タクヤさんの報告
―――超高精細質量測定器を使った、人間のリアルタイム質量変動観測技術の経過報告レポート―――
本研究室では、重力波検出器による、人体の実時間超精密測定を試みている。
本レポートでは、その進捗状況と今後の展望に関して報告するものである。
人体の質量変動は、体表面からの発汗作用ならびに、体毛や皮膚片の脱落等により、緩やかな変動が観測される事は、前回の簡易質量測定器による経過報告で明らかにしてきた。
しかし、今回はその測定精度を上げる事で、それ以外の変動要因に関して新たに検討すべき項目がある事が判明した。
現時点で観測されている質量の時間軸変動幅は短い場合で1ミリ秒、長い場合でも100ミリ秒以内となる。質量の変動幅に関しては最小で10マイクログラム、最大では10ミリグラムに達する。
従来の測定結果から、体表面の発汗の場合は、そこまで短い変動とはなり得ない。
また、体毛の脱落等の場合、質量の減る方向にしか変動しない上に、値の変動が急峻である。
現在、それらの情報を検討した上でなお、個体差による質量の変動を明確に観察する事が出来ている。
また、測定装置固有のノイズや、外部からの異常な干渉等、測定対象からの重力波を用いるという本測定装置固有の測定方法による、測定値異常に関しては、同時に複数台の測定装置を同一環境下で使用することにより、十分な補正がなされている。
以上の検討結果より、本事象は、測定対象に対して現時点では明確に説明出来ないなんらかの要因が作用していると推察出来る。
今後は、測定対象を広げる事で、現時点では説明出来ない質量変動要因を解明していく方向で進めていく。
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「はあー。まあ、こんな感じですか? 教授」
タクヤさんは、今回の顛末を教授に報告に来たついでに、現時点での報告書を教授に見てもらっていた。
「うん。よく書けているよ。
特にこの、現時点では説明出来ない『なんらかの要因』なんて部分最高だね。
もう、『体と心の接続強度だ!』って言い切っちゃえば良いのに……」
教授室の椅子に座って報告書を見ていた教授は、タクヤさんをちらりと見ながらお茶目に呟く。
「またー。教授も変な事言わないでくださいよ。そんなことしたら、明日から俺この世界で生きていけないですよ」
タクヤさんは教授の言葉にどぎまぎする。
「また一人、ニセ科学に身を落とした奴が出たか! で終わりですよー。
ぱちもん学者のレッテルが貼られたら、もうこの世界では生きていけないですからね」
タクヤさんは、教授の方を見ながら『勘弁してくれ』という顔をする。
「俺も色々な先生を見てきました。
もちろん、俺の目から見ても、イッチャッタ、という先生もいれば、普通に頭の良い先生もいました。どうしてあんな物に手を出したんだろう?みたいな感じです。
数学の世界では、百年後に証明されて、名前が復活した、なんて話はゴマンと有りますけど、医学や科学の世界では、一度でも向こうの世界に堕ちてしまうと、もうマトモに取り上げてくれませんからね。
だから、俺もこうやって理解のある教授の下で、細々とやってるんですモン」
タクヤさんは、教授の前で少し本音を語る。
「理解のある教授、の所はもう少し太字が良いかな。
強調し過ぎても、し過ぎるという事は無いよ」
教授はタクヤさんの言葉に、ニコリとして言い返した。
「確かに、チョット敏感過ぎる所はあるな。
本来なら、どんな発想だってオッケーなはずなのにね。
その考え方が、もしも間違っていれば、遅かれ早かれ、自然に淘汰されて行くはずなんだ。
その良い例が、数学の分野だね。
まあ、僕は数学の素養が無いから詳しい事は分からないけど、数百年の淘汰をへて残った現代数学の上に、今の科学技術があると言っても過言では無いからね」
教授は、タクヤさんの報告書を揃えて、バインダーに閉じながら、少し寂しそうに付け加える。
「やはり、昔のヨーロッパで行われていた、宗教と科学がごちゃ混ぜになった暗黒時代の再現を恐れているのかもな。
まあ、この件はまだ当分は公に出来る話では無いね」
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