「ええええ、今からコン、えええええ」
「マイナーな神獣は、とりあえず名前と特徴だけでも早めに提出してくれ。
面倒くさいなら、今この場で加護の内容全て言ってもらえるか?」
効果の不明な力があってもどうにも対応できない。
盾が重く感じるからパワー系ではなさそうだし。
金と人脈は不自由しないのは助かるが。
キャッチ竜は、諦めた表情で書類を受け取った。
その中で5枚の紙をユネへと返す
「そやつらが私が知る神獣たちだ。
加護の内容はそこに書いたから行かなくてもいい。あまり交流のない神獣に関しては、前にも言ったが詳しい神獣に聞くしかない。住まいが皆バラバラだからな、あの時は禍ツ神のため一致団結したが、基本干渉せん。はぁ、俺はこれでも竜王と呼ばれる身なんだが」
「宜しくお願いしますね、竜王殿」
ゼルザハはニイッコリと妖艶に笑う
ため息をたくさん残してキャッチ竜は帰っていった。
受け取った神獣のリストを眺める
加護は
①布製もしくは皮製の鎧を装着時、どんな気候の土地でも常春の状態で行動する
春の花の匂いを選んで纏うことができる
効果は一日、詳細はこちら
〇〇〇〇
鉱物製の鎧では効果を発揮できない
②剣と盾を装備せず、杖、棍、その他飛び道具などで攻撃するとき、倒した敵を食糧にできる
美味しい魔物 レシピ 一覧
③神獣界の大型モールで激安価格で永久に買い物ができる
神獣ポイントのお知らせ
④快適な旅のお手伝い、キャンプセット
強力なボディーガード付き
プライバシーポリシーをお読みください
承諾しますか YES NO
⑤無制限で手から砂糖、塩、胡椒(全て精製済みの物)が出せる
詳細はこちら
〇〇〇〇
賞味期限、消費期限の改訂に伴う取り扱いの変更について 必読
ユネは書類に目を通した後、女に戻りベッドにダイブする。
「思ってたのと違う」
ガラクは、一枚を見て目を輝かせた。
「神獣界ならオリハルコンもあるのでは?!」
「でも、どうやっていくのよガラクぅ、神獣界は人間が立ち入らない場所だよ?入って戻ってこれるかなー」
ゴードンの言う通りだ。更には通貨が同じでなければ買うことはできない
「通貨はこちらのものが使えます、年に一度だけ開かれる市でしか行けませんが、これならいつでもフリーパスですね!」
年会費はかからないのか?
ガラクは、神獣を呼び出し、王に報告する文を届けてもらっていた。
「あ、あの!」
神獣を呼び止める。
足の早そうな飛脚姿の女性だ。
「なにかようかい?!」
「はい、あなたは私に加護をくれた方の一人ですか?」
「ああ、禍ツ神の。そうだね、アタシは足が速い。
その加護ならついてるよ、走れば走るほど速くなるから、毎日頑張って走んな。」
そういうと、あっという間に夜の闇へ消えていった
ガラクは申し訳なさそうにユネを見た。
「すみません、神獣は呼び出して使役しますが、加護を与えてもらう事はした事がないんです。」
そうか、召喚獣装備時アビリティじゃなく、
デュエルスタンバイ的な仕様か。
それなら仕方ない
「じゃあ、明日、女王さまにお礼を言ってカナンリに戻り国王に報告しよう。神獣モールは、報告してから行く手立てを、ガラクさんは知ってる?」
「ええ、召喚士が開けることができる端境の穴に入れば、向こうに行けます。」
「それじゃっ、明日までおやすみーーん!」
ゴードンはやかましく部屋を出ていった。
アイツのベッドはそこにあるのだが、ガラクさんの部屋に寝に行ったのだろうか
「ガラクさん、男同士ここで休みましょう」
「えっ?!いや、君は女性だろ、俺は歳くっても男だ
。失礼のないよう、ご無礼させてもらうよ」
颯爽と部屋へ戻っていった。
召喚する神獣の話、聞いてみたかったがまた後日にするか。
ゴードンの護衛として同伴するの、いやアレも姫だし
別室用意してもらうとかかな?
