別の世界のワタシ
「タクヤさん、それから、ケンイチロウさん。そんなにムキにならないで下さい。本物のケンジ君の心は、ちゃんと僕たちが面倒見ていて、危害は一切与えません。安心してください。この僕が人質みたいな物です」
ケンジ君?と思っていた彼が、突然口調を変えて話し始めた。
「確かに、少し甘く見ていたのは事実かも知れません。シンクロ率の波形比較技術まで確立していたのは、正直想定外でした。タクヤさんの言う通り、この体はケンジ君その物ですから、どんな測定器を使っても肉体はケンジ君である事を証明してくれるはずです」
タクヤさんとケンイチロウは、半信半疑ながら、ケンジ君もどきの話を黙って聞く。
「そこに僕の油断があったのかもしれません。多少強引かもしれませんが、僕が僕であると言い張れば、結局は納得するはずだと思ってました」
「モモさんの件に関してはですね、少し長くなるのですが言い訳をさせて下さい」
ーーー
僕たちは、イヤ、僕達の住む世界と言うべきですね、体から心を切り離して、他の人間の心と入れ替える技術を確立しています。
しかし人間の記憶という物は、やはり主体は脳なのですよ。私たちが、他の人間の心を入れ替えても、その人間の記録は脳細胞が担っています。
だから、心を入れ替える時に元の体の記憶は心について来ないんです。心を入れ替えても、前の体の記憶が無いので、結局は人格が変わるだけになってしまうんです。
やっぱり、心を入れ替えたら、元の記憶も入れ替えたいですよね?
そこで、特別な方法で元の肉体の記憶を、心を入れ替えた人間に転送する技術も作りました。
でも、安心して下さい、入れ替えられた人間の記憶が消えたわけではありません。本来の脳が覚えている記憶はそのまま残して、そこに一時的に入れ替えた方の知識を転送する技術です。
要するに、ケンジ君の脳の一部に僕の記憶を一時的に埋め込んでいる形態をとるのです。
僕は今、ケンジ君の記憶と僕自身の記憶の両方を兼ね備えた状態になっています。
だからこそ、タクヤさんやケンイチロウさんとケンジ君が経験した過去の会話が出来るんです。
人間の脳は意識が強ければ強いほど記憶域に鮮明に記録されるらしいです。
モモさんの場合がそれに当たります。
僕が最初にケンジ君の中に入って、モモさんを見た時に、僕の脳には「モモ」と言う言葉が飛び込んで来ました。
ケンジ君の記憶としては、『モモ』と言う名前を覚えているだけだろうと思ってしまったんです。
しかし、実際には、モモさんの事を、親しげな意味で呼び捨てにしていたのですね。記憶を読む事と、その人間の行動原理とは、違うと言う事ですね。
ーーー
そうだよ! 人間なんて、複雑で制御出来ない生き物だよ!心に記憶が無いと言うけど、本当かい?強烈な意識は記憶として脳だけでなく、心にも残るんじゃ無いのか?君達の世界では、その領域の研究は進んで無いのかい?
タクヤさんは、ケンジ君もどきの話を聞きながら、納得していない感じだった。
「ケンジ君の安否が無事ならば、ひとまずは良しとするが……そもそも、君は何処から来たんだい?その答えを最初に言うのが、スジというものじゃ無いか?」
タクヤさんは、一番大事な話をしてきた。




