心の研究
ユカの鋭い突っ込みに、タクヤさんは、一瞬たじろいだ。
え? このミニスカ―トの女の子、すっかり外見に騙されそうになったけど、実はすごく頭切れるんじゃないか? ーー
「ユカ~。また、人の話に突っ込みいれるんだから~」
モモがそこで話を区切った。
「ごめんなさい、タクヤ先生。ユカって、人の話を途中までしか聞かないんです。一を聞いて十を知るっていうんですか、あの乗りなんです」
「まあな、伊達に高校模試、全国三番じゃあないよな」
ケンジも合いの手を入れる。
「タクヤ先生、こいつの見かけに騙されちゃあだめですよ。今日の服は攻めてて、一見すると遊び人のように見えますが、身持ちは堅いですよ。それでいて、学力は学年トップで、全国三位なんです。タクヤ先生と同じで、論理的に矛盾があると、鋭い突っ込みを入れてきますから、気を付けてください。俺なんか、いつもコテンパンに言いくるめられちゃうんですから」
「あら、ケンジ君、それは少し違うわね。言いくるめているわけでは無くて、ケンジ君の文章を、論理的な矛盾が無くなるように修正しているだけよ。だって、貴方も私の好きな人リストに載っているんだもの。ここだけの話だけど、結構リストの上位にいるから、モモちゃんに振られたら言ってね。その時は、リストの順位に変更を入れないといけないから」
ユカはケンジの方を振り向いて、さらりと言う。
「おいおい、ケンジ君! 先に、その情報を教えてほしかったな。それなら、それで、ぼくもアプローチの方法を代えなきゃあ」
タクヤさんは、スケベなおじさんから、突然まじめになって答えた。
「やはり男という生物は外見から入るのかなあー、少し反省します」
タクヤは、そういうとユカの方を向き直った。
「それでは、もう少し話をしようか、ユカさん」
「精神的な部分と体との因果関係の調査、は確かに我々の研究テーマの一つなんだ。ただし、あくまでもテーマの一つに過ぎない」
そこで、タクヤは一呼吸して、ユカをみながら話を続ける。
「我々は、また他のテーマの研究も行なっている。それが、心の研究なんだ」
「心の……。研究ですか? 心って、測定対象として認識出来るのですか?」
ユカは、その攻めてる服装とは似ても似つかない事を語り出した。パンツが見えるぐらいのミニスカートを履き、黒のニーソックスで太ももギリギリの素肌をチラリと見せている外見は、どう見ても遊び人のお姉さんか、コスプレ大好き腐女子にしか見えない。
まあ、ある意味では腐女子なのかもな……、ケンジは、ユカを見てて、そう思った。
「ユカさん。『心を測定対象に出来るか?』、突き詰めると、『心』を対象として明確に出来るか?
という事だけれど、それは僕たちも把握できていない。でも、測定対象そのものが明確に出来なくても、その対象があると仮定した方が、物事の説明が進む場合。又は、その対象があると仮定した場合に、ある測定結果の解釈がシンプルな法則に従う場合。僕たちは、その仮定した物が現時点で認識できなくても、受け入れる事は出来るんだよ」
タクヤは、先ほどとは違って真面目に話し続ける。でも、目はユカのミニスカートからチラチラ見えるパンツの方を向いている。
「例えば、ほんの五十年前には、相対性理論の様に、光が曲がったり、時間が遅くなる現象は、測定不可能だった。それに、そんな事は常識的に受け入れられないことでもあった。しかし、強力な重力の下では、相対性理論を導入すると、全ての原理がスムーズに説明できるんだ」
タクヤは、目に飛び込んで来る、ミニスカートの隙間からチラチラ見えるユカのパンツを避ける様に立ち上がった。
「もっと易しい比喩で言えば、万有引力と地動説かな。星の複雑な動きは、実は天動説でも説明できるんだ。だけど、その法則は複雑極まりない。しかし、万有引力に従って天動説を導入すると、万有引力の法則一つで全ての星の事象が説明できる様になった」
タクヤは、さも驚いた、というように両手を広げた。
「まだ、重力波さえ測定出来ないはるか昔に、重力波の概念による万有引力を受け入れたんだよ。凄いと思うし、尊敬もしてしまうね。まだ『心』はどこにあって何で出来ているか? 本体そのものも、測定方法もわからないんだ。でもね、『心』がある、と仮定すると測定が簡単になる事象があるんだよね。僕たちは、その事象を追いかけている」
タクヤは、改めてユカの方に向き直って、訪ねる。
「どうだい? ユカさん、理解してもらえるかな?」
「タクヤ先生、ハイ。大丈夫です。その様な事であれば、私も腑に落ちます。現象論としての合理性を求めた場合に、その説明を簡単にするための仮定を加える事は、現在の科学ではごくありふれた事ですものね」
ユカが、タクヤの説明に即座に反応しているのを見て、横で、モモちゃんが目を白黒させていた。