よくよく面倒見がいい。
「ゼルザハ、君はゴードンの魔力を使って存在し続けているのか?」
「ユネ、呼び出すときは魔力を貰うけど、出てきた後は自立してるわ。久方ぶりのこちら側、すぐ帰るのも勿体ないからよ。」
そうか東京観光していきたいっていうアレだな。
窓にゼルザハの警備保障、ドアにも同じくかけてもらい、安心して眠る。
「ねえ、入れてよおおおっ」
自分のベッドがここだと気付いたゴードンが帰ってきたが、疲れたユネたちはすでにぐっすり眠っていた。
深夜、ガラクの部屋からも締め出されたゴードンが、
廊下の隅で寝ているのを見つけたダノンとコアが、呆れながら別室まで連れて行った。
朝。支度を整え、女王に感謝を述べ森の民の国を後にした。
ダノンが、ガラクに連絡先を渡しており、ガラクも交換していた。
「若いねえ、いや若くないか」
ユネは微笑ましく見つめる
「コアよ」
「はい女王、如何致しましたか」
「あのユネという者の、知りうる情報を教えよ。
そして他言無用で決して他国に漏らすでない。
加護の内容を調べて、有用なら我らの国益のためこちらに寝返ってもらおう。」
「仰せのままに。ダノン」
こちらに戻ってきたダノンを呼び寄せる
「はい!お呼びでしょうか」
「あの者たちの供をしてやれ。お前の魔法は規格外じゃが、あやつらには重宝される。神獣の加護の詳細、
つぶさに報告せよ。よいな」
ガラクを見て嬉しそうな顔をするダノン。
「はっ!では失礼致します」
ダノンに馬を一頭与え、後を追いかけさせた
そのままとある倉庫へと足を伸ばす
「もうじき始まる、大戦の火蓋がこれで切られる」
コアは、オリハルコンで製造された武器が保管されている光景を見て、無表情で呟いた。
カナンリ国に帰り、国王に報告するガラクを待つ
ゴードンは薬のおかげで咳が治り、自室で安静にしている。
お金の知識はちゃんとラーニングされている。
神獣界で作られたお札
危険そうな紋章が描かれた札にしか見えない。
1000万円、100万円、10万円のお札があり、色は統一して黄色、模様は上から順に金、銀、銅色となる。
こちらの種族で作ったお金は硬貨。
金貨は10万円、銀貨は1万円、銅貨は100円。
1番流通しているのは銅貨であり、1万円分の銅貨と引き換えに買い物する人もいる。
国内の経費は全てお城持ち。顔パスである
お金の管理はガラク、現物を見ていない。
「では、私が見せてやろう」
ゼルザハはそういうと、祈る様に手を組み、揺らす。
テーブルに硬貨がジャラジャラ音をたてて出てきた。
銅貨が山盛りになる。
周りの人間が、唖然としてその光景を見る中、ゼルザハは気にせず銀貨分の枚数をユネに数えさせる
更に鳥の形にしたあと、また揺らす
銀貨が、数十枚出てきた。
最後に、指でつくるお風呂を組む。
親指で火を焚く仕草をすると、浴槽を象った左手のひらに、金貨が溢れてきた。
合計金貨5枚、銀貨20枚、銅貨350枚
「へえ、金貨は1番大きく、次に銅貨、銀貨は1番小さいんだ」
「そうだ。吸血鬼どもが銀を多く所有していて、硬貨以外の装飾品が作れない。銀弾が奴らにダメージを与えるからな。だから金の装飾より値段が高い。
銀貨も、本来の価値より高めで取引されている。」
「えっ、価値が変わってるの?」
「とはいってもこんな一般的な銀貨ではなく、特別純度の高い白銀貨の話だがな。」
「おい、ずいぶん羽ぶりがいいな。俺たちにも分けてくれよ」
話の途中でテンプレな人相の悪い男が数人割混んできた。
ユネは金貨を掴むと男たちに差し出した。
「はい、これあげるから子供たちにうまいもん食べさせてやりな。」
ニヤニヤ顔で金貨を受け取ると、腰に下げた武器をユネにチラつかせた。
「悪いがそこにあるカネ全部だ。」
「それは困る、勉強中なんだ。」
言い終わらない内に血がテーブルに滴り落ちた。
「うるせえ、さっさと残りのものをよこせ!」
「うるさいなあ、取り込んでるっていってるでしょ?いいよねナイフを扱えてさぁ。んもう、私なんか包丁しか扱えないのに羨ましい。はあ、もう嫌になっちゃうよ」
今は男の姿である。
可愛い女の子が憂鬱になる時する仕草をしている
効果音とともにドギツイピンクの衝撃波が発生した。
「うげっ」
男たちは若干引いたが、残る銀貨、銅貨を思い出して
気を取り直した。
「いいからよこせ!死にたいのか!」
胸ぐらを掴まれる。
「なるほど、死んだら本体に戻れるのかな」
本体と共に永遠に美しく?凍るのは困る
本体を帰して、サクッとやられて魂も戻る
それなら帰れるかもしれない。
この世界にそれほど義理はないから、魔王が支配してもしょうがないのでは?
