ンファの世界
「チーフ!」
色とりどりの機械を操作している技術者が大声で叫ぶ。
「トラベラーNo.95 ンファ、ただいまこちらの世界に戻ってきた事を確認しました。
本体の催眠状態の解除をお願いします」
「よーし。フィジカル・コントローラ! ンファのスリープを解除するんだ!」
他の作業員より一段上に座っている、チーフと呼ばれる人間が別の担当者に指示する。
「イエッサー、チーフ! スリープ解除ー!」
ブーン、
カチャン
ンファの体を覆っている透明なカバーの中に充満していた白色の気体が徐々に薄くなっていく。
グイーン
白色気体が全てなくなると、透明なカバーが上に開き始めた。
ガチャ
カバーが完全に開ききると、横たわっていた、ンファの体がピクリと動き出した。
「あーあ、体がだるい。睡眠用のガスも、もう少し寝起きが良くなるように改造して欲しいなあ」
ンファは、一度大きな伸びをしながらつぶやいた。
今回は予想外の反撃を受けたので、少し機嫌が悪いンファだった。
「トラベラーNo.95 ンファ。10分間の休憩後、チーフの部屋に出頭しろ」
起きたばかりのンファに、チーフから容赦のない命令が与えられる。
「はいはい、了解しました。まったく、チーフは人使いが荒いなあ。体がまだ本調子じゃあないのに、直ぐに出頭か。とりあえず、寝起きのコーヒーでも飲んで来るか」
そう言いながら、ンファは、トラベラールームと呼ばれる睡眠装置の並んでいる部屋からカフェテリアに移動していった。
「いらっしゃいませ!」
「すみません、コーヒーのレギュラーサイズを一杯ください。あ、ミルクと砂糖はひとつずつで」
「はい、お待ちどうさま! ミルクとお砂糖はひとつずつですね」
ごくごく。
プファーっ
やっと、落ち着いたよ。
全くやんなっちゃうよな。心の交換て、ある意味博打と同じだからな。交換して見ないと、本当にわからない事が多いよ。だからこそ、我々の世界でも心の交換は裁判所からの正式な許可が得られないと行えない様になったんだものな。
じゃあ、並行世界に行けば自由かといえば、実際には命がけだからなあ……今日行ってきた並行世界なんて、本当に数少ない平和な世界だものな。実際には紛争地帯もあるらしいが、世界の中の限定された場所で行われているから、その場所に飛ばない様に注意すれば、よほど運が悪く無い限りは安全な移動だからな。
他の並行世界なんて、地球全部が紛争地帯で、並行世界に行っても帰ってこれないメンバーがかなりの数に上っていたらしいからな。私がこのセクションに来る前は、並行世界に飛ぶなんて、そんな危険なミッション、みんな拒否してたから。
並行世界でも、日常的に平和な世界を見つけ出すのにどれだけの犠牲を払ってきたのか? 本当は分からないからな。
どうして人間てそんなに戦争が好きなんだろうね。冷静に考えたら分かるはずなのに、戦争で自らの首を絞めている。私達の様に、色々な並行世界を見てきた人間から考えたら、本当に平和な世界が一番なんだよ。どうして今日の学者さんみたいに、みんな喧嘩腰になるのかな?
私達が、こっそりとやってきて、世界を征服しようなんて考えて入るのだろうか? それこそ、そんな事に意味がないのを一番分かっているのは私達なんだけど。まあ、コッソリと来た点が気に入らなかったんだろう。
そりゃあそうだろうな、私も自分だけ仲間ハズレにされたら、怒るものな。しかし、全てを教えるわけにいかないのも、また事実だし。
あーあ、やになっちまう。
さて、ソロソロ、チーフの部屋に行って報告してくるか……




