ユカとタクヤ先生
「それは、自分がそう言い張っているだけじゃあないんですか? 失礼ですけど、良くある多重人格のたぐいで説明出来るんじゃあないのですか?」
ユカは、タクヤさんに疑念をぶつけた。
「そうだよね。それが普通の反応だろう?」
タクヤは、待ってました、とばかりに答える。
「でもね、その疑念は明確に否定できるんだ」
タクヤは、ユカに対して人差し指を立てて左右に振りながら、説明を始める。
――
第一に、心を交換された人物には精神的な疾患が認められない。これは、直前に病院の精密検査の結果で確認されている。病院と言っても、そこら辺の怪しい病院では無いよ。ここの大学の付属病院だからね。
第二に、その人物は先ほど説明した心と体の結合状態を測定する装置を付けていたので、時間経過による状態の変動をモニターしていたんだ。良く病院の心電図をモニターする機械を見たことがあるだろう? あのイメージだよね。
心と体って強固な結合をしていなくて、フラフラしているんだ。それを液晶ディスプレィで波形としてモニター出来るんだ。しかもその波形は個人個人で異なるんだ。
その状態で、心だけ入れ替えられるとどうなるか? その波形が、全然別の波形に変化したんだよ。そして、心を入れ替えられた人物が元に戻ると同時に、波形も元に戻ったのさ。
まだ、見逃している事柄があるかもしれないけどね。
でも、今までの経過を考えると、別の誰かの心が、その人物に入ってきた、そう考えるのが一番素直な結論なのさ。
――
タクヤはそこまで一気に話をしてから、マラソンランナーが給水所で水を飲むかのように、コーヒーをゴクリと飲んで、喉の渇きをいやした。
ユカは、そこまで聞くと、白くて細っそりとした指を口元に持って行きながら、今タクヤさんから聞いた話を頭の中で整理しているようだった。
「分かりましたわ。タクヤ先生……。このシチュエーションで、ある人物という表現を使ったのは、私を試しているのですね? ある人物とは、ケンジ君かモモちゃんのどちらか? ですね。だからこそ、私達の学校を標的にしたのでしょう?」
数学の難問を時間内に解けたような、すっきりとした顔でユカはタクヤに問いかける。
「イヤァ~~、試した訳では無いんだけどね……。でも、さすが全国3位は伊達じゃ無いね。恐れ入ったよ。もう、明日からこの研究室に来て欲しいね。でも、そうなるとケンちゃんや、ユミちゃんのライバルになるよな」
タクヤは、少し不謹慎ながら、うれしそうに答える。
「あら? もしかしたら、ですけど……。ユミちゃんて、最近教育実習生として学校に来ているユミ先生も、タクヤ先生の息がかかっていたりしますか?
「ぐッ、しまった!」
タクヤさん、イキナリ口を手で覆う。
「タクヤ先生! そこは、しらばっくれる所でしょ! ダメですよ、『しまった』なんて言ったら。
ユカさんの仮定を、認めたようなものじゃ無いですか」
そう言いながら、裏のモニター室からユミさんがのっそりと出てきた。
「あ! ヤッパリ! ユミ先生も、ここの一味だったんですね!」
「やめてよ、ユカさん。その、『一味』(いちみ)みたいな変な言い方。
ユミさんも笑っている。
「タクヤさん一味ですか?」
ケンジは、チョットおどけて言った。
「ウフフ、でもなんか楽しそうな一味よね」
モモちゃんも合いの手を入れる。
「でも、私なんかよりも、ケンイチロウさんの方が遥かに凄いんですよ。だって、ケンイチロウさんは、私の通っている予備校の伝説ですもの……」