いや人として倫理的にダメだろう、でもなぁ
「はーぁっ、困っちゃう♡」
さっきより眩しいピンクが男たちを襲う。
言い終わってから、キモいことを言っていたことに気がついた。
気まずそうに男たちを見たが、
その場で倒れていた。真っ青で動かない。
「お役人さん、こっちこっち!」
他の客が衛兵を呼んでくれたようで、昏倒する男たちを縛り上げて連れて行った。
「馬鹿者、加護があるのに傷つけられるでない。」
ゼルザハが傷をハンカチで拭き取る。
正確には、治癒した傷痕を拭き取った
「ありがとう、さっきの物言い意識せず言ったの、なんか気持ち悪いな。」
ゼルザハは、加護があるから傷つく事はないだろうと様子見をしていた。
だがあっさり額に傷がついた。
回復が早いし、痛覚もないが、出血過多でショック状態になったら死もありえる。
「知る事で加護を得るのかもしれん。やはり加護内容を把握せねばな」
教えてもらった神獣の力は、生活に根付いた物で戦闘向きではない。
「試しに何かやってみようか、」
空になったコーヒーカップに、砂糖をイメージして手をかざす。
ドゥバァー
グラニュー糖がサラッサラ吹き出てきた。
コーヒーカップが砂糖に埋もれ、見えなくなる
山盛りの砂糖が、現れた。
「うわぁ、小さじ大さじ単位で出せないのか」
スプーンを手に持ち、もう一度やってみる
スプーン山盛りで止まった。
ガラクが城からカフェに合流した時、袋を持った行列が出来ていた。
「はいはい、もうここまでで終わりだ、あとは帰れ、
もう日も暮れる、終わりだーーっ!」
ゼルザハが叫んでいる。
カフェの席でげんなりしながら手のひらから砂糖を噴射するユネ。
「ありがとうございます、こんな上等な砂糖をくださるなんて、なんてお慈悲深い方だ」
「私たちにも分けて下さりありがたい事です」
砂糖漬けにしたコーヒーカップを謝罪した後、精製した砂糖を分けて欲しいと言われ、無限だし迷惑料代わりだからと了承した。
樽いっぱいに出したあと、少し分けてくれませんか、
ああいいですよ、わたしも、おれも、わしも、
という連鎖で一気に老けたユネが、手をかざしたポーズで固まっている
手の下に袋を置くと、勢いよく砂糖が排出される。
5キロの米袋のサイズだが、10秒程で貯まる。
だが、行列はまだ数十人程残っており、樽というよりドラム缶サイズの容れ物を持った強者ばかりだ。
深夜までかかってしまう
「この袋のサイズまでだ!それ以上は無理だ!」
ゼルザハが袋を用意し、手際良く渡していった
そのおかげで日が沈む前に終えることができた。
宿屋に着き、部屋で女性に変わる。
「お疲れ様でした。」
年齢が上のガラクに労われ、ユネは首を振る
「いえ、ガラクさんが1番おつかれでしょう」
国王への報告完了後、ゴードンの様子を見てからこちらに合流するはずが、ゴードンがついていくと言って聞かないのを、国王と二人でなんとか説得し、ようやく帰ってこれたらしい。
オリハルコンの事は案の定という反応で、精霊からもらった装備品の再取得も不可能だと断言された。
「そうか、じゃあ本格的に代用品を探さないとダメだね。ガラクさん、ドワーフの国とかどうですか、魔剣とか作ってそう」
「いいですが、あそこの主な名産品は、天蓋付きベッドです。厳つい手から信じられないくらい精巧なレースを作り出すんです。剣は内職として、おばさんたちが作ってます。オーダーメイドはまず高くて買えませんよ」
「ゼルザハ、」
「ん?さっきの金か?あれは魔王の所有する金庫から出している。まだまだあるから、それで買おう」
「待ってくれ、魔王の金庫とは何だ」
ガラクが驚きすぎてむせる。背中をさするユネ。
閃いた顔をして、
「それで帰る素材を買い取れるよね」
ガラクがゼルザハにアイコンタクトを送る
わかってるってというゼルザハ。
