ポーションの小売販売
「他のギルドに塩送って、名を揚げる、ねぇ。まぁ、タダじゃねぇし何の裏もねーって言われるよりは信用できるな。
ああ、あんたらの提案を受け入れようじゃないか」
ノートンはあれから、いくつもの小規模冒険者ギルドとポーション仕入れの業務提携を結んだ。
ギルドにしてみれば余所のギルドの仕事、給料分以外の遊びをするなど無駄でしかないし、タダでやるならあまり嬉しくない話である。
同業者が安定するというのは、それだけ仕事という名のパイを持っていかれるという事でもある。
そこだけを見れば損をするだけの話になる。
しかしポーションの鑑定代と仕入れにかかる雑費はちゃんと回収するし、少額であっても利益が出る。
小規模冒険者ギルドは安定した大量一括仕入れの恩恵で普通に購入するよりも安めのポーションが手に入り、その品質も保証されて喜ぶ。そうやって恩を売れば何かあった時の保険になるし、現場でかち合った時にトラブルが起きる事も無くなるだろう。
冒険者ギルドとしての利益はちゃんと提示されていた。
ときおり「冒険者ギルドからポーションの小売店に鞍替えしたのか」などと言うヤジも飛んできたが、それ以上に客になった冒険者ギルドからの評価が良かったので決定的な問題にはならない。
客の冒険者がにらみを利かせ、どうでもいい連中のヤジは次第に減っていく。
また、自己利益しか考えない既存の冒険者ギルドとは違うという評価も得られた。
世間的にも、ノートンの行動は好意的にとらえられている。
「いつもありがとうね」
「いえ、こちらもこの工房のポーションが無ければ大変な事になりますから。
これが今回分のお代です」
なにより、ノートンはポーション工房の信頼を失わずに済んだ。
いきなり(彼らにしてみれば)大口の仕事がなくなるところだったのだ。もしもノートンが動いていなかったら潰れていた工房があっただろう。
だがノートンが早く動いたことで、潰れた工房は一つもない。
それどころかノートンのポーション鑑定を頼る冒険者ギルドがどんどん増え、そろそろ人を増やさねばならないのではないか、というところまで事業を拡大する話も出ている。
新規で仕事をしてくれる工房を探さなくてはいけないかもしれない。
そうは思っても、腕と人格を信用できるポーション工房はそこまで数が無いので、どうにもならなかったりするのだが。
「アルゲニア工房はどうなの?」
「話を一回持っていったんですけどね。こちらの要求とうまくかみ合わないので諦めました」
事業拡大に伴い、もっとポーションが欲しい。
そう考えたノートンはキャリーの伝手を使ってアルゲニア工房に仕事の依頼をしたのだが、上手く値引き交渉をできず、他の条件のすり合わせも失敗して商談がまとまらなかったのだ。
実はも何も、ノートンの古巣に対し大幅な値下げをしているため、他のポーションは値引きが出来ないところまで追い込まれているのだが、当然ノートンはそんな裏の事情など知らない。
アルゲニア工房は大手のポーション工房なので、中小冒険者ギルドの職員でしかないノートンを見下したのだろうと考えている。
町のポーション需要は供給過多気味だ。
そんな中で事業拡大が必要になるほど、ノートンのポーション販売は好調である。
そうなると、どうしても「売れ残りを出す工房」が出てくるわけで……。