波形の秘密
「ユミちゃん! ヒントをありがとう!」
ケンイチロウは、同じ大学院生のユミちゃんにお礼を言った。
「波形を見て安心するか、不安になるか、かー。動きに注目してたけど、そうじゃあないんだ」
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シンイチロウは腕を組みながら考えこんだ。
やはり、体が拒否反応を起こしているんだろう。その結果として、波形に何かのノイズが乗るんだ。それが見る人に不安感を与えているという事だと思うんだ。
じゃあ、不安感て何だろう?
多分、人間が無意識に見ているものなんだろう。例えば、音楽でも聞いていて気持ちのいい音楽と、不安になる音楽があるものなあ。それに、扇風機でも気持ちの良い風の動きがあるらしいし。それらは、人間の感覚としては気持ちよく感じる為に何かの条件を満たしているんだ。
その条件から外れた音や風は、人間には不安や不快に感じられる筈だ。感覚のようだけど、体は論理的な調和を無意識に求めている。
波形の中に、秘密があるんだ……。
そうか! アレかも。ようし、周波数別のスペクトル分析をやってみようか。おお! 確かに! これが、その正体か? よし、今から研究室のみんなに意見を聞いてみよう。
―――
「えー!」
「ふーん!」
「なーる!」
研究室の一角にみんなを集めて、ケンイチロウの今までの推論を聞き、最後に心と体のリンクを波形にした画像を見せる。さらに加えて、その波形を周波数ごとのスペクトル分析したものを表示すると、皆んなが一斉に声を上げた。
***
一般に、波は複数の基本波形の合成になる。基本波形というのは、物理や数学でよく出てくる、サイン波みたいな波の事だ。周波数が高くなると波の感覚が短くなり、周波数が低いと波の感覚が長くなる。
全ての波は、この基本波形の周波数と波の強さの合成で作り出せる事が分かっている。(詳しくは、フーリエ変換でググって下さい)
今回の波形をスペクトルで見ると、ケンジもモモちゃんも、特定の周波数のピークが綺麗に出ている。そのピークの周波数の位置が高いと、激しい動きに見えるし、周波数の位置が低いと、緩やかな動きに見える。
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ケンジのスペクトル波形は、ピークの周波数が高い方、モモちゃんは低い方。でも、どちらも、綺麗なピークになっていた。しかし、ンファがケンジを乗っ取った時のスペクトルは、綺麗なピークが出ていなくて、全体にバラバラになっていた。
その波形を見て、驚きが落ち着いた後でケンイチロウはみんなに声をかけた。
「これが、ユミちゃんの言う落ち着かない波形の正体だと思います」
「確かにね! これは、並行世界の人間に乗っ取られたかどうかの判定に使えそうだね。例の、はかる君1.5も使いやすそうだし。早速教授に頼んで予算化を進めよう」
タクヤさんは嬉しそうに言った。
「後は、はかる君の出力波形を高速でスペクトル分析出来るフーリエ変換プログラムの開発だな。それは、大学の若い子にプログラムの修行と言って押し付ければ良いだろう。プログラム大好き少年なんかいくらでも居るからな」
タクヤさんは、並行世界から来る人間に対して、備えが着々と進んでいる事に満足げな顔をした。