「悪いな、一気に盗むとバレるから、金貨は100枚以下ずつしか出せない。異世界関係は高いからな。
おそらく国家予算はかかるのではないか?」
「そ、そうなんだ、そんな国家プロジェクトで呼んでもらって実益なかったら国が潰れるね、わかった。
本体を回収するという目的のついでに魔王も攻略しよう。」
なんとかごまかせた。
「ここは、何処だ?」
ダノンは迷子になっていた。ルオヤンでないどこかの山にいる。
「くそ、魔物か!」
遭難しているダノンに襲いくる魔物。
ダノンは勇敢に剣を抜き、戦いに身を投じる
一方その頃。宿屋で迎えた朝、宿屋の上空にキャッチ竜が出現していた。
ガラクが呼び出す高位の神獣で、住民は見慣れており誰も気にしない。
「起きたか選ばれし者よ。お前の願い通り我らの全てを記したリストを作成してきたぞ」
なんとなくやつれている気がする
「こんなに早く仕上げてくれてすまない、それから私たちを神獣界に連れていってくれ。前の加護リストに神獣界で買い物に関する加護があった。
エルフたちがオリハルコンを無いものとして拒絶してきた以上、魔王対策で神獣界は一縷の望みだ」
ユネはそこまで考えていない。
神獣たちの住む世界の文化がどのようなものか。
早く体を取り戻す手段を得られることに期待する
オリハルコンを持っていながら譲渡も売りもせず追い返した展開に、国王は予想的中だと胃を押さえた。
ガラクは、そんな国王に安寧の時を過ごしてほしい
彼こそ、国のためを思っていた。
「そうだったな。では、ガラク、ユネ、貴様らだけ連れていく。ゼルザハよ、貴様は招かぬ。相容れぬ存在を連れていけぬからな」
「わかっているわ。敵意がなくても貴方たちは私たちを嫌うもの。ユネに害が出たら困るし、大人しく待ってるわ。」
ゼルザハは道具を出す。
「時間は大事よ、持って行きなさい」
そうして渡されたアイテムは、懐中時計などのアンティークではなく、手首につけるタイプだった。
時間と共に心拍数も表示されている。
「ありがとう、行ってきます、ゼルザハ」
竜と共にユネたちの姿が薄れていく
「さてと」
ゼルザハの背中から黒い煙が立ち込め、翼の形をとる
上に向かって飛ぶと、そのまま空へと飛びたった。
ユネが目を開けると、獣が行き交う市場に来ていた
売られているのは植物、見たことのない小さな生き物
ドギツイ配色の食べ物、そしてトカゲ人、ヤギ人、
カエル人、ネギ人。
ネギ?!
頭がネギなんて初めてみた。
妖精とか精霊だろうか?
「神獣とは、召喚される資格を持つ神獣を指すのではなく、ここに住む全ての者を指します。
人間が召喚できるのは、過去の大戦で協力してくれた神獣たちとの繋がりであり、新たに契約するのは今ではほぼ不可能です。」
ガラクは、興味深々で挙動不審なユネをなだめながら説明する。
「さ、行きますよ」
案内されてきたのは石が木箱に積んである石材店だった。
なぜか灯篭や墓石、見たことのあるゆるキャラが石像になっている。
墓石は完全に日本式だ。
前に誰かこちらにきたのだろうか
「オリハルコンねえ」
石材店の見た目岩のおじさんは、そういうと在庫の帳簿を調べ始めた。
「うーん、ダメだな。ひと月前に大量に買い込まれてて、ここには無い。原産地まで行けば取れるが、
アンタら人間だろ?辿り着くまで50年かかるが、
大丈夫か?」
「いや、往復100年確実に行き倒れますって」
ワープとかないと無理無理
本格的に伝説の武器は不可だなぁ。詰みだ詰み。
「ほ、ほかに手段はありませんか?」
ガラクが食い下がる
店主は、それならとポスターを剥がしてユネたちに見せた
「ほれ、これだ。第100回記念大食い選手権、
誰も食べたがらない暗黒喪樹を誰よりも多く食べたら
賞金一億黄金札!特典は話題の神を一日貸し切り!
