事前準備
「ユカー、そんな事でパンティなんか濡らさないでよ。私とケンジはまだキスもしてないわよ」
「やった! それじゃあまだ私にもチャンスはあるのね」
「あのー、ユカちゃん、モモちゃん。一応ここは学校内なのだから、もう少し押さえてね」
「えっ、そんな。モモのパンティを押さえてもいいんですか?」
「ユカちゃん、ここ、ケンジ君もいるのよ。ほら、彼困ってるじゃない」
ケンジは、モモとユカの話を聞かないように耳をおさえている。しかしなぜか顔は真っ赤になっていた。
「仕方ないわね、この続きは後で私の家で、『しましょ』、モモ!」
「ダメよユカ、私は真っ直ぐ帰るからね」
それ以上やると、さすがの私も怒るわよ。ユカ先生がキレ始めていたので、モモもユカも流石に大人しくなった。
――
「うーん、ケンジ君が不調になった時の波長はこれなんだけどねー。なんか、特別に変わった事があるとは思えないなあ」
「ちょっとー、みんなもそこでシュンとしていないで、ちゃんと見て感想を聞かせてね」
「はーい!」
……
「あれ? この波形のこの部分が少し歪んでませんか?」
ケンジが自分の波形を見ながら不思議そうに言いだした。
「何かイメージとして、波形ってもう少し尖ったイメージなんですけど、実はそうじゃあ、ないんですね」
「うん、実際にはこの波形は質量分析器「はかる君」の測定値を時間経過で表示したものだから、あまり尖った波形にはならないのよね。なんていうか、音楽で言う処の、高域フィルターがかかった感じかな」
例えばね、そう言いながら、ユミ先生は、キーボードをカチャカチャとたたき出した。
「高域のフィルターをもっとかけると、ケンジ君の波形ももっと滑らかに出来るの」
ユミ先生がキーボードを叩く度に、ケンジの測定波形に見えていた急峻な部分が滑らかになる。
「あ、ユミ先生、ここの部分の波形を見てください。ここです、一番波形の大きな部分。ここ、波形が潰れてるように見えませんか?」
モモが波形を指さしながら言った。
「え? ちょっと待ってね。高域フィルターを元に戻すからね。そのために潰れてたりすると困るからね」
ユミ先生は、パソコンの前で、キーボードをたたく。
「どう? モモちゃん」
「ユミ先生、その何とかフィルターを基に戻したら見えなくなっちゃいました。やっぱり、私の勘違いかなー。
「ユミ先生。波形が潰れるのと、高域フィルターとは意味ないと思いますよ。高域フィルターは、尖った部分を滑らかにするだけで、波形そのものを潰す訳ではないですよね」
ユカが、口に手を当てて、考え事をしながら言った。
「そうよねー。ユカちゃんの言う通り、高域フィルターは、波形を滑らかにするだけですものね。
他の時間のケンジ君の波形を、高域フィルターをかけて見てみようか?」
ユミ先生の指は、芸術品の域に達していた。ほとんど、三人には指先が見えないくらいのスピードだ。
「さあ、これはケンジ君が不調になる前の波形に、高域フィルターをかけた状態よ」
「ええとー、確かに波形は全体に滑らかになってます。でも、さっき見た波形の潰れはありませんね」
モモが、波形を見ながら、ユミ先生に答えた。
「そうね、さっきの様な波形の潰れは見えないわね」
いつの間にか、ユカがモモの直ぐ横に座って、同じように答えた。
ケンジはモモとユカの気合に気圧されて、画面に近づけないでいた。女の子は、怖いなあと、一瞬思ってしまった。モモとユカの女の気合が、二人の間で火花を散らしているのが見える様だった。




