ンファの上司
「やあ! ンファ君、どうだった、今回の旅行は?」
チーフと呼ばれるこの機関のリーダーは、ンファに椅子に座る様に促しながら聞いてきた。勧められた椅子に腰掛けてから、ンファは話しだした。
「イヤー、今回の旅行は、ハッキリ言って、失敗でした。向こうの世界でも、体と心のリンク状態をモニターすることが出来る機械が極秘に開発されつつあるようです。今回、新しく転送した少年は、運悪くそのモニターの被験者だったのです」
ンファは、持ってきたコーヒーを一口ごくりと飲んでから話を続ける。
「転送したら、最初はいつも通り不思議がっているだけだったのです。しかし、リンク状態の違いがバレてからは、ほぼ取り調べ状態でした」
「なんだと? そうか……もう少し物質優先の文明かと思って安心していたんだが。心と体の秘密を研究分野にする人間も現れたという事か……」
リーダは、腕を組んで何かを考える。
「そうなると、少し計画を変更しないといけないな。正直、あの世界は、機械優先の世界になりつつあったから、このまま機械に飲み込まれてしまうのか? と不安視していたのだがな」
ンファの方を見ながら話を続ける。
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今まで見てきた世界では、機械優先になり始めると加速度的にその傾向が強まっていくからな。そして、最後は全てを機械化してしまい、人間は滅ぶんだ。
言い方が悪いか……生物的な人間が全滅するのでは無く、人間としての意欲が消え去るというのか、心が折れるというのか、要するに自分で何も考えなくなるのだ。
もうそうなると、我々との心の交換も無意味だ。何しろ、誰の所に転送しても、皆同じ夢を見ているだけだからな。
全人類が、スリープボックスの中に入れられて、夢の中の世界を生きている。その世界がマヤカシである事さえ忘れて、夢を見続ける世界なんてどうかしている。
しかし、我々はその世界に干渉する事は禁止されているから、もう二度とその世界に飛ばないだけだ。そんな世界を何回見てきたことか……
まあ、今ターゲットにしている世界では、そこまで極端では無いのが救いだな。戦争も有るが、限定的なようだし。昔に比べて随分と大人しくなった。
数十年も前に大きな世界大戦を二度も経験して色々な事を学んだのだろう。それ以後も何回か戦争は起こっているが全て限定的な戦争で、世界大戦になる前にギリギリのレベルで回避している。他の並行世界に比べたら、結構良くやっている方だと思う。
ンファは知らないだろうが、世界が終わる瞬間に立ち会う経験は、あまり良いもんじゃあないからな。
どんどん世界が荒廃して行き、世界中の人間の心も荒れていくんだ。誰が見ても、破滅への道なのに皆が目をつぶってその道を突き進んで行く。誰かは気付いているのだろうが、もう誰にも止められないのだろう。
そこに至る前に、引き返す道はたくさんあった筈なのにな。誰かがその道に気付いて、ほんの少しだけ進む道を変えていれば良かったのに。
しかし、我々はその世界に干渉する事は禁止されているし、もうそこまで進んでしまったら干渉する事も出来ないだろう。我々トラベラーは何も出来ない事が歯がゆいのだが、それも運命だと割り切るしかない……
しかし、人間の心を大切に研究しているグループも居たんだな。機械化への道以外に色々と模索している世界なのだろう。それは素晴らしい事だ。今回調査している並行世界は、結構良い世界じゃないか。
だが、我々トラベラーとしては、非常に困った事だ。一度方針を再検討して上層部の判断を仰ぐまでは、トラベル中止とするしかないな……
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