即死の可能性があります。復活蘇生の保証は負いかねます これに出ればオリハルコンも副賞でもらえる」
「あんこくもじゅ?」
「あ、あの危険すぎて人間の世界に持ち込み不可になった、あんこくもじゅ!!!」
「え、何、苦すぎて食べれないとか?」
「しかし、食べきればオリハルコンが、
ユネ殿!私が出ます。」
開催日は今日、飛び入り参加大歓迎だった
怖いもの見たさの観客が、すでに100人集まり、巨大な鍋を囲むようにテーブルが配置されている
「参加費用は銅貨50枚。死亡保険加入も入れるなら
銀貨1枚だよ」
「わかりました。銀貨1枚でお願いします」
「えっと、それ私参加します。ユネ・クリンバスです」
「はいはい、登録完了だよ。」
ガラクがポカンとしている間に、参加証を首から下げる
「聞いてましたか?即死もあるんです、貴方は見ていてください。勇者が死んだらどうしようもないです」
「いや、加護があるからしなないよ多分。ガラクが死んだら、もうあの竜を呼び出して情報聞き出せなくなるから、死なれても困る。
前の勇者も伝説前に死んだし、即席の私も死んだらまた、新しい勇者呼んでやってって、行ってくる!」
ユネは、ガラクの言葉はスルーし言うだけ言って走って行った
参加者は全部で30人。
銀髪美中年、前世は牛の巨漢、バッタマスク、蛇人、
犬人、など、銀髪の人以外は、ケモノ系だった。
「ルールは簡単!味付けありから味付けなし、素材の味、究極の彼岸まで、段階毎に食べて行きら最期まで
食べ続けられたら勝利です!」
まずは美味しそうな香りのステーキが運ばれてきた
行き渡るのを確認後、
スタートの合図と共に一斉に食べ始めた
早食いではないので、必ずよく噛んで食べること、
適度に水分もとることを条件に出されている
「あ、ニンニク醤油だ。美味しい!」
牛肉の柔らかなところが分厚くなった旨さ。肉汁も大量で美味だ。
真ん中の黒いモル●●みたいな奴が煮込まれているが、
これじゃないよな。
「今食べているのは、暗黒喪樹の新芽です!穢れが蓄積する前の新鮮な状態!これを摘み取るのに10時間待機して出た瞬間に摘み取らねばならない、コストがかかる高級食材だあっ!参加賞を味わったら、次から戦いが始まりますっ」
MCは猫人だった。ブチの模様が可愛い。
ドンッ
食べ終わると同時に、生臭い食べ物が置かれる
目玉が、鉄板の上でジュウジュウ焼かれていた
「では!新芽に穢れが蓄積され変化した目玉のソテー!味変は不可です!どうぞー!」
くちゃあ。どろどろっ、むわぁ。
目玉をきると、モノクロ柄が見える。汁が溢れだし
美味しそうかな、と思ったが、魚の生臭さが口いっぱいに広がり、やがて喉が乾いてきた
水は神獣界の霊峰から運んできた湧水をおかわりし放題、美味しい。
「ちょっと生臭だけど、食べれる」
喉を潤し食べ切った
周りがすでに汗をかき苦戦している事には気付いていない。
「次は魔力を溜め込んだ葉の部分をスープで煮込んだ物です」
丼ぶりに熱々のスープ、海苔のような物体、トッピングで目玉が浮いている。
「これ海苔だ。醤油スープか、豚骨スープで浸してご飯を巻いて食べると旨いけど、醤油でもうまいな。
ご飯。ありませんかー?」
海苔から溢れ出る瘴気で、麻痺して動かなくなった十名が脱落した。
「続いては、ゴホゴホっ」
むせるMC。
観客もハンカチや手で口や鼻を覆う
「暗黒喪樹の枝を使ったマリネです。どこまでも酸っぱい絶望に耐えきれるでし、げほっ。ごほっ。」
ガラクも目に染みる酸っぱい臭いに、顔をしかめた
「ユネ殿、無理は、しかし魔王打倒のため、」
モヤモヤしているガラクを尻目に、ユネは顔を梅干しのように歪めていた
「くぁぁぁあーーー!すっぺえええええっ!くせになる!」
すっっぱいレモン飴を初めて食べた時、
バルサミコ酢のパスタで悶絶したがお代わりした時
シークワーサーの搾り汁を唐揚げにかけ過ぎた時
そんな思い出が走馬灯のように巡る
だが、ユネは食べ切った。
犬人は、臭いにやられリタイア
銀髪の男性はユネの姿を食べながら観察していた
(見覚えのある顔ではないが、気になる)
酸味の強い食材を物ともせず、平らげていく
ここでユネ、銀髪、蛇人が残った
「蛇の姿をした禍ツ神、か。」
いきなり喰われたから姿を見ていないが、奴ならここにいる会場の備品ごと食べ尽くすだろう。
「最後の課題は、今煮込んでいる暗黒喪樹をより多く食べた方の優勝!この試合で調味料は持ち込んできた物使用できます!どうぞーっ」
出てきたのは、黒い食材。脈打つ鼓動は生きているようだ。
銀髪は荷物からお洒落な瓶の中身をふりかけ、蛇人はそのまま丸呑みで食べ始めた
ユネも口に入れたが、味は無味、口に入れると溶けて口腔の粘膜から吸収され飲み込む必要がない。
しばらくして、蛇人がのたうちまわって苦しみ出した
黒い泡を噴き、昏倒する。
「何か、かけて食べてくださいっ!そのままだと暗黒の瘴気が血管内で塞栓をつくり、血流が悪くなり、
心筋梗塞や脳梗塞になりますっ!」
なんじゃ、そんなコレステロールな瘴気は。
砂糖、塩、胡椒かけたところでダメじゃない?
