仕入れ担当ノートン
とある街のとある冒険者ギルド。
そこではポーション仕入れ担当職員のノートンが、ギルド長からクビを宣告されていた。
「ノートン君。悪いが、君には来月で退職してもらう。
後任のキャリー君に仕事を引き継いでもらうが、君からの引継ぎはギルド内だけにしてくれたまえ。取引先などについてはキャリー君が対応するから」
「そんな! 俺はこのギルドで5年仕事をしてきたんですよ! あんまりじゃないですか!」
「ノートン君。君よりも、キャリー君の方が優秀だった。そういう事なんだよ」
そう言ってギルド長のマックスは、ポーションの瓶を机の上に置いた。
「鑑定してみたまえ」
「……中級の回復ポーション。質が良いですね。傷を癒す効果だけに特化した分、効果は高め。仕入れ値は、1本200ゴールドでしょうか」
「なかなか良い鑑定結果だね。だが、一つだけ間違いがある。
そのポーションの仕入れ値は、150ゴールドなんだよ」
「嘘でしょう!? 採算度外視でも180ゴールドは取らないと赤字ですよ、これ! 150ゴールドなんて捨て値じゃないですか!
売れ残りならまだ分かりますけど、まだ新しいポーションですよ!」
ノートンはギルド長がどうしてポーション仕入れ担当の交代を決めたのか、これで理解した。
ノートンがどうやっても目の前のポーションを仕入れることが出来ず、後任のキャリーという人ならそれが出来るから、より腕のいい仕入れ担当に仕事を任せるのだと、そう言っているのだ。
つまり、より優秀な人間を採用する、組織として正当な権利行使だと言っているのだ。
だが、言われる方はたまったものではない。
「そうだ。仕入れ量と品質管理! 不良品が発生したときの条件! そこで――」
「仕入れ量はこれまで通りで融通も利く。何の問題も無いよ、ノートン君。それに検査者は別に置き、発見された不良品は即時返品を義務付けている。
私も経営者だ。そんなところで引っ掛かるほど間抜けではないさ」
ノートンは何とか反撃の糸口を見付けたいが、僅かな光明もあっさりと潰えた。
がっくりと項垂れる。
マックスはそんなノートンに最後の通告をする。
「君のクビは確定事項なのだよ。覆るとは思わない方が良い。
あと一月の猶予があるのだ。その間に次の職場を探したまえ。君ほどの男なら、すぐに次の職場も決まるさ」
「は、い……」
長い間頑張ってきた職場。
そこで結果を出してきたにもかかわらず、クビにされたノートン。
ギルド長のもとを去るノートンの背中はすすけていた。