並行世界
「さて、諸君。ここに集まってもらったのには理由がある。今後の並行世界への探検計画を少し修正する必要があるかどうか、を検討したいのだ」
議長が会議室にいる人間達を見回しながら言う。
「今から、ンファの持ち帰った記憶を全員に展開するので、その後で皆の意見を聞きたい」
会議室に集まった全員が、頭にヘルメットを着ける。この世界では、このようにヘルメットを経由して、平行世界で経験した記憶を全員に共有できるのだ。
個人の記憶を全員の記憶として共有すれば、個人の思い間違いや誤解と言った、不確実な要因を取り除くことが出来るからだ。
ただし、いくら同じ情報を共有しても、その情報を解釈するのは各個人となるから、判断結果は個人個人で異なる事になる。
そのためには、やはり全員の意見を聞いた上で、最前の判断を下すべきだろうというのが、上層部の判断だった。
*** ***
――、以上で、並行世界 A305 の最新報告は全てだ。
「この結果を各人が判断した上で意見を言って欲しい。当然、各人の意見は余計なオフセットがかからない様に、全て音声を変えて誰が発言したか分からない様にする。そして各人の横には、発言しているかどうかもわからないようにパーティションを立てる」
この会議の議長をしているチーフと呼ばれる男が手元のスイッチを触ると会議室の各人の間にはついたてが現れた。
会議に参加した人間がお互いに顔を合わせる事が出来ないくらい大きい壁の様なついたてだ。
これでは誰が喋っているか、横からは一切見えないだろう。
「それでは、わたしから意見を言わせてもらおう。一応Aとさせてもらう」
会議室の中で、誰かが話し出した。
「今回の探検はハッキリ言って失敗だったと思う。探検者のイメージから感じたのは、完全に並行世界の向こう側の人間を怒らせてしまった、としか思えない」
語気に、すこし怒りが籠っているような話し方だ。
「並行世界 A305 は、資料を見ると非常に好戦的な世界の一つであろう。今度、その怒らせたチームと遭遇したら探検者の命の保証は出来ないぞ。彼らは、我々と同じく心の交換した人間を判断する事が出来るのであろう? 彼らの技術的な進歩スピードを考えると、近い将来にまた遭遇する可能性が高いと考えるのが当然だ」
他の会議出席者に同意を求める様に付け加える。
「そもそも、好戦的な世界は、かなりの高確率で文明が戦いによって自滅する。我々は、その終末を嫌というほど見てきた。探検者の命を危険にさらしてまで、これからも A305 を探検する必要は無い。それがわたしの意見だ」
直ぐに、別の出席者が話し始めた。
「それでは、次にわたしの意見を言わせてもらおう。発言者Bとしておこう」
先ほどとは異なり、落ち着いた雰囲気で話をする。
「確かに、今回の接触方法は失敗だった。しかし、次に遭遇したら殺されるというのは考えすぎだ。
確かに並行世界のランクとしてはAが付くぐらい好戦的な人間がいる世界らしい。既に世界全体を巻き込んだ戦争を二回も経験しておる。しかも、世界中を数十回焼き尽くしても余りある核兵器まで持っている。そんな危うい世界でも、まだ世界が滅んでいないのには、何らかの理由がありはずだ」
さらに自分の意見に同調する仲間をふやすように、丁寧な話をする。
「怒りを抑え込める力を持っているのか? それとも怒りを抑えるための手段や方法を身につけているのか? もしかしたら、我々の様に話し合いをする事が出来るのかも知れない。Aランクの並行世界で破滅していない並行世界は実はもう少ない。その世界の秘密を探るのも今回の探検の目的の一つではなかったか? 」
出席者に、問いかける。
「次回はもう少し穏やかな会話をする事が出来れば、事態は好転するというのがわたしの意見だ。
だから、この探検は継続すべきだ」
「誰か、発言者AとB以外の意見はあるか?」
議長は、その他の意見を求める。