高脂血症の治療薬出さないとダメなんじゃない?
しかし、全く体に異常はない。
無味に飽きたので、とりあえず、砂糖をかけた。
今度は白砂糖だ。三温糖もいけるだろうか
「すみません、調味料の作成頼めますか?!」
MCに確認
「?、面白い!許可しましょう!何を作るんで」
「じゃあ、カラメルシロップお願いします。あと、卵、マスタード、油、酢、柑橘類の果汁ください。マヨネーズ作れます?」
後で知ったが、ルオヤンでは黒糖メインで白糖は貴重品たった。
ここ神獣界では揃っているらしく、すぐカラメルシロップが用意された。
マヨネーズはどうやら無いらしい。
「卵が、霊鳥の物しかないが構わないか?」
「れ、霊鳥?ええ、鳥の卵ならなんでも構いませんが
」
「そうか、恐れを知らぬ人間よ、受け取れ」
スタッフから荘厳な雰囲気で渡された金の卵
皆、どよめいているが、ボウルと泡立て器を準備してもらい、自分で作ろうとしたが、ガラクが名乗り出て手伝ってくれた。
片手でカラメルをかけた喪樹を頬張りながら、マヨネーズが出来上がるのを見守る。
やがて、既製品より黄身の濃いマヨネーズが仕上がった。
「んまい!」
出来上がった物を、銀髪の男性にも、お裾分けする
「いいのか、我らは競う相手だ。不利にお前が陥るやもしれんぞ」
「いえいえ、予想より多めにできたので、せっかく出会った縁、どうぞ食べてみて下さい」
タルタルソースも作りたくなってきたが、食べる方に集中した方がよさそうだ
「ふふ、面白い奴」
銀髪のイケメンスマイルに、目が潰れそうになりながら、席に戻り食べることを再開する。
だが、コレステロールの塊に、油たっぷりのマヨネーズは不正解ではなかろうか。
再開して即思ったが、卵が希少品だったのを踏まえると残すとマズいだろう。
瘴気だよね、と一人ツッコミを入れながら、黙々と食べていく。
緊急事態が起きた。
参加者が暗黒喪樹を食べ切ったのだ。
その前に全員死ぬか、倒れてお開きになるが、銀髪の男性と人間の男は全て食べ尽くしてしまった。
観客はどうするんだ!とヤジを飛ばしてくる
同時優勝にしておけばいいと思われたが、無理そうだ
急遽次の食材が市場から購入され運ばれてきた。
それは人の形をした食材で、二体あった。
観客がドン引きブーイングを起こす。
「な、苗床じゃねえか!」
召喚時の対価は召喚された神獣ではなく、神獣界のある施設に集められる。そこで代価を払った人物の命や時間なら人の姿に変え保管、魔力ならエネルギー貯蔵庫へ送られる。
人の形は苗床と呼ばれ、人格を植え付けず被験体にしたり、愛玩用にされたりとあまりいい使われ方をしない。
イメージを払拭するため、人格を植え付け働かせるが、風評被害により迫害されている。
「これはまたエグい仕様だ。
伝説の勇者がこんな変わり果てた姿になろうとはな」
銀髪の男は苦笑いをする。
運ばれてきたのは遠い昔その頃の魔王を己の命と引き換えにして倒した女勇者だった。
胸のあたりに光の球が浮かぶ。
これが形成している源、消えれば体は消滅する。
ユネの方には男性が運ばれてきた。
ジイッと目を凝らし、ハッと息を飲みそこから動かなくなる。
「胸の球を砕いて食べ終わった方を勝ちとする!」
スタートの声が響くが、両者全く手をつけない
「きゃーーーーーっ!ーー!」
突如ユネが奇声を上げた。
「なんて、素敵な、殿方なのかしらぁ♡アタシ、こんなに心臓が頻脈になるなんて初めて!
困ったわぁ、動悸が治らなくて心房細動起こしそう!そこな銀の髪のおにいさんもカッコよくてぇ、好みなのに、食べる相手もイケメンなんて、困っちゃうーっ!」
場が凍った。
「なんだ、アイツ急に」
「ねえ、カッコいいと思ってたけど、あの子どこから声出してんの?ありえないんだけど」
「んーもう、この人食べろなんて、人前でしちゃダメだぞっ☆そういうのは、お部屋でこっそり!するものなんだ、か、RA♫」
「ぐはあっっっ!!ー」
銀髪が吐血した。
椅子から転がり落ち動けない。
観客は、足が竦んで動けない。
恐怖で混乱している。(ガラク除く)
MCは、気絶しており進行不能
「・・・っー!!」
耐性のあるスタッフが、よろめきながらも終了の合図を鳴らす。
不似合いなゴングベルが会場に鳴り響いた。
「優勝はそこの人間の男!優勝は人間!
表彰式を行いますので、準備に入ります!完了次第お知らせいたしますっ!」
強制的に終了した。
「やぁだぁ、この子欲しいぃん。持って帰るう」
スタッフが男性の苗床を回収しようとしたが、ユネは頑なに拒んだ。
「ゴホゴホゴホゴホッ、すまんが俺もこの女を持ち帰らせてもらう」
吐血で顔が白い銀髪の男は、大事そうに元勇者を横抱きにしている。
お札が結構重く、オリハルコンもそこそこ重量があった。さらに人まで連れてまだ神獣界で行くところがあるとなると、馬車がいる。
ガラクは、顔まで布に覆われた人物が誰か気になったが、いつもの竜の所へ連れて行ってほしいと頼まれた
オリハルコンを手に入れたこともあり、深く追求せず
目的地へと出発した。
「ちょ、ええっ」
出立直後、不自然な樽が積まれており、ユネが開けてみたら対戦相手が入っていた。
隣の樽にも入っている。さっきの元勇者だ。
「はじめまして。私はディスター、しがない魔族だ」
「やぁだぁー、夢幻ぃー?!」
奇声を上げて追い出そうとしたが。
デイスターは、なんとか踏ん張り堪えた。
彼のHPは静かに1だ。
「待て。魔族と言っても貴族階級の吸血鬼などとは違い、昔貴族今没落の貧乏貴族だ。
だから働かねば食っていけん。
魔王城近辺は物価が高いわ土地も高くて住めぬ。
妹、弟たちもおるし、いつかは嫁もほしい。
夢を求めてここに来たのだが、なかなかいい職にありつけず、やっと一攫千金のチャンスが来て参加した。
というわけで、私を雇ってくれ」
「やめときましょう、仮にも魔族。人に仇なす存在ですよ」
ガラクは馬車を動かす為手が離せないが、後ろを向いて拒否をする
「そう言うな。ほら、この娘は昔名を馳せた伝説の勇者、ズムデインだ。」
樽に入ってる女性は眠っている。
「ユネ殿、油断してはなりません。彼らは心につけ入り、騙して全て奪い取る悪逆な輩です」
「やめろ、それは悪魔ではないか。あんなゴロツキ種族と一緒にするな。腐っても由緒正しき魔族。」
言い合う男2人を尻目に、ユネは樽に入ったままのズムデインを出して、名もなき男性の隣に寝かせる
「ディスターさん、持っている資格、特技、志望動機をどうぞ」
「ごほん。魔界大型搬送馬免許、小型船舶免許、魔介護福祉士免許、魔療事務を持っています」
「・・そんなに資格あるなら働ける場あるでしょう、何故雇用されないのですか?」
「くっ、フルネームをディスター・ドラキュラと申します。ドラキュラ本家が、分家の私の才能を妬み、魔界中雇わせないよう圧力をかけている。
おかげで、日雇いバイトで食いつなぎ、妹たちの学費のため更に稼ぐ必要が出てきました。」
ディスターの懐から出てきたのはホログラフのペンダント。
母、妹、弟が写っている。ディスターはお母さん似のようだ。弟の顔立ちは誰とも似ていないが。
「騙されませんよ!大量のお札目当てでしょうが!
生憎!そこにいるユネ殿は!ゆぅぐふっ?!」
ガラクの口をオリハルコンで塞ぐ
「魔族に勇者は禁句、賞金首として狙われたらどうする」
ガラクに耳打ちする。
「勇者ですか、キツイ職につかれましたね、魔界中の
魔族から四六時中命を狙われ、最悪三代先まで滅ぼされるが、失敗すると人間たちから迫害され、やっぱり三代先まで滅ぶ選びたくないブラック職ナンバーワンです」
ディスターがガラクの反対の耳から聞いていた。
「い、いやいやいや!最下位は召喚士です!新しく新人が来ても、隕石やら究極魔力大暴走とか、自分が目立つ黒魔法の方が大人気で、対価を払って召喚するって点が寿命を削るものだと誤解されて定着しません」
「なにを言う。勇者など生贄と同義語。無事倒しても
帰ることを許されず魔物の国に閉じ込められる」
ユネは、ガラクを見た。
ガラクは首を振る。
「そんな話は聞いたことがない、神獣達からも聞いたことがない。」
「子供を勇者として育てる為に、こんな裏話は妨げになる。事情を知る人間は、高位の神官だけだ。
没落しても魔族。そういう情報を取得するのも嗜みの一つだ。」
馬車が止まる。
竜の住処に到着した。
「ここは竜王の住まう地、人間が容易く来ていい場所ではな、なんだガラクか。ちょっと見ないうちにえらく老けたな、はっはっはっ!」
竜王より小柄な竜が現れ、馬車を揺らす。
「おお、おおおおおおっ?!!」
竜王がその後すぐにきたが、魔族同伴を察知して危うげな息を吐こうとする。
「はじめまして竜王様、私はドラキュラ分家の大黒柱、ディスター・ドラキュラと申します。
このたびはユネ殿に雇っていただいた次第です」
「いやまだ雇用前だから」
「竜王よ、この人はひとまず置いといて、この人達を見てほしい」
ユネは、馬車の幌を開けて横たわる苗床を見せた
「これは苗床だな。趣味の悪い物だ。どこで拾ってきた」
竜王は嫌悪感を滲ませた
「神獣界大食い勝負で、決勝戦の食材として出た。
意識を取り戻せるのか不可能か、そして」
男の顔まで覆っていた布を取る
若い姿のガラクだった。
「どうして、ガラクさんがこんなことになっているのか。戻せるかどうか。さっきも言ったが、人を食材として見なすなら、ここには長くいられない」
ユネは怒っていた。
黒い髪にある一筋の金髪がピリピリと静電気を帯びる
「ダンマリか。この人は私のいのちの恩人。恩を返すためにも歳を戻したい、協力してほしい」
「無理だ」
「即答かい」
「あの方が関与する事は全て無干渉でなければならない。でなければ我ら竜が滅ぼされる」
「そうか、理解した。人を食べる事については」
「苗床は本人ではない、我らに捧げた供物を、犠牲にした者の姿で保管しておくだけだ。」
「じゃあなぜ人に変える必要がある?人形を虐待しているんじゃないよな」
鋭いユネに、竜王は冷や汗をかく
さっきからユネの様子がおかしい。
背筋が凍る圧力を、感じる
ガラクはユネの肩を叩く
「ありがとう、だが、禍ツ神を倒すためにかけた命だ。取り戻そうとは思ってない」
「・・ガラクさんがそう言うなら。では竜王サマ、保管をお願いします。勇者の預かりものならいい?、魔王退治に行く途中で何か掴むから」
竜王はディスターをチラ見しながら頷く
「優しき者だ。ますます働かせてほしい、いやお仕えさせてくれ!」
ユネの手を掴み、恭しくキスをする。
「いや今男だからそれちょっと困る、というかその気はないからやめてくださいお願いします」
ユネは引きつった顔で後ずさる。
ディスターは、跪いたまま、天を仰ぐ。
「ああ、ロゼ、ブランシュ、兄は天職を見つけたり・・・!」
ズムデインも若ガラクと共に竜王により保護された
「申し訳ありません」
真っ暗な闇から声がする。
「言い訳は聞き飽きた。
あの身体は私の戦利品だぞ?
傷ついて壊れていたらどうする」
水晶が粉々に砕けており、中に封じていた者が逃げ出したようだった。
「すでに配下に探させております。わたくしもすぐに」
会話は聞こえるが、2人の姿は見えない。
闇が大きくうねり、慟哭する
「必ず捕らえて連れ帰れ。傷一つつけずに、丁重に、だ」